「オーダー入ります。ホットドッグ2つ、マカロニチーズ1つ、ハウスサラダ1つ、レッドベルベットケーキ1つ、バニラシェイク1つ、以上です」
注文を厨房に伝えながらポニーテールをきつく結い直し、メアは伝票をクリップでカウンターの上に留めると、入れ違いで出てきたチーズバーガーとフライドチキンをトレーに載せた。
厨房からの14番テーブル、という指示を仰いでいそいそとホールに出る。
高めのパンプスのヒールで既に爪先がじんじんと痺れていたが、これも貸与された制服なのだから仕方ないよなとメアはふわりと頭に手をやった。そこには黒と白の長い耳、いわゆるバニーガール用のカチューシャが揺れている。サスペンダー付きの黒いタイトなミニスカートの尻には丸くてふわふわとした尻尾がくっつき、控えめにYシャツを模した丈の短いタンクトップは谷間とお腹の露出するデザインだった。両手首のカフスと首元のつけ襟は少し固い生地で違和感があり落ち着かない。
今日のメアは悪魔狩人ではなく、レストランのウェイトレスとして事務所を離れていた。
便利屋としてのデビルメイクライに依頼が入ったのはつい今朝方のことだった。電話を取ったのはダンテだったが、すげなく切ろうとしているのを横合いから受話器をかすめ取り、メアが応対したのだった。
それは街でオープンしたばかりのレストランのオーナーからの依頼だった。"バイトの女の子が怪我をしてしまって人手が足りず困っているのだが、当てが全敗してしまったので手伝って欲しい"と最後の頼みの綱としてかけて来たようだった。以前ホールのバイトも少ししたことがあったし、多分大丈夫だろうとメアは詳細をあまり聞かずについ引き受けてしまった。
その結果がこの制服である。ウェイトレスの子たちは全員共通でこの衣装を纏っていた。
広いホールには多くのテーブル席とカウンター席の他に、日が暮れ始めると三回ほどショーが行われるステージが店の中央に設けられていた。基本はダンスを披露するらしく、制服に着替える為に更衣室を探している途中で迷い込んだトレーニングルームで練習をしているダンサーを見かけた。
そのクオリティの高さは接客の合間で聞いた限りでは評判も良いようで平日の夜でも店内は混んでおり、人手不足に焦るオーナーの気持ちも判る気がした。
14番テーブルに料理を届けに行くと、若い男二人組が紫煙をくゆらせながら談笑している。
「お待たせしました。こちらチーズバーガーです」
皿をテーブルに乗せると、不意に腰の辺りに違和感を覚えた。またか、と溜め息をつきそうになったが飲み込んで愛想笑いを貼り付ける。男の手が衣装の尾を弄んでから、指先に挟んだチップを視界の端でゆらゆらとさせるのが見えた。
残りの皿を乗せ、トレーを脇に抱えてからメアはにこりと赤いリップを引いた唇の端を上げる。
「ご注文の品はお揃いでしょうか?」
「ああ。大丈夫だ」
にやり、と男が笑いながらチップを差し出してくるので仕方なく前屈みになるとタンクトップの胸元に紙幣が捩じ込まれる。着替えてからオーナーに教えられたことだったが、暗黙のルールとして"軽いお触りがOK"なのもこの店のウリだった。流石ろくでもない治安の街で栄えるだけあって、ただのレストランではなかったのだ。チップを稼ぐ為に際どいラインを自主的に攻めるウェイトレスの子もいるに違いない。
「君、今日は何時に上がるの?」
もう一人の男は容赦なく谷間に紙幣を挟み込みながらそう尋ねてくる。ここで働いてるからといって全員が全員"そういう関係"を求めている訳ではないはずだが、この手の男たちには説明しても判らないことだろう。
「ごめんなさい、ナイショです」
しぃ、と唇に指を当てて答えを誤魔化し、客の帰ったテーブルの片付けに向かった。
