庭球番外編 | ナノ

▼ ホワイトデー

「つーたえたいーのさ、こーころ、こーめて」
「ご機嫌やなぁなまえさん」
「ぎっ!…おしっ忍足くん」

まだ若干の寒さが残る3月14日、教室まで口ずさみながら歩いていれば後ろから忍足くんがこんにちは。おっと…恥ずかしいな。

「どないしたん?そないご機嫌で。やっぱホワイトデーやから?」
「えっあ、うん!」
「素直やな…。ほんならそんななまえさんに俺から…」
「白玉ぜんざいさんにホワイトデーもらっちゃってさ!」

バレンタインのお返しとして曲作ってくれてね、あ、別に私宛ての曲とかじゃないよ!でもリクエストしたんだーなんか恋してる甘酸っぱい曲でさーまさにバレンタインホワイトデーみたいな感じで気に入っちゃって!いやまあ白玉ぜんざいさんの曲はなんでも好きだけど!

まで言って気づく。相手は向日じゃなくて忍足くんなんだ。こんなテンション引かれちゃうじゃんね。
そろりと忍足くんに視線を合わせれば、彼はなんとも言えない表情で固まっていた。あああやっぱり。

「あー…なんか用だった?」
「…いや、やっぱええわ」

若干の表情の曇りを見せ、忍足くんは自分の教室へと戻っていった。えっえええ…。

なんてことを向日に話すと「バァカ」と罵られました。なんで。

「そんなんやる気失せるっつの!」
「…確かに白玉ぜんざいさんの話朝からうるさかったかもしれないけど…」
「あーもう俺もやる気失せた!」
「あはは、向日のやる気がないのは元からじゃん」
「…!」

いつもの冗談で言ったのだが向日はキッと私を睨みつけ、そのまま教室を出て行った。ぽかんと席に座ったままの私。…え、傷つけた?

扉に視線を向けたまま放心していると、ひょこりと二年生ズが顔を出した。鳳くんに手招きされ、先ほどの悲しい余韻に浸りながら近づく。

「な、なに…?」
「はい、みょうじさん。バレンタインありがとうございました」
「…一応貰ったんでお返しです」
「ありがとう…ございました…」

はにかみながら飴が入った小瓶を差し出す鳳くんに、赤くなって目線をそらしながら小包を差し出す日吉くん。いつもの表情で花の髪飾りを差し出す樺地くん。…え、バレンタインのお返し…て。

「えっこれホワイトデーの!?」
「はい」
「うっわ…ありがとう!」

本当に嬉しくて感激で、差し出されたものを両腕で大切に抱えこむ。うわ、優しい。あんなべとべとなチョコだったのにわざわざ教室まで来てくれて…!なんていい後輩だろうね!

「受け取りましたね」ぼそりつぶやいた日吉くんにえ?と首を傾げた。

「いえ…先ほど向日さんに会ったんですけど、向日さんがみょうじさんは受け取らねーよと憤慨していましてね」
「あと忍足さんに会った時もなんか微妙な表情してましたけど…喧嘩したんですか?」

喧嘩…というよりなにか私の言葉に気に障ったのだろう。複雑な心境に顔を歪めると、「別に気にしなくていいCー」と眠そうな声がした。

「あげようとした時に他の男の話されたらそりゃあげる気失せるよねー」
「ジローくん…え、わ、私どうしよ」
「だからなまえは気にしなくていいんだって。それでもあげた方が何倍も良いのに気づかないアイツらが見栄張ってるだけだCー」

はい、俺からのお返Cー。とジローくんは期間限定のポッキーを私に差し出した。ためらいながらももらう。「あ、ありがとう…」忍足くんと向日に謝った方がいいかな…でもそれでまたいざこざ起きそうだ。
なんて考えてたら両頬をムニリと挟まれた。

