迷路 | ナノ

嘘をつくより簡単なこと



さて、どうするべきか。勇気のない自分自身を情けなく思う。女の子は話せるけど男の子となるとどうも無理なんだよね!特に目立つ系な男の子となるとどうもね!

次の日、借りた傘を乾かして学校に来たはいいものの、なかなか高尾くんに傘を返せない。ちょっとおとなしめな占地(シメジ)くんグループならまだ気軽に話しかけられるんだけど、クラスの人気者グループは近寄りがたいんだよなあ。
ふっ、とへたれな自分に息を吐く。そうこうしているうちに放課後だよ。まあ放課の前に傘返されても邪魔なだけだしね。そうそう、まだ間に合う大丈夫。

放課後だがまだ大半がいるクラス。女友達の話に混ざりつつ高尾くん1人にならないかなー…と様子を見ていれば、彼は緑間くんとの話を止め、廊下に出て行った。これは…チャンスか?

よし、と勇んで傘を持って立ち上がる。部活前に返さないと、部活終わるまで待つことになるからね。今のうち渡そうがんばろう。
廊下を出て、どこいったのかなトイレかなと足を進めて、おっと止まる。曲がり角の先に高尾くんと生活指導の先生が話していたのだ。とっさに隠れたけど…多分見つかってない、はず。

「お前だろ高尾、1階の昇降口の横の廊下の窓割ったのは!なのに謝りにも来ないとは何事だ!」
「だーから…なんの話っすかね…」

高尾くんの声質から、苦笑いが読み取れた。窓、割った?ああー、だから朝来た時あそこの廊下の窓ダンボールで覆われてたんだ。…高尾くんが割った?そんなまさか。

「身に覚えがなさすぎてわけわかんないっすよ」
「しらばっくれるな。お前のクラスの原見と軽美が言ってたんだよ、貴様が昨日の7時頃にそこにいたのを見たってな!」

原見と軽美…あれ、その二人確か昨日その割れた窓付近で見かけたけど。そこで気づいた。ああ、割っちゃったから責任を高尾くんに押しつけたんだあの二人。なんだそれ、なんのために。だって同じ目立つ塊にいるじゃん。友達じゃないの。

「知らねーっすよ。オレじゃねえっす」
「なにヘラヘラしてんだ!」

聞くからにめんどくさそうな呆れた声で返した高尾くん。そりゃそうだ、なんで高尾くんが怒られてんの、意味わかんない。だってあの時高尾くんは私に傘を貸してくれたんだ、わざわざ嘘をついて。そんな彼がウワアアアと窓を割る奇行に走るとは思えない。
壁に隠れる自分自身の足を睨みつけ、ごくりと唾を飲む。先生に意見なんてできないししたことないけど、でもそれどころじゃない。

「あっの、お、お言葉ですけど高尾くんはその時間、私と話してました。そのあとすぐに緑間くんと合流したと思うので、彼は割ってないと思い、ます」
「! みょうじ」

壁から出た早々につぶやけば、驚いた顔の先生と高尾くん。私の言葉を聞いて言い難い表情に歪めた先生をそのまま、高尾くんに向く。
少しきょとんとした顔で見てくる彼に、ずいと傘を差し出した。

「昨日傘貸してくれてありがとう。…うん、助かった」

しばらく傘と私を見返していた高尾くんは、ほんの小さく笑って「イエイエ」と受け取った。

「そうか…」と咳払いした先生は、多分もう高尾くんになにも言えないだろう。実は昨日、私を日直で人使い荒くしてくれた先生とはこの人だったのだ。昨日のこともあり、ちょっとは悪いと思って話聞いてくれるかな、なんて。それに先生はどうやら緑間くんに弱い。なぜかはわからないけれど。

「…ならなにか気づいたことはなかったか?」
「いえ…先生の手伝いが遅くなって、急いで帰ったから気づきませんでした…」

ひねくれた答えを返せば、先生はぐっと顔を固くし、「なにかわかったことがあれば教えろ」と言い残して廊下を去っていった。あー、先生に嘘ついちゃったよ。しかも軽く喧嘩売っちゃったよ。

「ありがとなみょうじちゃん、オレも助かった。…なーんかカッコ悪ぃとこ見せちゃったみたいね」

傘の柄を人差し指で持ちつつ揺らす高尾くんは半笑いしながら足元に視線を移した。カッコ悪い?どこが?なんて空気読めないことは言えずに、いやいやと流す。教室に向かって歩き出した高尾くんに気まずくなりながらついていけば、教室の前でギャハギャハと話している原見くんと軽美くんがいた。
二人は高尾くんに気づくと笑いながら近づいてくる。

