このごろ、大嫌いだったあの頃に戻りたいと切に願う。










その日もいつも通り仕事に行って、暴れて、疲れて、臨也を見つけて、喧嘩を吹っかけた。

あんまりにもいつも通りすぎて悲しくなる、なんて思ってしまったのが良くなかったのかもしれない。

「抱かせてよ」
と臨也が言い出した。
唐突な言葉に思わず固まった。
その言葉が脳内を一周して、やっと意味を理解した時、俺は臨也にキスされていた。

「ねえ、いいでしょ?」

そう言って臨也が俺の腕を掴む。

いいわけあるか。
俺は、臨也が好きなのに。


「ざっけんな…!!」

やっぱりいつも通りキレて、近くにあった標識を力任せに引きちぎる。
嘘、いつも通りじゃない。
泣きそうだ。

「っはは!やっぱシズちゃんはそうでなくちゃね!」

狂ったような笑い声を上げながら臨也が逃げる。

なんだよ、やっぱりからかってただけなのか。

「くそノミ蟲死ね!」

あー、こんな思いするくらいならノミ蟲なんて無視すればよかった。
疲れてたんだから、そのまま気付かないふりして通り過ぎればよかった。

「おっと!危ない危ない……じゃあねえシズちゃん!」

俺が振り回す標識を軽やかに避けて臨也が路地裏に逃げる。
追い掛けて俺も路地裏に入ったが既に臨也の姿は無かった。

相変わらず逃げ足の速い奴だ。むかつく。

「次、会ったら本当に殺してやる…」

低い低い声で呟いて、でも実際にはそんなこと出来ないくせにと近くの壁を思い切り殴った。

頬を伝い落ちていく液体には知らないふりをした。





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