何も変わらない。
恐ろしいほど変わりゆく街の中で、俺は何も変わらない。
あの頃から全然成長してない。
でも成長したいわけじゃない。
いつまでも俺は俺のままでいたい。と思う。
だってなんか、変わると、その分後悔する。気がする。

「あー…」

狂いそうだ。
いやすでに狂ってるか。
よく言われるんだよね、
「お前狂ってるよ」ってさ。

そこまでではない、と自分では思うんだけど。
そうではないようだ。
普通じゃないんだってさ。
でもさあ、
普通って何?
俺にはよくわからない。
散々人間観察しといてわからないの?とか言われそうだけど、人間ってのはみんながみんな違うから見てて楽しいのさ。
まあただ見てるだけじゃつまらないからちょっかいだして引っ掻き回したりしちゃうけど。


そんなことを考えながら池袋の喧騒の中を俺は今日も歩いてる。
今日は仕事が無くて暇だからシズちゃんからかって遊ぼうかと思ったんだけどな、いないらしい。


唐突に誰かを抱き締めたくなる時がある。
相手は誰でもいい。あのシズちゃんでも。
でも別に寂しいわけじゃないし、愛が欲しいわけでもない。
多分だけど、愛を与えたい。
ああやっぱりよくわからない。
わからないわからないわからない。
自分のことだって何だって理解出来てるつもりだったけど、こういう時「俺は何も理解出来ちゃいないんだ」って気づかされる。
馬鹿だよな。




「いーざーやー」


やっとお出ましかよ、喧嘩人形。
唸るような低い声に振り返れば視界に入るのは馬鹿みたいに身長が高くて金髪でグラサンかけてるバーテン野郎。

「てめえこんなところで何してやがる」

ぴきぴきとシズちゃんの額に青筋が浮き出る。
何回見てもすごいなあれ。

「ねえねえシズちゃん」

「おいこら人の質問に答えろや」

「嫌だよ、ねえシズちゃん」

「…なに」

俺は深呼吸して、いつもの笑顔を張り付けて、ゆっくりと彼を困らせる言葉を吐き出した。


「俺の首絞めてよ」


精神的な意味ではなく、
この首に、直接、手をかけて
力を込めてほしいんだ。


そう言ったら案の定シズちゃんは顔を歪ませた。

その顔好きだよ。


「死にたいのか」

「君は俺を殺したいんじゃなかったのかい?」

「そうだけど…」

「死にたいわけじゃあ、ないよ」


そう、別に死にたいわけじゃないんだ。
てかまだやりたいことあるし。

でも、なんとなく、絞めてほしいと思ったんだ。



「俺が絞めたらお前死んじゃうと思うけど」

「いいからほら、早く」




俺、何がしたいんだろうな。

ごめんね、シズちゃん。

なんて、







高らかに笑う声が、街中に響いた。





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我は虫喰い



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