迷路 | ナノ

甘酸っぱい贅沢



※二周年企画にあるものと同じものです。




部活が終わって、制服に着替える。まだ汗が引いてないから正直だるいけど、あの子を待たせるわけにはいかねーから仕方ない。くさくないかな、と鼻に腕を近づけてすんと一息吸った時に気づいた視線。うっわぁ、宮地さんがすげえ眼力でこちらを見てらっしゃる。

「なんでしょう」
「……高尾、彼女できたってマジか」
「あっ、聞いちゃいました?」

へらへら笑えばタオルが凄まじい勢いで飛んできて顔面を直撃した。ちょっ痛っ! バスケの腕こんなとこで使わないでほしいんすけど。しかもこのタオル汗くせえ!

「クサッ」
「うるせえへらへらしてんじゃねぇよ轢くぞ」
「へらへらしてるつもりは」

ねーんすけどねぇ、なんて笑った瞬間二本の指がオレの眼球目掛けて迫ってきたからほんっとギリギリで首を後ろに曲げて避けた。あっぶねぇ……! マジでやるつもりだったこの人……!
どうやら宮地さんの気にふれたらしい。まあ宮地さん彼女いなさそうだし、なんか人一倍リア充死ねとか思ってそうだし。
なんて失礼なことを思いながら助けを求めて周りを見渡せば、木村さんは苦笑いでこちらを見ていたが大坪さんと真ちゃんはもくもくと帰る支度をしていた。相変わらずクールだねーほんと。
「でも意外だな」なんとなく固い声音に宮地さんを向けば、彼はベンチに座って足を伸ばしていた。

「お前が一人の女を決めれるなんて」
「ちょっなんすかそれ! オレ、タラシじゃねんすけど!?」
「逆だよ逆。恋愛とか興味ないって感じだったからよ」
「まあ、よかったな」

先輩たちの言葉に、気恥ずかしいっつーかなんつーか。とにかく苦笑いしか返せなかった。ふと視線を感じたから横に目をやれば真ちゃんと合う。

「みょうじが待っているんじゃないのか」
「あっ、と、やべ」

そうだった、この人たちとじゃれてる場合じゃねーわ。ケータイで時間を確認し、慌ててエナメルを肩に担げば「リア充死ね」とつぶやきが聞こえた。苦笑いを洩らしながらお疲れっした、と礼をして部室の扉を開ける。真ちゃんにじゃあなーと手を振ったが軽く無視された。ひっで。

渡り廊下を通り、肌寒さに顔を上げた。あー、雨降ってんじゃん。傘持ってたっけ。今日は降らないって天気予報に書いてあった気がすんだけど。
ぼんやり考えながら、着いた自教室の扉の前で立ち止まる。あれ、明かりついてねーんだけど。もしかしてみょうじちゃん帰ったかな。……や、ねーわ。そーゆーの連絡してくれる子だし。

ゆっくり扉を開け、暗い教室内を覗けばすぐに見つけたあの子。机に伏せているその体制に、ああ、寝てんのね、と。音をたてないよう近づいてよく見てみれば、案の定重ねられた腕の上に頭を乗っけてみょうじちゃんは寝ていた。
うん、なんつーか、申し訳ない半分、嬉しい半分っつーの? 待たせて悪いけど、みょうじちゃんの寝顔見れたのはラッキーだわ。
エナメルをまた静かに誰かの机の上に置き、みょうじちゃんの隣にしゃがみこむ。目線が丁度彼女の顔の位置になった。

じっと。見てても、飽きねーなこれ。しとしとと降る雨と冷気のおかげで、まあ寒いんだけど、頭は冷えない。みょうじちゃんの顔を見れば見るほど熱くなる。だったら視線を外せばいいっつーのに外せない。外すなんて、なんかもったいない感じするじゃん? しかも寝顔見るのはこれが初なわけなんですよ。そりゃあ興奮もするって!



