あやかしあかし | ナノ
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朝の柔らかな陽射しに包まれ、今日も学校が始まる。生徒達は校門を潜り校舎へと吸い寄せられていく。
「名前おはよー」
「お早う久美子」
8時のチャイムが鳴る頃に登校してきた久美子は、名前に声を掛けその隣である自席に荷物を置いた。ちらりと窓の外を見て、残念そうに言う。
「今日はあのイケメンいないねー…はぁぁあたしの動力源が」
「動力源て…」
苦笑いしてふと思う。そのイケメン…幸村は今我が家でおとなしく待ってもらっている。多分眠っているだろう。
今朝名前が目を醒ました時、幸村は目の下に酷い隈を作って「お早うござる…」と力無く言ってくれた。幸村の体温が吃驚する程高くてとても快適に眠れた分、申し訳なくも感じた。簡単に作った朝食をちびちび口に運ぶ姿を見て、「今夜も一緒に寝てもいい?」と聞こうとして、止めた。
幸村のことは話した方が良いだろうか。流石に年若い男女が同じ空間で共に生活しているというのは声高に言えたものではないから、止めておこうか。
そこまで考えて気付いた。自分は幸村のことを男として意識していないことに。失礼な話だが、いっそ清々しいほど全く男性として接していなかった。友達、とも違う。家族、兄弟…でもない。もしかすると、
「…ペット」
「ペット?アンタついに犬飼ったの?」
うっかり漏らした言葉を拾われ、一瞬頭が空回りしたが、急いで繕う。
「う、うん。せっかくペットOKなアパートにしたんだし」
幸村をペットの犬と称するのは些か申し訳ないが、この際だ。しかし久美子は目くじらを立ててまくし立てる。
「ハア?アンタ自分が学生だって忘れてんの?!今だって生活ギリギリなんでしょーが!その上ペットなんて…いくら動物好きとはいえ現実的に考えりゃ無茶だって分かんでしょ!一緒に餓死する気か!」
「う…ごめんなさい」
思わず縮こまる名前。久美子は溜息をついた。
「もー…今更どうしようもないけどね。仕方ない、今日アンタん家寄っていい?あたしも何かしら手伝ってあげるからさ」
「えっいや、いいよ…まだ慣れてないみたいだし、吃驚させちゃうよ」
「ふーん…アンタまた噛み跡作るつもり?」
渋い顔をする久美子。
「ち、違っ」
「あぁもう、名前見てると心配で卒倒しそう!取り敢えず今はこれで切り上げるけど、そのうち詳細聞き出すからね?ほら一時間目教室移動、行った行った!」
「…はーい」
久美子は最近ますます母親のようになってきている、気がする。


* * *



「お帰りなさいませ、名前殿」
「あ、そうか。ただいま幸村」
扉を開いた瞬間飛んできた言葉に、一瞬反応が遅れる。
(今まで一人暮らしだったからなぁ、久しぶりに聞いた)
「お昼食べてくれた?」
「はい、わざわざ御用意していただき真有り難く」
「誰か来たりした?」
「一度インターホンが鳴りましたが無視しておきました」
「うん…偉い偉い」
ふにゃりと笑んで、幸村の頭を撫でる。と、幸村は直ぐさま身を引いた。ほんのり赤くなった顔を不服そうに膨れさせている。
「そのようなっ某幼子ではございませぬぞ!」
「あ、ごめん…そういうつもりじゃなかったんだけどなぁ」
しかし、同じ年頃の立派な青年に対して頭を撫でるようなこと、普通はしない。名前自身、同級生の男子の頭を撫でるなんてするはずがない。何故幸村にはしてしまったのか、はてと首を傾げてみても答えは見出だせなかった。
「じゃあちょっと着替えてくるから、出掛ける準備しててね」
「む、何故に?」
「幸村の生活用品揃えなくちゃ」
「そ、そうでござった…すみませぬ」
「なんで謝るかなぁ…」
苦笑を漏らし自室の扉を潜った。



2012.1.18