迷路 | ナノ

お星様の言うとおり



「お、最近よく会うね」
「だっでっ…ねー」

ガタンと机を移動させた隣には高尾くんが笑っていました。よく会うっていうか…この間いろいろあったばかりだし…ぶっちゃけ気まずいよ!なんて本人には言えずハハハ笑いながら席につく。
先生の気まぐれで行われた席替え。いきなりのことだが席替えのワクワクな感じにクラスのみんなは盛り上がる。私は前の席の方が落ち着いててよかったんだけど…高尾くんが隣とかどうすんの。お腹鳴ったり!居眠りしたり!授業中当てられて間違えたり!できないじゃないか恥ずかしい…!しかもこんな人気者と隣って、人が集まってくるよね…ああ…うん…。
緊張というストレスに加え、高尾くんの後ろを見てヒクリと頬が動く。窓際、後ろから三番目、あまり先生から目立たないそのいい席に座っていたのは緑間くんだった。こ…濃いなあこの周り。唯一の救いは緑間くんの隣にロオラちゃん(あだ名)がいたことだ。よ、よかった普通に話せる友達がいて…。

「ロオラちゃんよろしくね、わかんないところあったら教えてー」
「私も結構バカだからね!」
「いやいや私よりいいって」
「真ちゃんオレもわかんないとこあったら教えてー」
「知らん。自分で考えろ」
「はっ、きびしー」

じゃあみょうじちゃんが教えて、と緑間くんから向き直ってきた高尾くんに、即行で手を横に振りまくる。いやいやいや無理ですから。「厳しいやつばっかだなー」と笑う高尾くんは言葉とは裏腹に満足そうだった。

「えー、今の席で4人ずつに分けた班が今度の遠足の班だからな。仲良くしろよ」

担任の言葉にぽかんと口が開く。一斉に騒ぎ始めた教室内についていけずにただ理解のできない脳内を必死に回した。

「ぶっは!みょうじちゃん口、口開いてる…くくっ…」
「え、だ…え?遠足の班?」
「そーみたいだねえ。よろしくみょうじちゃん」

いまだに呆然とする私を見ながら「顔!なにその驚いた顔!」と笑う高尾くん。4人てことは…とちらり後ろを見る。緑間くんとロオラちゃんも同じ班だよね。緑間くんと高尾くんと同じ班…一年生で注目度ナンバー1と2を争う二人と同じ班…。こここ光栄ですね。ぶっちゃけあまり話したことないから気まずいよー。でも気まずいとかそういうのも思わせないような優しさでくるんだろうな高尾くんは。ははあと自分の中で感心しながら隣の高尾くんを見れば、後ろに振り返って緑間くんと話していた。

「いやーマジでおは朝ってすげーわ。ちょっと感動した」
「フン、当たり前なのだよ」
「真ちゃんもオレと一緒になれてよかったな!他の班だったら…くくっ…みんな真ちゃんのわがままについてこれねぇって…ハッハ!」
「うるさい黙れ。高尾と一緒になるなんて、今日のラッキーアイテムの効果は薄かったのだよ」
「ひっで!でもやっぱ今日のおは朝当たってるぜ?」

なんとも楽しそうな緑間くんとの会話は、隣だからビシバシと耳に入ってくる。おは朝…あの番組の…ラッキーアイテムとかなんで緑間くんがその単語を言うのか謎だが、その思考は先生の「じゃあ遠足のしおり渡すぞ」の声に遮られた。

高尾くん…高尾くんか…。彼が優しくて気づかれないように気遣いできるのはもう理解した。傘のこともそうだけど、先日私が意味わからない叫びで自己嫌悪した後すぐに感謝を述べて悩ませないようにしてくれたし、さっきの席替えだってみんなが机を動かす中、道を譲ったり落ちた荷物を拾って机の上に乗せたりしていたし(しかもそんな高尾くんの動作を誰も気づかないうちにやっている)、本当にすごい。前も言ったけど本当に尊敬する。いつも笑ってるしノリもいいから賑やかな人たちが集まるのもわかる。いい人だもんね。
だからこそわからない。なに考えてるかわからない。ただの脳天気でお調子者ならそれで済むんだけど、それだけじゃなさそう。いや、根本的にいい人なのはわかるけど。…自分を出さないっていうか。

