「いやーでもまさかの展開だよなぁ」

沈みゆく太陽を見つめながら日向は呟いた。

「何がだ?」

解ってるくせに、直井は解らないふりをして西の空に目を向けた。
太陽はもう半分まで沈んでいて、その周りの空は朱色に染まっている。あの人と同じ、朱色に。

「まさか最後に残るのが俺ら2人だとは思わなかったよ」

直井は空から目を逸らし、日向の横顔を見た。

「まあ、たしかにな」

綺麗な奴だ、と思う。
実はあの人越しに日向の横顔を盗み見るのが好きだった。
あの人がいない今は──

「そういえば直井さ、」

突然日向がくるりとこちらに振り向いた。

「──…」

思い切り目が合う。
…そりゃまあこっちはずっと見つめてたわけだし、当たり前なんだけど。

「な、なんだ」

気恥ずかしくなって目を逸らす。しかも吃るとか…我ながらアホらしい。

「ああ、いや、その」

なんで貴様まで照れるんだ…!!
見なくてもわかる。彼は多分少しだけ赤くなった頬を掻きつつ太陽に視線を戻しただろう。

「そ、そうだ!アイツ消えたんだし、もうお前思い残す事ないんじゃねーの?」

やっぱり。なんとなく言われる気がしていた。
でも、

「忘れたのか?僕は貴様より先に消えるつもりはない」

そう言い切って、また日向に視線を戻す。
彼は驚いた顔をしてこっちを見た。
その顔があんまりにもアホらしくて、つい吹き出してしまった。

「笑うなよなあ」

ぽん、と頭の上に手を乗せられる。

ああ、それは、

「…!」

あの人がよくした仕草で、

「直…井?泣いてるのか…?」

ぎゅ、と、まるであの人のような優しい温もりに包まれる。

「大丈夫、きっと来世で会えるさ」

そう優しく囁かれて、
なんだこいつ僕の心が読めるのか、とか、それとも確信犯か、とか
色々頭に浮かんできたのに、口から出たのは小さな嗚咽だった。

「それに」

日向が直井の頬に手を添え、少し乱暴な仕草で涙を拭き取る。
そして涙で潤んだ瞳をしっかりと見据え、日向もまた言い切った。


「俺も、お前より先に消えるつもりはねえよ」



(だったら2人で)

(消えようか)



僕はその言葉を待っていたのかもしれない。







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