「今は俺があげたんだから笑ってよなまえー!」
「いひゃひゃひゃ…あひはほひほーひゅん」

視界いっぱいに映るジローくんが満足そうに笑ってやっと頬が離された。「大丈夫ですよみょうじさん」励ましてくれた鳳くんに笑うと、隣のクラスから宍戸が出てきた。

「おっみょうじ。なんだ、みんな今渡してたのか」
「はい!」
「そか、じゃあ俺も。みょうじ、バレンタインはありがとな」

そして宍戸が私に渡したものは文具セットだった。「色気ね〜」とつぶやくジローくんに「なんていうか宍戸さんの葛藤具合が窺えますね」と日吉くん。
「うっせ!」叫んだ宍戸は少し赤くなっていた。

「ありがと宍戸」
「おう…なんか悪かったな」
「いや、嬉しいよ」

そして息を吐いて、もらったものを一旦自席に置いてみんなの前で頭を下げた。

「ほんといつもありがとう…これからもよろしくね」
「なんですか今さら」
「はは、みんな好きだよ」

頭を上げたら「俺も好きー」とジローくんが頭を撫でてくれた。鳳くんもにこにこしてたし日吉くん樺地くんは無反応で、宍戸は若干照れてたけどどうやら伝わったようだ。

そして屋上に向かって走り出す。まだ伝えてない人たちがいるのだ。

「むか、ひ、忍足くん」
「なんだよわざわざホワイトデー貰いに来たってのか」
「岳人、そない言い方あらへんやろ」

屋上の扉を開けると柵に寄りかかっていた二人がいた。とりあえず近づいて、「さっきは気分悪くさせて…」眉が下がる。

「ええよ、やきもちやったんや」
「…まあお前の財前好きは今に始まったことじゃねーけど…空気読めよな」
「だって…まさかホワイトデーくれるなんて思わないじゃん」
「思えよ!つか思うだろ!」
「忍足くんはなんとなくくれるかなって思ったけど…」

まあいいや。私もバレンタインにあまり言えなかったから言うけどね、とそこまで言って向日から投げ渡された物。「図書券!」と叫んで向日は柵にさらに寄りかかった。

「可愛ないなぁ岳人は…ほな俺からはストラップな。携帯にでも付けたって」

そして優しく手に持たされた綺麗な装飾品で彩られたストラップ。
二人からの気持ちに自然に頬が緩んだ。うわ、涙腺まで緩んできた。「ありがとう…二人とも好きだよ」ぽろりと落ちた言葉はどうやら聞こえたようで。

「現金なヤツ!」
「初めから素直に渡しとけば良かったわ」

はにかむ二人に私も目を細めた。

「ここにいたのか」ガチャリと屋上の扉を開けて入ってきたのは跡部くんで、そしてギョッとした。後ろに控えるメイドさんらしき人が花束やらラッピングされた箱を持っていたからだ。

「跡部くんまさかとは思うけどそれ私にじゃないよね」
「全部がお前にじゃねーよ。メス猫共へのお返しが大半だ」
「なんていい男だ跡部くん」
「お前にはこれと…」

メイドさんから細長い箱を受け取り、それを私に差し出した跡部くん。…重くないのに重く感じるのはなんでだろうか。
贈り物を見てると急に視界が暗くなった。

後頭部を支える手に、跡部くんの制服のネクタイとエンブレムが間近に見える。おっとこれは…。

「いつもありがとな」

跡部くんに抱き寄せられたってことでいいのかな。「変態!変態跡部!」「ここは外国やあらへんで!」と外から聞こえ、離された後の跡部くんは平然としてたので私も普通になれた。

「じゃあな」
「おい跡部!お前今のお返しする女全員にやんのかよ!」
「なわけねーだろ」
「なまえさんにもやるなや」
「ソイツは女とみなさねーからな」
「なるほどな!」
「おい向日跡部くん」

すたすた出て行った跡部くんの代わりに向日の背中を叩いといた。




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