空いた食器を厨房に運んでふうとひと息つくと、不機嫌そうな視線が背中にじいと注がれているのを嫌というほど感じる。
「お仕事が捗ってて何よりだな」
「引き受けちゃったからには、ちゃんとやんないと事務所の看板に傷がついちゃうでしょう」
厨房の出入口のすぐ脇に取り付けられたカウンター席に、ダンテはメアと一緒に店を訪れて以来かれこれ五時間ほど頑なに居座っている。オーナーの厚意で無料提供されたピザとストロベリーサンデーを気だるげに食べ終えて、メアの働きぶりを何とも言えない表情で矯めつ眇めつしていた。喫煙可の店内で居心地も良いとは言えないはずなのに。
頬杖をついたダンテの顔を覗き込むと、唇の端についていたクリームを親指でぐいと拭って舐めてから、メアはもらったチップを確認する。
「40ドルもらった」
その紙幣を胸元から引っ張り出す姿にダンテがぎりりと奥歯を噛み締める。
ポケットから出したマネークリップに挟んでいたチップを確認してメアはおお、と感嘆の声をあげた。
「もう600ドルくらいは行ったかな」
新入りがつけるトレーニング中のネームプレートも付けていたのでその同情票もあるだろうが。
「稼ぎすぎだろ……」
「他の子たちはたぶんもっともらってるよ」
だってみんな可愛いもん、と薄暗い店内でもキラキラと笑みを振りまいているウェイトレスの子たちをメアはそっと見やる。
気に食わなさそうに鼻を鳴らすダンテについメアは苦笑いを返した。
「ねえ、そんなに怒んないで」
「怒ってねえし」
ふいと視線を逸らすその子どもっぽい仕草も可愛いなぁ、と思いつつ仕事に戻ろうとした時だった。
「お疲れ様です、スカーレットさん」
厨房の奥からオーナーがひょっこりと現れた。健全とは言えない店を営んでいるわりにと言ってはなんだが、彼は気の良い商人といったタイプでメアは別段嫌いではない。ダンテは少々逆恨みしているようだったが。
「そろそろステージタイムでホールが落ち着くと思うので、良かったら1時間休憩してください」
「いいんですか?」
「ええ。突然ご依頼したにも関わらず、手際も良くて大変助かっています。またお手伝いをお願いしたいとも思ってますし」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
バックヤードはどこでもお好きに使ってください、と言いおいてオーナーは厨房にまた戻って行った。
カウンターで怠そうに雑誌を読んでいるダンテの袖をちょこちょこと引っ張ると、
「休憩もらえたけど一緒に来る?」
ん、と喉を鳴らして席を立ったダンテと裏口を抜けた。とにかく靴が脱ぎたくて爪先からハイヒールを引っこ抜くと、ふむ、とダンテが息をつく。
「その靴で仕事すんのはしんどそうだな」
「みんなよくやってるよ。すごいよね」
普段スニーカーで生活をしているメアにとっては制服の露出度や仕事内容よりも一番苦痛なのがこの履き慣れないハイヒールだった。
指先に靴を引っ掛けてぺたぺたと裸足で廊下を歩いていると、オーナーが言っていた通りステージが始まるのだろう。ホールより薄暗い照明の中でも煌びやかと判る衣装に身を包んだダンサーの群れがぞろぞろとトレーニングルームから出てきた。女性だけかと思っていたが、屈強な男性の姿も混じっている。
ちょっとだけステージ見たかったな、と思いつつも今は休憩に専念した方が無難だろうと返したくなる踵を堪えた。
「ここ空くなら使ってもいいかな……」
更衣室は狭かったしオーナーは好きにしろって言ってたしな、とこそこそと覗くと中には誰も居なかった。
右手には丸い照明がついたハリウッドミラーのドレッサーが数台並び、敷き詰められた赤い絨毯の上には小道具の類が散らばっていた。左手の壁はほとんど鏡張りで、ここでダンスの振付のチェックをしたりするのだろう。部屋の奥は天井から床までビロードのカーテンで仕切られ、その向こう側はハンガーラックにかけられた大量の衣装で埋め尽くされていた。
