あやかしあかし | ナノ
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「名前、アンタこれから暇?」
久美子がそう切り出したのは、放課後のこと。
「え?」
「ほら、最近話題じゃん。駅前に出来たカフェ。これから時間あんなら寄ってかない?」
「えっと…今日は買い出しの予定があって」
「なにぃ?最近付き合い悪いぞ名前ー」
「ごめんね、また今度誘ってほしいな」
「言われなくともそうする、じゃね!」
慌ただしく出ていった久美子に手を振って、名前もまた教室を後にする。
これから家に帰り、幸村を連れ出すつもりだ。
(一緒にいるところを見られて、変な噂とか立つかな?)
しかし名前はもともと気にしない質だった。幸村も、何やら浮世離れしているし、噂なんて関係ないだろう。


* * *


「名前殿、これはなんでござるか?」
「それはガムだよ。噛んで味わうお菓子」
そう返すと幸村は手に持っている直方体のそれをしげしげと眺める。
どうやらスーパーに入ったのは初めてらしく、魚や肉が整然と並べられているのを見て目を丸くしたり、それに近付いた途端冷気に吃驚していた。今もお菓子コーナーで見たことないと言わんばかりにスナックを物色している。
(本当に浮世離れした生活をしてたんだなぁ…)
名前はぼんやり、
「坊ちゃま、今日のスイーツはスイスより取り寄せた極上のミルクで作ったワッフルでございます」
「うむ。じいやの作るものはいつも美味いな」
「恐れ入ります。今日の紅茶はダージリンにいたしました」
というやり取りをベランダで交わす、じいやと幸村の姿を思い浮かべた。
ふと視線を感じて意識を戻すと、マー〇ルを握り締めた幸村がひたすらこちらを見詰めていた。
「…それも買おうか」
「ようござるか?!忝ない!」
嬉しがってはしゃぐ幸村は、全く子供っぽい。先程想像した、じいやに紅茶を注いでもらっている姿はまるで別人だった。
(やっぱり分からないな)


レジを済ませ、買った物を袋に詰める。結構な量を買い込んだため、大きな袋が二つ、パンパンになってしまった。
幸村に一つ頼もうと振り返る。と、名前が口を開く前に幸村が二つとも軽々と持ち上げてしまった。
「わ、重くない?一つ持つよ」
「この程度、造作もありませぬ」
涼しい顔で言ってのけた幸村は、確かに中々体を鍛え上げているようで、腕の筋肉がしっかり荷物をぶら下げている。
(頼りになるなぁ)
さっきまであんなにはしゃいでいたのに、今の幸村は頼れる格好良いお兄さんだ。
頼もしい姿や、子供っぽい姿、ちょっぴり情けない姿も見たけれど、きっとまだまだ幸村の色々な姿を見せてもらえる気がする。
彼の背中を見詰めながら、そう思った。



2012.1.22