あやかしあかし | ナノ
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十二

日本の古きよき文化が残る町。名前と幸村が訪れたのはそんなところだった。
石畳を踏み締めながら、名前と幸村は視線をあちらこちらに移している。
「綺麗な町並み…」
「風情がありますな」
「あ、お土産屋さん。ちょっと覗いてもいい?」
「構いませぬ。誰かに土産でも?」
「うん、友達にね…これなんて可愛いなぁ」
小さなストラップを持ち上げた。
色が赤、青、緑の三種類あるようで、どれにしようか迷った挙げ句、全部買うことにした。
久美子の分と、名前自身へと、幸村への分。
ストラップを包装した袋を受け取って店を出ると、幸村が一点を指して嬉々と振り返る。
「名前殿!あそこに見えるは甘味処では?!」
「え?あ、本当だ…良く分かったね」
「是非行きましょうぞ!」
花より団子、風景より甘味なのだろうか。
二人並んで腰掛け、団子を頬張る。道行く人々を眺めながら茶を啜れば、和やかな時が流れ出す。
(昔の人も、こんな風にしてたのかな)
名前には確かめようのないことだが、目を閉じて過去のこの場所に想いを馳せてみた。
「…こうしていると、昔を思い出しまする」
不意に隣の幸村が、ぽつりと零した。
「遥か昔、こうして誰かと団子を食べておりました。あの頃も某は直ぐに甘味処を見付け…」
「そうなの?」
遥か昔とは、幸村の幼い頃の話だろうか。
「名前殿も思いませぬか?もしかしたら、自分の前世がこうしていたのかもしれぬと」
それはちょうど名前が考えていたことと同じだった。少し目を丸めてから、ふわりと笑む。
「…そうだね」
幸村とは考えが似ているようだ。


* * *


「…あ」
二人で通りを歩いているとき、ふと名前が横を見る。
そこは周囲の建物に追いやられた、狭い階段。申し訳程度に鳥居が建っている。
「神社のようでござるな…稲荷神を奉っておるようだ」
「神社か…ちょっと寄ってもいいかな?」
「ようござるが…」
言葉を濁して階段の先を見遣る幸村。明らかに寂れてそうだが、名前は何故か興味を示した。
長い階段を上り終えると、境内にたどり着く。雑草に覆われたそこの奥に本殿が佇んでいた。
朽ちかけた柱にやっとこ支えられた屋根から、錆びた鈴が吊されている。蓋が壊れた賽銭箱には枯れ葉が入っていた。
「…ずっとほうっておかれてたのかな」
「そうでござろう…ここで奉られているものは、聞いたことがありませぬ。遠い昔にもう、忘れられてしまったのであろう」
「……」
本殿に寄り、中を覗く。割れた鏡が立っていた。
ここに神がいるのかは分からない。
けれど名前は財布を取り出し、小銭を賽銭箱に入れた。鈴を鳴らして手を合わせ、静かに目を伏せる。
その行動に幸村が戸惑う気配を感じたが、一心に祈る名前は中々顔を上げなかった。
やがて目を開けた名前は、幸村を振り返る。
「たとえお参りする人がいなくなっても、神様はずっと私達を見守ってくれてるよ。ここの御稲荷様もきっと…だからありがとうって伝えたの」
「名前殿…」
「神様のお陰じゃないかな」
こうして幸村と出会えたのも。
その言葉と共に微笑む名前。
幸村は大きく目を見開いて、徐々に頬を赤く染めた。
「某は…」
言葉を詰まらせる。
一度苦い顔で地面を睨んだ幸村は、しかし首を横に振り、改めて口元を緩めた。
「某も、どんな形であれ名前殿と出会えたことに感謝いたそう」



2012.2.1