迷路 | ナノ

心臓がふたつあればいいのに



あっ…ぶっ…ねぇー!
前を歩く真ちゃんたちにも後ろをついてくるみょうじちゃんにも気づかれないよう、はあっと息を吐く。あっぶねーなマジで!なに勝手にみょうじちゃんの頭触っ…はああ…。
別に女子にも男子にも気軽にスキンシップは取れるタイプなんだけど、みょうじちゃんにはどーも…。いや、ね、そりゃオレも男の子ですし?好きな子には触りたいですけど?だから無意識に手が出るけど、無意識に手がすぐに離れる。…怖いのかね、なんか。今回はたまたま触れてしまったけど、いつもは自分を何度となく抑えたか…わかんねーっつの。本能と理性が無意識に拮抗して働いてんのか…、こんなん知られたくねえわ。誰にもかかわらず。

気をつけろって。と自分に鞭を打ち、Cコースに入って早々蛇行が厳しい道を進む。にしてもあっちーな…。後ろを振り返ると、みょうじちゃんとロオラちゃんが一生懸命オレと真ちゃんについてきていた。真ちゃんも速度落としてっけど…わかりにくいって。ずんずん進むでかい背中に苦笑いを漏らし、女子二人に声をかける。

「大丈夫かー?つらくなったら早めに言ってな。…うっわ!みょうじちゃんもう顔赤いぜ?休憩するー?」
「…大丈夫…です!」

あっと、今の言い方じゃそりゃ見栄張らしちゃうわ。間違った。いけね…まあ次いい座れる場所あったら休憩するか。どーせ真ちゃんもなんだかんだ同じこと考えてんだろ。っとにツンデレなんだからなー。なんて前を歩く真ちゃんを見上げれば、やつは振り返って俺の後ろに目をやった。

「ふん、やはりな」

カチンと後ろから音が聞こえたような。瞬間、「あー山登りって楽しいな!」と全然思ってなさそうな声音で俺の隣をみょうじちゃんが通り過ぎて真ちゃんの背中を追っていった。
はは…思ったよりさっきのムカついてたのかよ真ちゃん…みょうじちゃんも意外に負けず嫌いだったわけね。おっもしれー二人だよ。

「緑間くんも平然とした顔で登ってるけど、はあ…本当は今すぐ、はっ、休憩したいんでしょ…!」
「それを言うならみょうじなのだよ。呼吸がつらそうだな、置いていこうか?」
「…く…!侮るのも今のうちだからね…!」

言い合いながら前を登る二人の背中を見て、足が少し重くなってきた。…な、に、考えてんだオレ。言い知れないぐるぐるとした気持ちに蓋をして、後ろを歩くロオラちゃんが転けそうになったのを彼女の腕を取って抑える。

「あっ…ごめんね高尾くん」
「へーきへーき。つかほんと無理しないでよ?倒れられちゃ困るし」
「うん…でも前の二人が」
「あいつらはほっといてもいいから」

つい出た自分のピシャリとした言葉に疑う。…なんか今オレ…怒ってた?いやいやいや、んな二人を見ただけでそんな。「ありがとう」と笑うロオラちゃんに笑い、彼女の腕を引きながらまた前を見る。
段差が激しい急な登り坂を登りながら、「みょうじ!人のリュックを掴んで登るのはやめるのだよ!」「ごごごめん、おっ思ってたより急な坂だから…!大丈夫、威張ってる緑間くんなら登れるよ!」「一言余計なのだよ!」やはり言い合いながら進んでいた。

「たっ…高尾くん痛い」
「え、あ、悪い」

ロオラちゃんの腕を掴んでいた手をパッと放す。あ…あー…そういう…なるほどな、自分がこんなに小せえ男だとは知らなかった。一丁前に妬いてるってか?二人とも大事な人だからこそなんとも言えない複雑な心境で。あ…たま痛えな、あっつすぎ。上を登るみょうじちゃんの横顔はそろそろ危ねえんじゃね。

