迷路 | ナノ

心恋と隣り合わせ



山登りという遠足も終わり、元通りの学校生活が戻ってきました。

「ぷっくっ…ぶはぁ!」
「たっ高尾くん!しっ!」
「いやだってこれぶふっ…あはははは!ひー!」
「先生に怒られちゃうから!」
「高尾うるさいぞ!プリント最後の問いが解けたのか!?」
「2√5っす」
「…!授業中に私語は慎め」
「すんまっせーん。ぷっくく…」

いまだに隣でお腹を抱えて震えてる高尾くんに、呆れしか浮かばない。よほど私の描いた緑間くんが下手だとでもいうのか。やかましい。確かにちょっと失敗したかなとは思ったけどそんなに笑うもんじゃないからね!
先ほど。授業に飽きたのかなんだか知らないが、高尾くんは「ねー、緑間の似顔絵描いてみてよ」とコソリ言ってきた。絵が得意でない私は顔をしかめる。「気分転換だって」と意味のわからない勧め方をしてきた彼に乗せられ描けばこれだよ!

「ひでえ!まっくろくろすけ!モリゾー!いやー、才能あるなあみょうじちゃ…ぷくっ…見てみて真ちゃん!」
「いやいやいやいや待ってだめだって!」
「あっはっは!わかったわかったって!」

緑間くん本人にあの絵を見せるわけにはいかない。あわてて高尾くんの腕を取って紙を取ろうとすれば、大人しく返ってきた。ふう、と安心したときに気づけば思ったより高尾くんとの距離が近いことに気づいて、ゴガガと椅子ごと横に下がる。

「お前ら騒がしすぎるのだよ。真面目に授業を受けろ」
「えっ…私も…?」
「みょうじちゃん怒られたー」
「いや高尾くんが大部分だと思うよ!?」
「ふっはは…いやー授業っつっても自習よ?みんな話してるし!」

教室を見回すと、みんながみんなワイワイしながら課題のプリントをしている。先ほどの高尾くんの笑いはちょっと響いたから監視役の先生が注意したが、教室中が緩く騒がしい。だからといって今の時間にプリントは全部やらなければいけないため私は集中していたのだが…高尾くんはどうやら全て終わったらしい。見れば緑間くんもペンを置いている。早いな!

「私まだ終わってないので…遊ぶなら緑間くんとお願いします」高尾くんにキッと決め顔で言えば、にんっと口角を上げた彼が「えー?じゃあ遊ばないならいい?」と楽しそうに言った。

「…?どういう…」
「ほらほら、みょうじちゃん早くやんねーと!」

机に頬杖をつきながら言った高尾くんに急かされ、あわてて手を動かす。えー…でも、えー…と。数学は私そんな早くできないんだよね。問題文に沿った公式を考え、どの数字を当てはめようか唸る。…高尾くんと緑間くんは終わったんだよなあ、教えてくれないかな。とちらり横目で高尾くんを見て固まった。

「……」
「……」

へら、と笑ってから視線をプリントに戻す。…高尾くんと目が合った。っていうか、机に頬杖ついて身体はこちらに向けてる彼の視線が一直線に向けられてる気がしてならない。え…ええー…なんで見てるの!プリントに苦しんでいる姿を見て楽しいかな!あっお腹鳴りそう…だから高尾くんの隣は嫌だったんだよ!緊張するな!

「…真ちゃーん、そういや今日のラッキーアイテムは?」
「ふん、これなのだよ」
「ぶっは!なにこのアホ面のカバ柄のネクタイ!ださ!」
「黙れ、前を向け」
「だから朝会った時からなんかいつもと違うと思ったのかー」

私の緊張を読んでくれたのか(本当にそうなら怖いが)、高尾くんは後ろの緑間くんに向いた。小さくほっと息を吐く。
さて、頑張るか!と気合いを入れたところで背中を叩かれた。振り向けば、私を陰にしてケータイを使ってるロオラちゃんがニヤニヤしていた。…私の周りは一応授業中なのだと思ってないな…。

「遠足で買った、恋愛成就グッズ効いたよー!先輩と付き合えることになった!」
「え!?おめでとう!」

小声で話す彼女はえへへと笑うと、ケータイのメール画面を見せてくれた。おぉ…彼女の言う先輩はたくさん絵文字使う人なんだね…まあ上手くいってよかったよかった。
「なまえちゃんも上手くいくといいね」と笑うロオラちゃんに、ははと苦笑い。せっかくだから買ったけども、好きな人すらいないし。