オレンジ色のほの暗い照明の下でも魚の鱗や水晶の欠片のようにキラキラと光るスパンコールたちを撫でてから、メアは靴を放り出して鏡の前に座り込んだ。
安っぽい化粧品と香水の甘い匂いをすん、と吸い込んでそうだ、とポケットからファンデーションのコンパクトを取り出す。
顔もそうだが古傷を隠す為にも必要不可欠なものだった。
露出度の高さに最初はヒヤリとしたが店の照明が暗くて幸いだった。そう思いながらパタパタと腕の傷痕に粉をはたくメアの隣にダンテがどっかりと座り込む。
「そんなに気になるか?」
「うーん、判んない。とりあえず隠しとこうかなって。普通の子にはこんな痕ないもん」
「俺は好きなんだけどな」
つう、と薄れた脇腹の火傷の痕を指先で突然撫でられてメアはびくりと肩を震わせる。
「う、くすぐったい」
猫のように目を細めて笑ったかと思うと、ダンテの青い瞳がすっと近づいてくる。思わず目を瞑ると柔らかい唇の感触が頬に触れて来て、メアは静かに息を呑み、コンパクトをしまい込んだ。
ダンテの吐息が唇まで滑り落ちて来たかと思うと、軽く歯を立てられて、メアはうっすらと目を開けた。視界に広がったアイスブルーの瞳の奥が不機嫌そうに燻っているのを見て、やっぱり怒ってるんじゃん、と苦笑してしまう。怒る、というより拗ねるという方がこの場合正しいのかもしれない。
ダンテのコートの襟を引き寄せながら口紅をその唇に擦り付けるようにキスをしてメアは笑う。
「そんなに触られてないよ」
一度だけ胸をがっつりと揉まれて思わず驚きで跳ね上がったがそれも女性客だったし、旦那さんと一緒に来ているレアなケースだった。
ダンテはむくれながらメアの体を抱き寄せる。
「判ってるけど、そういう問題じゃねえんだよ。お前がこの格好で他の奴らの視線を浴びてる時点でなんかこう……」
あー今の俺だせぇな、と虚ろに首筋の辺りで息を吐き出したかと思うと、ダンテはそのまま押し黙ってしまった。
思ったよりも堪えている様子にうーん、とメアはその背中を擦りながら考え込むと、
「今度ダンテの部屋で着てあげようか?」
「そうじゃねえ」
「この衣装嫌い……?」
「いや、似合ってるし好きだけどさ」
ダンテが言わんとしていることは判っていたが仕事として引き受けてしまったからにはどうしようもないので、少なくとも今日は我慢してもらうしかない。
「ごめんね、ダンテ」
するりと、剥き出しの柔らかな胸板を撫で下ろしてから、メアはダンテの首筋にキスを落とした。
こそばゆそうに小さく笑ってからダンテの手がメアの太ももを撫で上げる。
「そのくらいじゃ許せねえなぁ」
メアはちらりと視界の端にかかっていた壁時計を盗み見てから、タイトスカートの中に這い登ってくるダンテの手を許すことにした。
薄い下着の上から指の腹で敏感な場所を撫でられて、お腹の奥がじわりと熱くなる。
赤らんだメアの頬を満足そうに伺って、
「コスチュームのせいで性欲までウサちゃんになっちまったのか?」
「……万年発情期なのは人もウサギも一緒だもん」
それもそうだな、と笑ってダンテはメアの体をあぐらをかいた膝の上に抱きあげた。長い兎耳が揺れ、背中側から胴に回された両腕が一度強く抱きしめてきたかと思うと、耳元で静かに囁かれる。
「触りたいから外して」
言われた通りにグローブを脱がして床に落とすと、するりと両手の指先がショート丈のタンクトップの下からブラジャーの内側に忍び込んで来た。温かな手の平で遊ばれ、メアの乳房がもったりと柔らかく形を変える。その様子を目の前の鏡の中に見てしまい、メアは急に気恥ずかしさに襲われた。