「高尾高尾、もしかして呼び出しされた?」
「いやー悪いな!とっさのことでよ!高尾なら教師もそんな怒んねえと思ったし」

悪びれもなくそう笑いながら二人は高尾くんの肩を叩く。私はただ呆然と目をひんむいた。な…なにこの二人…なんでこんなヘラヘラしてんの…人のせいにしといて…。呆気にとられて動けない。
ちらりと高尾くんを見れば、は〜…と長い息を吐いていた。だるそうに口を開く。

「オレ巻きこむのやめてくんね?つかさっさと謝りに行った方がいーんじゃない」
「うっせーよ。お前はどーせそんなどやされてねーだろけど、俺らはバカだしすぐキレられるんだよ」
「高尾も軽美も落ち着けって。いいじゃん、もうこの件はなしなし!」
「なにがいいの?」

ばっと三人の目がこちらを向く。…やばい、つい口が開いた。いやだってこの二人頭おかしいから。こんなチャラそうで賑やかな男子と面と向かうなんて怖じ気づくけど、でも高尾くんを貶すなんてちゃんちゃらおかしいでしょ。

「そうやって人になすりつけて、ろくに謝らないとか…あっ、ありえない。…高尾くんも高尾くんだよ、めんどくさくしたくないのかなんなのか知らないけど、もっと自分のことはっきり言っていいんだよ!カッコ悪くなんかないからさ…!」
「……」
「…とか…思っちゃったり…しちゃったり…とか…、はい…」

うわああどさくさに紛れてなーにを言ってんだ私は!信じられない。高尾くんにも言うなんて信じられない。もっとはっきり言えって私が言える立場じゃないしね!はぐらかせてないはぐらし方をし、居心地の悪くなったその空間を去ろうと教室に足を向ける。
「みょうじちゃん」背中にかかった高尾くんの声にぎくりとしながら恐る恐る振り返る。ややややっぱり怒らせたよねごめんなさい。しかし振り返った先の高尾くんは、やっぱり人差し指で傘の柄を持ち、ぶらぶらと揺らして笑った。

「マジでサンキューね」

私お礼言われるようなことまったくしてない。むしろ意味わからない叱咤をしてしまった。なのに高尾くんがそう笑うものだから、心の奥でほっとして「ああ…うん」しか言えずに教室に入った。




ハハッ、みょうじちゃんよく頑張ったなー。なんて、教室に入っていった背中を目で追いつつ自然に頬が緩む。やっぱりバレてたのかねー、あの様子じゃ。オレが折りたたみ傘ねぇのに傘貸したこと。
教師の話を聞いてる時にみょうじちゃんが盗み聞きしてるのはわかってたけど、まさかあの場面で出てくるとは。そんなキャラじゃねぇのに、オレのためってとこが嬉しいねえ。みょうじちゃんのおかげで教師の小言も止んだし、みょうじちゃん様々だわ。
しかもまさかみょうじちゃんに叱られるとは。レアすぎて笑いそうになったじゃーん。めんどくさいのか知らないけど、ってバレてるし?そうそう、正解だよみょうじちゃん。責任転嫁してきたコイツらはぶっちゃけ最初から友達でもなかったけど、教師の小言もコイツらも軽く流しとけばいいじゃん?無駄な労力は使いたくないってね。と思ってたら、はっきり言えとのお叱り…変なとこで熱くねぇ?みょうじちゃんもあんまはっきり言わねーくせに。
…でも、そーいうとこもやっぱあれだわ、好きすぎる。

「なにあの女。急にわけわかんね。誰」
「ありえないとか黙れよって話だよな。お前の考えとか知らねーし。つか今の顔見た?必死な顔ちょー笑え…」

ま、みょうじちゃんにも言われたしたまにははっきり言わねぇとなー。俺が利用されたり暴言吐かれたりするのはいいぜ?ちょちょいって流すし。そこまでちゃちい心持ってねぇって。…でも、真ちゃんとかみょうじちゃんとかさぁ…大事なやつを悪く言われたらさすがにキレるっしょ。

軽く笑いながら軽美の襟首を掴む。あっは、みょうじちゃんの顔?見た見た。ちょーかわいー。わかんなくていいけど。
驚愕に歪む顔に視線を突き刺しながら笑う。

「そろそろ黙ろうぜ、調子のりすぎんなって。…あの子に何かしたら許さねぇよ?…マジで」

やつの襟首を離して、そのまま二人に視線を向けず教室に入る。ふあぁ、と欠伸をもらして真ちゃんに「遅くなってわりぃーね、部活行こーぜ」と声をかけた。「遅すぎなのだよ」と眉を寄せながら席を立つ真ちゃんに笑いながら、教室の端で女友達と話してるみょうじちゃんを視界の端で捉える。らしくもなく淡い恋っつーワケね、これが。





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