迷路 | ナノ

よくある単純な話



中学の頃はぶっちゃけ恋愛なんてもんよくわかんなかったし、なんか付き合うってめんどくさそうだからまだいいや。なーんて思ってたんだわ。それが今じゃこれだよ。ベタ惚れってやつ?まぁ表になんて出さねーけど。自分でもなんでこんなことになったのかわかんねえな。オレが恋愛感情で人を好きになるとはねー。
でもよく言うじゃん?恋の始まりなんて簡単なんだって。気づいてたらその子を目で追ってるし、ああこういう子なわけねって知っていっちゃってるし、がんばれーっつって心ん中で応援しちゃってるし、…まあオレも健全なオトコノコだからそーゆー方も考えちゃうし。一般論で恋っつーのがこうなのかは知んねーよ?でも、すきっつーのはわかるんだなー。はは、ちょっとクサイか。

体育。サッカーでパスを出したらちゃんとシュートを決めてくれた真ちゃんに、ジャージで汗を拭きながらナイスプレー!と声を送る。バスケ部だからってバスケだけじゃねーんだな、これが。これでも運動神経はいい方なんだぜ?サッカー部本気でこいよー。まあおふざけで体育してるってわかってんだけどな、マジなのは真ちゃんだけっつーか。それがおもしれぇのなんの。自然に段々とサッカー部を本気にさせるんだから、マジ真ちゃんすっげーわ。オレも頑張らねえとな。
ふと女子の方を見れば、あっちはテニスをやっていた。ププッ、みょうじちゃん空振ってやんの。相手チームの繋いでるパスルートにカットを入れ、真ちゃんにパス。にしてもみょうじちゃん、あんな顔真っ赤になっちゃってまぁ。体温上がりすぎてぶっ倒れんなよ?なーんて…ハイハイ、真面目に体育するって。だからそんな睨みなさんな、真ちゃん。

「またみょうじか」
「まあねー。体育の時間しか体育のみょうじちゃん見れないし?」
「それとこれとは話が別だ。パスを出すのが遅くなってるのだよ」
「わーかってるって」

適当に返事をして足首を回す。グラウンドは広いし、テニスコートは大分離れてるからサッカーしながらみょうじちゃん見るのは無理っぽいな。まあいいけど。これ以上見てるとさすがに変態っぽいし、真ちゃんにも怒られたし。




恋とかめんどくさいんじゃねーの、なんて考えていたオレを変えたのは中学時代のこと。中3で同じクラスになったみょうじちゃんと日直になったのが始まり始まりってワケ。それまで朝の挨拶ぐらいしか接点がなかったから、彼女には申し訳ねぇけど全然知らなかったしおとなしめなイメージ抱いてたし、視界の隅にいる女子のグループの1人、ぐらいしか思ってなかったんだよ。

「ミノちゃんみたいに私も要領よかったらいいんだけど」「ミノちゃんて明るくて優しくてさ、一緒にいると楽しいんだよ」「彼女にできる男の子は幸せだよね、ミノちゃんかわいいし」

放課後、日直当番になったため机を挟んで二人で日誌を書いていれば、ミノちゃんミノちゃんミノちゃん。みょうじちゃんの口からはひっきりなしに『ミノちゃん』の話題が出てきた。はいはい、知ってるぜ、ミノな。クラスのマドンナ的存在の。確かに容姿はかわいいかもしれないけど。
一生懸命『ミノちゃん』のことを話すみょうじちゃんに、こんなに話せたんだ、なんて失礼なこと思いながら適当に聞く。

「ミノちゃん彼氏ほしいって言ってたんだよ。あんなにかわいいならすぐできるはずなのにね」
「ほー」
「高尾くん似合いそうだよミノちゃんと」
「そーかねー」
「…高尾くん、ミノちゃんのことどう思ってる?」

吹き出したいのを堪えて拳で口元を抑える。ハハッ、みょうじちゃんわかりやすすぎでしょ。なになに、ミノちゃんがオレのこと好きって?だからミノちゃんの良いイメージを植えつけようって?女子ってこういうとこわかんねーな…直接そいつと話さねーとそいつがわかんねえし、そんなんで好きにならなくない?
オレはミノちゃんよりもみょうじちゃんの方がだんだんわかっていってるけど。本人がいないところでこーやって褒めちぎるって、いいやつなんだろうな。『ミノちゃん』の話をしながらキラキラしていたみょうじちゃんは、怪訝な顔してオレに訊いた。

「別に、なんとも思ってねーけど?」
「…あ、そう」
「さっさと日誌片付けちまおーぜ、そのミノちゃん昇降口で待ってんだろ」
「そうだ!」

日誌書きを始める前に聞こえた二人の会話の内容を持ち出せば、みょうじちゃんは弾かれたように日誌に向き直った。

その後、日誌を職員室に持って行く、と名乗り出たみょうじちゃんに任せ、オレはとっとと部活に行くことに。昇降口で上靴を履き替えれば、ちょうど下駄箱の陰の向こうから『ミノちゃん』とその友達の声が聞こえた。

「なまえ遅くない?いつまで待たせんだっての」
「高尾と話してるんじゃない?」
「うわー、だったらムカつく。ていうかアイツ協力するとか言ってたけどさ、チキンでろくに話せないやつがどーやって協力するんだっつの」
「隠し撮りとか!」
「アハハそれ犯罪!まあ使えるものは使うけどさー」

あらら。みょうじちゃーん、ひどい言われようだぜ。女子ってこっわ。靴を履き替えて下駄箱を抜ける。横目で見れば、オレを見つけて驚いた顔をしている『ミノちゃん』とその友達。「き…聞いてた…?」と青ざめていくミノに、小さく笑った。

「もったいねーよ」
「え?」
「みょうじ、ミノが思ってるよりいいやつだぜ」




次の日、教室に入ってきたみょうじちゃんにおはようと挨拶したまま手招き。疑問を浮かべながら恐る恐る近づいてきた彼女に、苦笑しながら口を開いた。

「オレはサイテーなやつだから、ミノちゃんには合わないわ」

だからもうその話題やめてな、なーんて意味も混ぜながら言えば、みょうじちゃんは「ええ?」とオレにつられたように苦笑いで返した。

「サイテーだったら、日直の仕事ほとんど1人で引き受けたりしないよ」

みょうじちゃんはきっとミノのことを大事な友達に思ってんだろうな。でもな、あっちはそーでもないみたいだぜ?端から見てると惨めすぎんだよ、ただの駒扱いされてんだって。…なーんて言えないけど、多分それを知ってもみょうじちゃんはアイツを完璧嫌いにはなんねーんだろな、どーせ。『ミノちゃんは明るくて優しくてさ、一緒にいると楽しいんだよ』言ってたみょうじちゃんの顔は本物だったから。

「サイテーの基準低すぎんだよ、みょうじちゃんは」

え、なに?とまた疑問符を浮かべた彼女になんでもねーよ、もう行っていいぜと笑って手を振った。素直に『ミノちゃん』たちの所へ行った彼女の背中を見送り、はあぁと息を吐く。しょーがねーな、もう。

それからね、みょうじちゃんを気になりだしたの。目が追っちゃうっつーか。単純すぎだってのは自分でもわかるし、特別惹かれた所もわかんねーけど。でも、いつの間にかすきになっちゃってるもんだって!
…とまぁ思い出に耽っていたらパスミスしちまったんで、真面目に体育受けようと思いまーす。





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