みょうじちゃんと付き合えたのは、ほんとに、マジで、本気で、偶然だとオレは思うね。付き合ってまだ一週間しか経ってないからかもしれねーけど、いまだに実感が湧かない。っかしーな、オレこんなキャラじゃなかったはずなんだけど。

もう結構前のこと。みょうじちゃんが「ちゃんと好きになってからもう一度告白する」と言ってくれたのは。いやー、あれはときめいたね。好きな子にそうまで言われてグッとこない男子なんているわけ? あの真ちゃんでさえやられるね。絶対。
まあでも、待ってるって言ったものの、正直オレはみょうじちゃんを信用してなかったっつーか。オレから好きにさせないとダメじゃねって気づいたわけで、いろいろアタックしてきたつもりなんだけど。
むしろ逆だわ、みょうじちゃんに接すれば接するほど好きになんのはオレの方。これじゃあ彼女に好きになってもらえんのはいつだろーね、なんて自暴自棄になってた時もあったけど。

『た、かおくん。私、』

あー!
みょうじちゃんから再度告白された時のことを思い出して、思わず顔を抑えて仰け反った。はっず! あの時のみょうじちゃんマジ破壊力ありすぎだって! もう一生忘れないねあの可愛さ!
声を抑えて悶えた自分をどうにか落ち着かせて、再び彼女の様子を窺った。顔にかかる髪を、そうっと耳の方まで持っていく。ん、よく見える。

自然に緩んだ頬のまま、オレも机の上に腕を置いて彼女へと顔を近づけた。かーわいい、なんてにやにやしていればみょうじちゃんの瞼が動いてゆっくりと開いた。うお、びっくり。でもオレよりもみょうじちゃんのが驚いたようで。声にならない声で勢いよく後ろに椅子ごと退がっていった。

「たかっ高尾くん、なにし」
「んー? 観察」
「……よ、涎垂れてなかった……?」

目を泳がせながら口元を制服の裾で拭う彼女に、くらりとしたわ。なんでこんな可愛く見えるんだろーね。涎垂れても垂れてなくてもどっちにしろオレにとっては部活後のご褒美ですけど! なんて変態的なこと口に出せばそれこそ本気で嫌われるから、とりあえず頷いておいた。
戸惑いがちにこっちを見てたみょうじちゃんは、ふとはにかみ笑うと。

「高尾くん、部活お疲れさま」

もうやだ。これぞ甘酸っぱい青春ってヤツ? 恋愛系の青春とか耐性ねぇからほんと困るんだけど。まあつまり嬉しすぎてどーゆー反応とっていいかわかんないってことなんだけどさ。

「ありがとな。待たせて悪い」
「いや、私も寝ちゃってたし」
「疲れてんじゃねーのー? 夜ちゃんと寝てる?」
「高尾くんよりかは疲れてないし、ちゃんと寝てるよ」
「そーお?」

エナメルを持って立ち上がると、みょうじちゃんも席から立ち上がった。教室から出て廊下を横に並びながら歩く。「雨降ってるから肌寒いね」窓の外を見ながらつぶやく彼女に、まさか冷えたんじゃないかと思ったその時、とんと歩くたび揺れていた手と手が触れた。冷た。あの教室で寝てたんならそりゃ冷えるよな。……ってオイオイ、どさくさに紛れてなに繋ごうとしちゃってんのオレ。伸ばしかけた指先を握り込めば、みょうじちゃんがこちらに顔を向けた。あっれ、ちょっと機嫌悪そ。え、もしかしてオレのあわよくばが見えちゃったり? 一気に冷や汗だくだく。

「前から思ってたんだけど」
「お、おー」
「高尾くんは、えーと、私に触るのが嫌、とかそういうのでしょうか」
呆然と口を開けたオレの様子に気づかずに、みょうじちゃんは前を見ながら「すぐ離れようとしてるし」どこか拗ねたような声でつぶやいた。いや、不安げな声? どっちにしろオレの気分はだだ上がり。

