どうしても忘れたいことがある。 思い出したくないことがある。 それを俺は記憶の奥底に静めて、迷子になった。 男鹿を探し回って疲れ切った俺はもう家に帰ることにした。 これだけ探していないならもう家に帰ってるのかもしれない。 どこかですれ違ったのかもしれない。 そう信じ込もうとしたのに、 踏み締めた地面、 目の前の踏切、 「あ、ぁ…」 全てを思い出してしまった。 数日前の雨の日、男鹿はこの踏切で、電車に轢かれて死んだ。 見知らぬお婆さんを助けて。 俺の前で、男鹿は確かに死んだのだ。 馬鹿な男鹿の名誉ある死を、俺は認められなかった。 「男鹿、俺はお前のもとに行きたいよ」 男鹿を最後に見た場所に立つ。 二本の遮断機が降りてきて、俺は踏切に閉じ込められる。 いつもなら煩わしいはずの警報器の音が、今は俺を男鹿のもとへ導いてくれる気がして心地よかった。 電車の走る音がだんだんと大きくなってくる。 もう戻れない。いや戻らない。 これでいいと決めたんだ。 頬に伝う涙は、きっと安堵から。 「男鹿のいない世界のほうが、間違いだから」 やっとこれで男鹿に会える。 良かった。 これがハッピーエンドってやつか。 ―――――――― BGMは家出少年と迷子少女 ← |