「ダンテ、場所変えようよぉ…」
「何言ってんだ。ここだからいいんだろ」
大人しく前見てろ、とにやりと笑ってダンテの指先がふにふにと尖端をこねくり回してくる。パン生地を揉むように乳房全体をやわやわと転がされる度に手の平の熱でそこから溶けおちてしまいそうな感覚がした。
ひゅう、と喉を鳴らして声を殺しながら背後の銀髪に指を差し入れて頭を抱き寄せた。
「ね、誰か…っ、来たらどうする、の…っ…」
「さあな」
何とかなんだろ、と口紅がついたままの唇の端で笑って、ダンテの手がぐっとタンクトップとブラジャーを鎖骨の辺りまで押し退けた。
「いつもすぐ赤くなるんだよな、メアのここ」
「うう……」
鏡にも映る真っ赤に充血して膨れ上がった乳首をぐにり、とつねられてメアは堪らず肩を震わせた。
「知らなかっただろ」
耳元で囁かれた熱っぽいその声で背中から内腿にかけての肌がぶわりと粟立つのを感じた。メアは身動ぎしてから腰を浮かせると、ダンテの体に背中を預けてショーツに指をかける。
「なにしてんの」
「汚しちゃう前に脱ぐの……」
お店に立てなくなっちゃう、と爪先から丸まったショーツを引き抜きポケットに入れた途端にダンテの手が膝の裏をさらって行く。外気に晒された脚の間は既に熱を持っていた。ダンテの立てた膝頭で片足を固定されてしまい、いっそう恥ずかしさに拍車がかかる。
大きな手の平が内腿をゆっくりと撫でさするぞわぞわとした感触に声が漏れそうになり、メアは奥歯を食いしばった。
ダンテは右手の人差し指と中指を咥えて唾液を絡ませてから、その指でメアの唇をなぞる。導かれるように口を開けてぬるりと舌を這わせるとダンテが満足げに微笑むのが見えた。甘酸っぱいストロベリーサンデーの名残りの味がした。
舌の根の裏側から頬の内側を指の腹でぐりぐりと擦られて、むぐ、とメアは眉を潜める。その動作にいちいちほの甘い痺れを感じてしまって、メアはそっとダンテの指を噛んだ。
その無言の訴えにふ、と息を吐いたダンテの指が胸の谷間からお腹を伝って下腹部に辿り着く。薄い下生えを撫でられる感触ですら過敏に反応してしまい、腰が揺れた。
その様子に顎をやんわりと掴まれ、楽しげな囁きが鼓膜を震わせる。
「触って欲しかったらちゃんとお強請りしてみろよ」
メアはその挑発にべっ、と舌を出してから、
「……ナカに入れたいから触らせてくださいってお願いするのはダンテの方でしょ?」
目を細めて喜色を浮かべたメアのサファイアブルーの瞳を見つめてダンテはくしゃりと笑う。
ダンテの唇がメアの生意気な舌先をさらって二人の熱い息が溶け合った。甘いいちごと生クリームの味がするダンテの舌を貪るように絡めとるとより一層深くまで舌先を奪われ、ぞくりと背筋が粟立つ。
既にとろけ出していたメアの秘所をもったいぶったようになぞり上げたかと思うと、指先がぬぷりと埋もれていく。何度体験しても体の中に他人を受け入れるのは不思議な心地がした。
鏡の中で赤く充血した裂け目がダンテの白い指を食んでいるのが見えた。指はすぐに増やされ二本共に容易く飲み込んで行く。こうして見ると下半身に違う生き物が住んでいるような気がした。ダンテの愛撫だけを従順に食らう獣が、もっと触ってくれと涎を垂らしている。
腰を持ち上げられ、膝立ちになるとレザーパンツのチャックが降りる音が聞こえた。後ろ手にダンテの筋張った下腹部に触れると、既に杭は熱く尖っており、白い歯がゴムの封を切るのが視界の端に見える。心臓がどくどくと高鳴り、お腹を空かせた"獣"が疼いて仕方なかった。兎の皮を被っておきながら自分が飼い慣らしたのはきっと狼なんだろうな、とメアは笑う。
「もう入れてもいいか……?」
掠れた言葉と共に宛てがわれた尖端に、スカートをたくし上げてから手を添えて、メアは無言の肯定として腰を沈めた。
