迷路 | ナノ

選択肢はいつだって



日直の仕事がこんなにもめんどくさいなんて。放課後に先生に呼び出され、授業に使うプリントを印刷してまとめてほしいと言われたのはまだいい。ぱぱーとやっちゃえばいい話だ。めんどくさいけど。でも先生がおっちょこちょいを発揮して、まとめる順番をバラバラにしたりコピーミスしたのだからこりゃ大変。整理したり印刷し直したり大量のプリントをまとめていたら、もう空はどっぷり日が暮れていた。

ごめんな、と先生がお詫びとしてくれたペットボトルのお茶を鞄に入れ、昇降口に向かう。校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下にて、外を見てため息を吐いた。雨が降ってるじゃないか。
ああ…そうだったね!天気予報じゃ夜から雨だった。私は夕方早くに帰れると思ってたから傘は……うん。友達もみんな帰ってるだろうしな。こんなに長引くとは思ってなかった。

さてどうしよう。駅までは地味に遠い。その場で腕を組んで頬に手を当てうんうん唸る。…そうだ!今はちょうど部活が終わる時間じゃないかな。誰かに傘入れてもらおう。
そう空から目を離し、また校内の方に振り返ってぎょっとした。ちょうど高尾くんが渡り廊下の方に出てきたからだ。びっくりした、まだ人いたんだ。

「…おー、みょうじちゃん。まだ帰ってなかったんだ?」
「あ、えっと日直がちょっとね。…高尾くんは部活?」
「そ。終わったけど」

すでに学ランに着替えている高尾くんは、傘を揺らしながら渡り廊下のど真ん中で立ち止まっている私の方へ歩いて来た。その足取りの軽さは雨の憂鬱感さえものともしない。
お疲れさま、と声をかけると高尾くんはありがとなと言いながら私に傘を差し出した。

「…え、持てということですか?」
「っは!なんでよ。貸すってことですよ」
「え」
「傘ないんだろ?」

傘の柄を揺らしながら言う高尾くんに、じわじわと羞恥が募る。…考えていたの見られたのかな、それともなにか感じたのか。すごいなーこの人、と思いながら「いや大丈夫」と返す。あ、そっけなさすぎたかもしれない。

「た、高尾くんが濡れるじゃん…」
「オレ折りたたみあるしー」
「あ、じゃあそっちで」
「結構ひどい雨よ?ちっちゃい傘なら濡れるって」

それは男の高尾くんの方がそうじゃないか、なんて思っていれば強引に傘を押しつけられる。そのまま高尾くんは「んじゃ暗いし気をつけてなー」私を通り過ぎて体育館へ向かっていった。

うわ…うわ…なにあのさりげない優しさ…男前か…!なるほどあれは惚れるわ。女の子メロメロだわ。ははー、と感心しながら昇降口に向かう。あのスムーズな動きと、さりげない優しさ、それなのに多少の強引さ。完璧である。いやあ、クラスの人気者というだけあるね。
そんな高尾くんとは同じクラスである。そして中学校も一緒だった。しかし目立つグループにいる高尾くんとは違い、どちらかといえば地味な私。話したことなんて挨拶程度だ。それは高校の今でも変わらない。だから今日こんなに話してびっくりだよもう。

地味に緊張したなあと足を早めていれば、昇降口から見える廊下の奥の窓付近に男子生徒2人が見えた。あれは同じクラスの原見(ハラミ)くんと軽美(カルビ)くんかな…高尾くんと同じ目立つグループでまったく話さないから定かではないが。

特に気にせずに昇降口から出てバサリと傘を開く。青色だ。白くて鈍い曇り空でも青色だから青空ってか。粋だね高尾くん!まあ多分違うと思うけども。


そして帰り道、雨に打たれず悠々と歩く途中で本屋に寄る。新刊を何冊か手に取ったり雑誌をパラ見したり、いつの間にか時間は潰れていった。こんな寄り道できたのも高尾くんのおかげだよ、なんて思いながら本屋を出れば、頭の中を占めていたその人物が緑間くんと歩いていた。
背中姿でもわかりやすいその二人はなにやら言い合いながら歩いている。…あれ、緑間くんは傘を差しているが高尾くんは…。

「なんなのだよ高尾!自分の傘に入れ、きついのだよ!」
「いーじゃん、入れろって!傘ねえんだよ」
「朝はあっただろう」
「あー、壊れた壊れた」
「出ろ。濡れろ」

ザアザア激しい雨にも負けずに激しく言いながら帰っていく二人。雨でも賑やかだな。あの二人クラスでもそういえばよく話してるっけ。…じゃなくて。
ですよねー。あの時わざわざ高尾くん傘取りに行ったのに、私に貸してくれたっていうアレですよねー。優しすぎないかなあの人。なんなの、バファリンなの?そんな優しいイメージなかったのに。しかもそれを隠すとかどういうことなの。もうここまでいくと尊敬の域に達する。

罪悪感がチクチクと痛むのと、感動で柔らむのと。両方感じながらもう一度傘を開いて帰路についた。なんてお礼しようか。




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