「真ちゃーん、オレそろそろ休憩してーんだけどー」振り返った真ちゃんは、前を見てからもう一度オレに向いた。

「もうそこになにか広場がある。そこで休んでやってもいいのだよ」
「あっお店!」

真ちゃんの隣に並んでたみょうじちゃんは前を見て、オレの隣のロオラちゃんに視線を向けた。お店…恋愛成就がなんとかーってやつ?着いたんだ、よかったじゃん。


広場に着き、恋愛成就の店に一目散に行った女子二人を目で追いながらそこらへんの石に腰を落とす。広場には他のクラスの班もいた。

「思ったよりついてきた」ぼそりと言ってペットボトルに口をつけた隣を座る真ちゃんに、「みょうじちゃん?」尋ねる。頷いていた。
はぁ、軽く息を吐く。

「やめてよ真ちゃん、真ちゃんかっけーからみんな好きになっちゃうじゃーん」
「なにを言ってるのだよ」
「…はは、わかんね…あー…暑さで頭やられたのかも」

こんななっさけない姿、真ちゃんとみょうじちゃんだけには見せたくないんだけど。でもさっきから表現できねー感情が渦巻いていて正直鬱陶しい。…真ちゃんとみょうじちゃんがくっつく、なら、別にいいけどな。なんかお互いなんだかんだやってけそうじゃね、オレなら仲介役にもなれそうだし?…ハッ…うっぜぇよ、自分。

「俺の好みのタイプはみょうじではない」

足元に向けていた視線を、驚愕と共に真ちゃんに向ける。「彼女は正直扱いづらい」と眉を寄せながら続けた真ちゃんに、それはお前もだって!と笑える空気じゃねーから黙っておく。

「扱えるのはお前くらいなのだよ」

あさっての方向を見ながらつぶやいた真ちゃんに、口が開いて閉じた。俺って結構恵まれてるよな、好きな人もできたし、こんないい相棒もできたし。つかまさか真ちゃんに喜ばされるとは。

「まあ確かにオレは緑の珍獣も扱えてるからなー」
「よほど崖から飛び降りたいらしいな」
「うそうそ冗談冗談!ありがとな」

素直に笑えたそのまま、お店で物を買ってるみょうじちゃんを見る。恋愛成就のグッズか…みょうじちゃんは好きなやついねーっつってたし、そんな素振りも見たことないから大丈夫ってのはわかるけど、だからと言ってみょうじちゃんがオレを好きになってくれるとは限らないからなー。

「オレも恋愛成就の買おうかな…なーんて」
「人事を尽くせ」
「そればっかだよ」




結局人事を尽くしてちっちゃなストラップを買ったはいいけど、なーんかご利益ある気もしない。だってまたアレだぜ?

「たくさん休んだからもう遅れるなんてことはないさ!」
「フン、今のうちだけなのだよ」
「ていうかさっきから気になってたんだけど、リュックの横についてるその可愛らしいうさぎのストラップはなに?」
「見てわかるだろう、ラッキーアイテムなのだよ」
「ぷっぷくふふ」
「なにがおかしい!」

さっきよりか仲良くなってるっつかみょうじちゃんも笑顔見せてきてるし…!確かに真ちゃんをからかうのはおもしれーけど、なんか…やっぱ真ちゃんには敵わねぇな…。真ちゃんはみょうじちゃんのことタイプじゃないっつってたけど、みょうじちゃんがタイプだったらどーすんだよこれ。応援するしかねーじゃん。

二人の背中を見ながら歩いていてふと気づく。…は、嘘だろ。なにしてんだオレ…くそっ!バッと後ろを振り返ると、やはりそこにロオラちゃんはいなかった。いくらなんでも気になりすぎだからって視界を二人に集中させて、周り見てねぇって…アホかよ…!
前を行く背中に「ちょー待ち!ロオラちゃんが消えた!」と声を上げた。





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