「あっ……ふぅ……」
ぬるりと忍び込んで来る熱い塊に身震いしながら吐息を漏らすと、ダンテの腕に上半身と片脚を攫われて律動がお腹の奥を突き上げてくる。
薄桃色に充血したダンテの杭がじゅぷじゅぷと音を立ててメアのナカを食い荒らしていく。赤く熟れて蜜を垂らす性器はまるで狼の顎のようだ。結局は獣同士の貪り合いだったんだ、とメアは瞬く視界の中にその光景を見る。
甘やかな波に爪先から頭のてっぺんまで包まれ、嬌声をあげて果てると腰が砕けてしまった。床の上にくず折れると、ダンテの腕に抱き留められて向き合う形で体をすくわれる。ダンテが立ち上がって冷たい鏡に背中を押し付けられると、
「掴まってろよ」
荒い息の中で首に腕を導かれてメアは無我夢中でしがみついた。反対側のドレッサーの中に頬を上気させて兎の耳を揺らしている自分の姿が映っている。この部屋はどこもかしこも鏡地獄だ、と思いながらダンテの腰に脚を絡ませてまた深い律動への期待にきゅうとお腹の奥が疼いた時だ。
不意に廊下の外に人の気配が現れ、ドアノブを捻る音が聞こえた。
「やっべ」
と、ダンテが半笑いでメアを抱えたまま衣装ブースのカーテンの内側に逃げ込む。
気配の数的に一人のようだった。遅刻を嘆く独り言を呟きながら、身支度をしていく音が聞こえた。ダンサーのメンバーなのだろう。
メアが思わず緊張で強ばった顔をしていると、それを見やったダンテはにやりと笑って腰の律動を再開させた。
その感触にメアは声をあげそうになって唇を強く噛み締め、サファイアブルーの瞳でぎりっと睨む。
「……バレやしねぇよ」
そう囁いてダンテは至極楽しそうにメアの内側を抉りあげる。完全に捕食されている気分に陥ってしまい、メアはひたすら声を殺すのに必死だったが、結合部からは成すすべもなくグチュグチュと水音が上がってしまう。
恥ずかしさでいっそう唇を噛むと、じわりと鉄の味が舌先に広がった。
「……噛みすぎ」
ダンテの熱い舌に傷口を舐められ、舌を絡めとられる。
「はっ……あっ、も…むり、だんて…ぇ」
生理的な涙が頬を伝って、また押し寄せて来た快感の波にメアはぎゅうっとダンテの体を抱き寄せた。
熱いうねりがお腹の真ん中で弾けて、喘ぎ声をかみ殺そうとした歯がダンテの舌を強く食んでしまう。混ざりあった二人分の血の味が口の中に広がって、メアはやってしまったと眉を曇らせる。
「ごめっ…噛んじゃった……」
「どうせすぐに治んだろ」
お互いに、と至極どうでも良さそうに笑うダンテの銀髪を指で梳いてから、それもそうか、とメアはその首筋に頬を寄せた。
「そろそろイキそ…」
こくんと頷くとストロークが早くなり、暫くしてダンテの杭が体内で強く脈打った。巻き付けた脚に力を込め腰を擦りつけ、最奥でその熱を感じながらほお、と息を吐く。汗ばんだダンテの額を拭いながら耳を澄ませると、いつの間にか人の気配は無くなっていた。
「バレなかった……?」
「たまにはイイだろこういうのも」
「良くない……!」
寿命が縮むかと思った、とメアは服装の乱れを直し下着を履きながらこっそりとカーテンの外に出た。
人の姿はなく、時計を見るとちょうど休み時間が終わる頃合だ。
口紅を塗り、ヒールを履き直すとまたダンテが面白くなさそうな顔をしているのが鏡の中に映っていた。
はみ出した口紅を整えてから振り向いて、メアは照れた顔で小さく囁く。
「……事務所帰ったらダンテの好きにしていいから、もうちょっとだけ我慢して待ってて」
そう捨て台詞を残して踵を返す兎の後ろ姿にダンテは帰ったらどうしてくれようか、と深い溜め息を吐いて項垂れた。
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