「世界っていつ終わるんだろう」 ぽつり、と気を付けてないと聞き逃すような小さな声で臨也が呟いた。 「あぁ?」 俺は思わず標識を振り回していた手を止める。 そして瞬きをした、その刹那 「っ!」 臨也が目の前から消えた。 「じゃあね、シズちゃん」 後方から聞こえてきた声に勢いよく振り向くも、臨也はもう居なくて 「ちっ…どこ行きやがった…!」 辺りを見回してみても、烏が数羽飛んでいるだけで誰も居ない。 「くっそ…」 標識を投げ捨て、近くのベンチに座る。 空は憎たらしいほど晴れ渡っていて、なんだか嘲笑われているような気がした。 おかげで暫く苛立ちが解消されなかった。 あの日から、臨也は池袋に姿を現さなくなった。 「なあ静雄聞いたか?最近噂になってるらしいんだけどよ…」 「…はい?」 その代わり──もうすぐ世界が終わる──という噂が流れ始めていた。 「世界っていつ終わるんだろう」 あの日臨也が呟いた言葉を思い出す。 まるで、世界が終わることを望んでいるような言い方だった。 あいつはもうこの世界に飽きてしまったんだろうか。 世界は思っていたよりも退屈で、生きることに疲れてしまったんだろうか。 俺にも、飽きてしまったんだろうか。 「シーズちゃん」 不意に聞き慣れた声に呼ばれて顔を上げる。 だけど目の前には誰も居なくて、でも 「い、ざや…?」 視界の端に闇にも映える黒が掠めた。気がした。 考えるよりも早く、身体が動き出していた。 根拠のない勘を頼りに追い掛ける。その先にいるかどうかもわからない臨也を。 何してんだろうな、俺。 ふとそんな思いが頭を過った。 それでも身体が止まることはなく、ひたすら臨也を求めて走っていた。 追い掛けて、見つけて、捕まえないと。 そう本能が叫んでいた。 「どこだ、臨也……!」 「ここだよシズちゃん」 耳元で囁かれた気がして、はっと立ち止まる。 振り返る前に後ろから抱き着かれて、身動きが取れなくなった。 「臨也、手前…」 振りほどこうと思えば振りほどけるはずなのに。なぜか出来ない。 「知ってる?シズちゃん」 「何、を」 「もうすぐ世界が終わるんだって」 そう言って笑いながら臨也は俺に抱き着いていた腕を離す。 もうすぐ世界が終わる。 最近流れているというあの噂のことか。 「ただの噂なんかじゃないよ、ほんとに終わるんだ」 普段から狂気を孕んでいる臨也の声が、更に狂気じみているように聞こえて、今度こそ俺は彼の方を振り向く。 そこにいた臨也の表情は、本当に愉しげに、まるで今から世界を滅ぼす悪のように、歪んでいた。 はっと息を呑む俺。 そして臨也は蝕むような甘い声で囁いた。 「ねえ、二人で世界の終わりを見に行こうよ」 世界終末 (臨也が差し出した手を、俺は) ―――――――――――― 企画サイト「ワールドエンドアンソロジー」様に提出。 なんかこんなんで大丈夫なのかな…。 参加させていただきありがとうございました! ← |