「ちょっ、なにニヤニヤしてるの」
「ハハッ、だーってさぁ! みょうじちゃんが可愛くって!」
「そっ……それ言っとけば済むような女じゃないですから」
「(ププーッ! 嬉しさが顔に出てるって!)」

まさかオレの一言でこんなにも一喜一憂してくれる日が来るなんてな。感動だよホント。好きを返されることがこんっなに嬉しいことなんて知らなかったわ。
っていうか、そんな可愛いこと言われると触りたくなるのが男の性っていうの? んじゃま、遠慮なく。ぎゅっとみょうじちゃんの手を握れば、嬉しいような困ったような、複雑な笑みを向けられた。




みょうじちゃんって雨女なのかな、ってぐらい彼女との思い出はいつも雨だね。そのフレーズの歌を鼻歌で流しながら傘を彼女の方へ傾ける。みょうじちゃんも負けじと傘の柄を押してオレの方に傾けた。意外に負けず嫌いだよな〜。
雨が突き刺さる街中も、みょうじちゃんが隣にいれば一気に晴れになんだから、単純ってゆーか。自分で言うのもなんだけどベタ惚れだよな、ホント。

「もう、なんでいつも傘忘れちゃうのかな。一つの傘じゃ濡れちゃうでしょ、風邪引いても知らないよ」
「だーいじょうぶだって! みょうじちゃんが風邪引いてもオレが看病すっから!」
「私じゃなくて! 高尾くんだよ!」
「オレは平気よ? バカだから風邪引かねーし……なにより、みょうじちゃんと相合い傘できるし?」

一気にボッと赤くなって顔をそらしたみょうじちゃん。必死で笑いを堪えた。いちいち可愛いんだから、からかいたくなるのも仕方ねーよな、これ。
横断歩道の手前、赤信号で立ち止まる。みょうじちゃん濡れてないかな、なんて彼女の肩に視線を向けると小さなため息が聞こえた。「自分で言うのもなんだけど」彼女の顔を覗き込むように視線を戻す。

「高尾くんが、こんなに……好きになってくれると思わなかった」
「え」
「まあ私の方が大きいだろうけどね」

後の言葉は独り言のように小さくつぶやかれたため、雨の音に消えた。いや、普通に聞こえちゃったけどさ。
なんつーか、どこからつっこんでいいかわかんねーんだけど。みょうじちゃんのことを好きになったのはオレのが早いし、オレのがみょうじちゃんに言えねぇほど好きだし! ……まぁ、きっとオレ以上ではないだろーけど、心の底からオレのこと好きだって思ってくれてんのは薄々感じてるよ。これでも人間観察には長けてるんで。
……や、ウソ。みょうじちゃんだけはいつまで経ってもわかんねぇわ。だからこそ、隣に来てくれたことがどれほど嬉しいか。鈍感なみょうじちゃんにはわかんねぇんだろーね。

信号が青に変わり、待っていた通行人が一気に歩き出す。つられて足を出した彼女の腕を掴んで引き寄せた。
驚きで目を見開いたみょうじちゃんを視界いっぱいに入れながら唇を押し付けて、すぐに離す。感情が高ぶると人間なにするかわっかんねーな。オレは結構理性的な方だと思うけど……って、真っ赤になったみょうじちゃんの顔見たらそんなことも言えねぇわ。

「あーほら、赤に変わっちゃうって。行くぜー」
「ちょっと待った待って待ってください!」

オレって結構わがままな方なんだよねー。その分我慢がきくから、抑えられるけどさ。みょうじちゃんにはもう我慢しなくていいよな。手に入れただけじゃ満足できない。もっと欲しくなる。オレに近づいたからには、もう、逃がしてなんかやらないからな、みょうじちゃん。



なーんて、な。





130518
予想以上に高尾がデレデレしてしまいました。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -