あやかしあかし | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




苗字名前、女子高生。普通科帰宅部、成績は中の中。平凡な人生をこれまで特に不満を感じることなく過ごしてきた。毎日同じ道を通り学校に通い同じ道を通り下宿先に帰る。同じことの繰り返しの日々。友人にも「アンタちょっとは変わった日常求めてみなさいよ」と叱られたこともあるが、かといって求めることはしなかった。今日も何時もと同じく帰宅していると、しかし何時もとは違う出来事が起こった。
道路の隅の方で、何かが沈んでいる。近付いてみるとピクリと顔を上げたそれは、中型の犬だった。息が荒く体を支えるのもやっとといった風だ。
「大丈夫…?」
そっと手を伸ばすと、大袈裟に反応する。怯えなのか怒りなのか牙を剥いた犬は、その勢いで名前の腕にばっくり咬みついた。
「ッ!」
牙が深く突き刺さり、あまりの痛さに顔をしかめる。すると犬はあっさり腕を離し一目散に駆けていった。
「あーあ…」
左腕に開いた二つの穴から溢れる赤を見て、いつもの帰り道から逸れることを決めた。
それは同時に、日常から外れることになるとも知らず。


* * *


「うわっ名前どうしたのそれ?」
「あ、久美子お早う」
「おはようじゃないって!左腕!怪我?」
あの後、病院に寄り手当を受け、その翌日、学校に来た途端友人の久美子が目敏くそれを見付けた。
「昨日の帰りに犬に噛まれちゃって」
「犬ぅ?野良?珍しいねこの辺で出るなんて」
「うん、私もビックリしたけど、あっちもビックリしちゃったみたいで」
「はぁーもう、鈍臭いんだから…」
「えへへごめん」
「ごめんはいらないから、次からはもっとちゃんと気をつける!」
「はーい」
お節介な久美子はまるで母親のように名前の世話を焼く。名前自身それが嫌な訳ではないし、時々抜けているところがある自分にとってむしろ有り難いものだった。
小さなことですぐに満足してしまう名前は友達と呼べる人も少ない。そんな彼女にとって久美子は大親友だった。だから、気を許して色々話してしまいたくなる。
「でもあのわんこ、随分弱ってたみたいだけど…」
「なにアンタ噛んできた相手のこと心配すんの?…そういや動物好きだったっけ。ここらじゃ餌もないだろうし、今頃どっかで野垂れ死んでるかもねー」
「え…」
「ってウソウソ冗談!そんな泣きそうな顔しないの!」
慌てて久美子が取り繕うが、一度芽生えた不安は中々消えない。苦しそうに浅い呼吸をしていた姿を思い出し、放課後町を探索してみることにした。


* * *


待ち侘びた放課後がやっと訪れ、名前と久美子は玄関に降りた。何やら校門が騒がしく、何時も以上に人だかりが出来ている。
「うわっちょっと名前!見なよあれ!」
久美子が黄色い歓声を上げた。その指差す方を見てみれば、女子が多い人だかりの中心、少し開けられたスペースに頭一つ飛び出させた人がいる。凛とした立ち姿、きりりとした眉の精悍な顔付き、何と無く不思議な衣装を身に纏い、真っ赤な鉢巻きと一房だけ長い髪を翻す青年は、成る程所謂イケメンだ。彼は校門の奥に視線を飛ばし、誰かを待っている様子だ。
「うわーすっごいカッコイイ!ここの生徒の知り合い?ジャニーズ系?!」
「知らないよ…私達には関係ないし」
隣で騒ぐ友人に適当に相槌を打ち青年を眺めていると、不意に目が合った、ような気がしたがこちらから直ぐに反らした。ああいう女の子にモテそうなタイプはちょっと苦手だ。(早くわんこを探しに行こう…)
なんとか校門を潜ると、さっさとその場から離れた。



2012.1.13