だからどちらかといえば苦手な方なのだが、同じ班になったからなあ。前から回ってきたしおりを一枚手に取り、ロオラちゃんに回す。丁度緑間くんにプリントを回してる高尾くんと目が合った。

「高校生にもなって山登りって微妙だな」
「え?」

もう見たの?一瞬で?と私もしおりに視線を落とす。おぉ…山登りだ…体力勝負というわけだな。「みょうじちゃん山登り平気?」プリントを見ながら言う高尾くんに、うーん…と曖昧に頷く。

「迷惑はかけないように頑張るよ」
「いやいや、逆に真ちゃんが迷惑かけちゃうかもしんないしね」
「おい」
「じょーだん!」

緑間くんをからかえるだなんて高尾くんでなきゃ無理なんじゃないかな…。後ろの緑間くんを見ずにけたけた笑った高尾くんは、にしてもなんで今さら山登りかねー、なんて続ける。同意しながらプリントを見ていると、リーダーを決めるという項目があった。ちょうど先生が「リーダーを1人決めろ。リーダーは全員の携帯番号を知っておくこと」と声を出す。

「じゃあリーダーやるわ」迷わず軽く手を挙げた高尾くんにぎょっと驚く。たたた確かに誰かリーダーやってくんないかなって思ったけど、そんなあっさり受け入れられても。やっぱり高尾くんわからない…なんでそんな自分で自分を追いこむような。

「まっ待って、私やるよ」
「えっ。ハッ、みょうじちゃんが?」
「えっなにその鼻笑い」
「当日に雪降らしちゃうぜそれー、みょうじちゃんがリーダーなんてそんな天変地異な」
「確かに自分でもリーダーなんて想像できないけどそんなズバッと…!」
「まあまあ、こんぐらいなんでもねーから任せなさいって」

携帯を取り出して、こちらに目線だけ向けて笑んだ高尾くんにぐっとつまる。軽い調子で流しながらもやっぱり引き受けるんだ。なんか…この人敵わないな…。「それに真ちゃんはまとめんの手こずるし」ぼそり目線をそらして言う高尾くんの言葉が聞こえたのか、視界の隅で緑間くんが高尾くんを睨んでいた。

「真ちゃんのは知ってるから…じゃあみょうじちゃんとロオラちゃん携番教えて」
「なまえちゃん、私の一緒に教えといてー」
「はーい。…あれ」

私も携帯を取り出して、そういえばと高尾くんの携帯を見る。かわいらしいモフモフとした毛玉のストラップがついていた。えっかわ…!
私の視線に気づいたのか、彼は「これ、妹に今日だけ貸してもらったんだわ」と満足げにひらひらそれを振る。

「今日?だけ?」
「そ。ラッキーアイテムなのだよっ」

にこっと笑う高尾くんに、へえーと声が漏れる。さっきも言ってたな、ラッキーアイテム。もしかして朝のあの占いのこと?それにしてもモフモフを持ちながら嬉しそうに笑う高尾くんは…かわいいです!意外にかわいい一面もあったんだね。

「なんかもういいことあった?」高尾くんの携帯に自分の携帯プロフィールを送信しながら訊く。送信完了、の文字を確認して高尾くんに視線を向ければ、彼はやはり笑顔を変えずに続けた。

「いいことづくしで死んじゃいそう」

自身の携帯を軽く揺らし、「あっりがとな」と笑う高尾くんに勘違いしそうになったのは仕方がないと思う。タイミングがタイミングだったし!私の番号知ったのがいいことみたいじゃん!いや、落ち着こう。やはり高尾和成という人物は侮れない。ぜひその流れるようにときめかせる仕草、私にも教えてほしいものですな!





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