「あれ、高尾くんも買ったのかな」
「え?」

緑間くんと話す高尾くんにちらりと視線を向け、ロオラちゃんが指した方を見る。エナメルバッグの中に、ころんと転がるピンク色のストラップがあった。確かにあれは、恋愛成就のお店で買った時に見たもの…ていうか、私が買ったものと同じだ。

「高尾くんて好きな子いるんだ」

ぽそりと小声で言ったつもりが結構な声量だったようで、話していた二人は少し目を丸くしてこちらを向いた。「は、えっ?」声を高くした高尾くんが私の視線を追い、「ああっ」声を出す。

「これはっ、あれ!」
「妹さんの?」
「そう!紛れて入ったんじゃね?」
「でも高尾くん好きな子の一人や二人いるでしょーぉ?」

ロオラちゃんが興味津々に身を乗り出して高尾くんに詰め寄る。その隣で緑間くんはハァと息を吐いていた。それぞれの空気が漂う中、高尾くんは苦笑を漏らす。

「オレみたいな男は一人で精一杯だって」

いるんだ!誰!?と恋バナに花を咲かせるロオラちゃんを軽くかわす高尾くんを尻目に、私はプリントに戻る。そうか、好きな子いるんだ高尾くん。…多分すぐ付き合うことになるだろうな。彼はモテ技をもう身につけているようですし。
好きな子がいるってやっぱりいいなあ!青春だなあ!思いながらがむしゃらにペンを走らせた。




授業が終わり、伸びをして脱力。疲れた…プリント終わったのは頑張った。
…そういえば、高尾くんにはいろいろお詫びをしたいのだけど。余計な口を挟んだり、傘借りたし、山では助けてもらったりしたんだ。そのわりに知ったかしていらない心配しちゃったし。緑間くんならラッキーアイテムをあげればなんとなく喜ぶのはわかるけど…うーん。
ええい、ここは素直に聞こう。バッと高尾くんに顔を向ければ、彼は早弁していた。がくり、意気が削がれる。どうりで食べ物のにおいがしてたよ!

「ん、なに、ほしい?あげなーい」
「いいよ…てか早くない…」
「いやー腹減っちゃって。部活やってるし、成長期だし?しっかたないって」
「はあ…」

もぐもぐ美味しそうに食べる彼になんとも言えず、まあいいやとまた前を向いた。…しかし視線を感じる。ちらりと横を見れば、やはり高尾くんと目が合った。おかずを口に入れようと「あ」の口をしたまま止まった彼は、にっと笑う。

「な…なんだよもう、さっきからじろじろ…気になるから!」
「っえー?」
「…なんかついてる?」
「いーや」
「…み、見惚れてる?」
「ププーッ!ひっはっ…ははっ!ジョーク言うならどもんなって!」

なんだこいつ…。た、たまには軽口も叩かないとつまらない女と思われるかと思って結構気を入れて言ったのに。バンバン机を叩く高尾くんにバカにされてるとしか思えないため、眉を寄せながらまた前を向いた。もういい、視線向けてきても知らん!

「わりーって。皺寄ってる」

視界に飛び込んできた手のひら。その指がクイッと眉間を押してきた。驚きに目を開いて横を向けば、高尾くんが楽しそうに笑っているもんだからかあっと熱くなる。また、この人は…!

バッ。私が口を開く前に眉間に当てた指を離した高尾くんは、しばらく何か言いたそうな顔をしたあと「険しい顔になっちまうぜー」と普段のからかい顔に戻った。そのまま弁当箱に蓋をして、深くにやりと笑うと自身の机をコンコンと叩く。
眉間を撫でながら、いたたまれない気持ちとなっていた私としては高尾くんの顔を直視できないわけで、一瞬その顔を見たあと彼の机に視線を向けて唖然とした。
そこにはなんとも下手な女の子の絵が描かれてあった。その絵の隣には「みょうじちゃん」とある。それにしてもこの下手さと人を馬鹿にしたような絵は…!ひくり、と頬が動いた。

「自分だって下手じゃん!ってか!これひどいよね!?」
「あっははははは!」

ばんばんと高尾くんが自身の膝を叩いて笑い始めたと同時に、チャイムが鳴って次の授業が始まる。わ…私の方に視線向けてたのは絵描くためか…。勘違いしなくてよかった。そうだ、高尾くんがふざけた理由もなしに私の方を見るとかありえないんだってば。
いまだにぶくくくと机の上で震えている高尾くんにじと目を送った。なにがそんなに面白いんだまったく。




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