そう話すと、先生は「懐かしいな」と言って笑った。 意味がわからないながらも僕は話を続ける。 ──僕は何故か拳銃を持っていて、それでそいつらを倒すのだけど── 「だけど?」 ──幾ら倒してもそいつらはまたどこかから出てきて、とにかく、消えないんです── うまく説明出来ないもどかしさに焦燥を感じながら、僕は先生に目を向けた。 先生はずっと微笑んでいる。 「それは怖いな」 全然怖そうじゃないんですけど。 思わず睨んでしまった。 けれども先生は気にせず話を促す。 「それで?その後はどうなるんだ?」 ──その後は…影に飲み込まれてしまって…そこで終わります── 「……」 一通り話し終えると、先生はさっきまでの微笑みを消し、考え込んだ。 僕はどうしたらいいかわからなくなって、とりあえず部屋を見渡してみた。 白い壁を埋め尽くすように貼られている大量のメモ。 それらには何が書いてあるのか、僕には全く読めない。 「文人」 先生に名を呼ばれて、慌てて向き直る。 咎められたのかと思って謝ろうと口を開いたのだけど、先生はさっきと同じに微笑んでいた。 「文人は影に襲われて、誰かに助けを求めなかったか?」 助け…? そういえば、僕は影に飲み込まれる時、毎回何かを叫ぶ。 それがどんな言葉だったのか、起きると忘れてしまうのだが。 ──わからない、です…── こういう風に聞かれたことに答えられない自分がひどくもどかしい。 「そっか……じゃあ、その夢には文人と影以外には誰か出てこない?」 ──出てこないです── これならはっきり答えられる。 そう、僕と影以外誰もいない。 ああそれならやはり夢の中で助けを呼ぶことはないかもしれない。 「じゃあ、最後に……そこは、どんな場所?」 ──あれは…広い広い校庭みたいな…いや、校庭なのかな…── 夢の中の情景を脳内に写し出す。 ずっと校庭だと思い込んでいたけど、今考えると校庭にしては広すぎる気がした。 「…やっぱり…」 ──え…?── 先生が何かを呟いた。よく聞こえなかったけど。 「なんでもないよ。そうか…ありがとう」 ──いえ…── お礼言われるようなことしてないんだけどな…。 むしろ僕がお礼を言うべきなのに。先生が先に言ってしまったから機を逃してしまった。 先生は相変わらず微笑んでいる。 「もし、次も同じ夢を見るようなら、夢の中で俺に助けを求めてごらん。すぐ助けに行くから」 先生が僕の頭を撫でる。 僕はその言葉と行為が嬉しくて何度も頷いた。 先生がどう思ってるかは知らないけど、僕は先生が大好きだ。 僕には双子の兄が居るらしいのだけど、そんなのどうでもいい。 先生が居ればそれでいい。 こんなだから、いつまで経っても退院出来ないんだろうな。 まあ退院なんてしたくないんだけど…。 でも最近、何かが足りない、と思うようになった。 大事な何かをどこかに置き忘れてしまったような、そんな感じがするのだ。 「じゃあ文人、今日の診察はここまでだよ」 ──はい、ありがとうございました── 立ち上がってお辞儀をする。 先生がまた頭を撫でてくれた。 今日もまた、同じ夢を見るのだろうか。 __________ title:我は虫喰い 精神科医と患者。 ナイトメア様からのリクで「転生後音直」とのことでしたので、書いてみたら^p^あるぇー? なんかパロっぽいですね! すみません(´・ω・`) また挑戦してみます。 ナイトメア様へ ← |