庭球番外編 | ナノ

▼ ストーカー疑惑

「最近誰かに見られてるような気がするんだよね」

なんてみょうじが首を掻きながら言うから、俺は笑って「自意識過剰じゃね!」なんて茶化した。
つーかみょうじを見るって大抵女子じゃん。うっとうしいものを見るような目で見てくるようなやつもいたけど、最近減ってきたし。

なんてその日は普通に終わって次の日。朝練が終わって下駄箱に向かい、靴を履き替えた。
みょうじもう来てるかなーっつって、みょうじの下駄箱を覗いてあ然とした。自分の見たものが信じられなくて、すぐさまそれを取り出す。

「な…なんだよこれ!」
「どうしたよ岳人」

同じく朝練が終わって靴を履き替えていた宍戸が覗きこんできた。そして同じく顔を青く染める。
俺がみょうじの下駄箱から取り出したものは、10枚ほどのみょうじの隠し撮り写真だった。

「ががが岳人!おまっ…お前いつの間に隠し…っお前!」
「いや俺じゃねえよくそくそ!みょうじの下駄箱の中に入ってたんだよ!」
「どないしたん騒いで」

侑士にも見せたら宍戸と同じこと言ったからすねを蹴ってやった。つーかそれどころじゃねぇよ。
通学路を歩いてるとことか、本屋で漫画選んでるとことか体育してるとことかいろんなみょうじの写真だらけで気持ち悪くなった。いや別にみょうじが気持ち悪ぃわけじゃねー。全部視線が合ってねーんだからこれはやっぱ隠し撮りで。

「なんなん…ストーカー?」
「…あ、そういや昨日みょうじ最近視線感じるっつってた」
「マジでストーカーなのかよ…ど、どうすんだ」
「どうするっつったって…本人には言えねーだろ…」
「それはやめた方がええな…とりあえず跡部に相談せぇへん?」

そうだな、アイツならなんか解決法生み出しそうだし。
朝練終わって教室に行ったであろう跡部のところに行こうとした時背中に「おはよー」と声がかかった。振り向かなくてもわかる。

「朝練だった?お疲れー」
「みょうじ!なんかされてねぇか!?」
「なまえさん、一人になったらあかんで。ほんまあかん」
「…え、なに…」

いやお前ら気づかれるようなこと言ってどうすんだよ!二人まとめてタックルをかまし、みょうじから遠ざけた。

「よっみょうじ!調子いいか!?」
「ま、まあ普通…。どうしたの朝なのにテンション高くない?」
「いつもだけど!お前ももっとテンション上げてみそ!」
「ええ…?」

普通、とか言っときながら俺にはわかるぜ、なんか普通以下っぽいもんな今日のみょうじ!やっぱストーカー被害にあってんのか…?
と、ちょうど滝が通りかかった。みょうじを様子見しながら滝にみょうじを任せつつ侑士と宍戸をつれて「んじゃ後でな!」と跡部の教室に向かった。




「ハッ。みょうじをストーカーなんざ趣味が悪いじゃねーの」
「確かにそう思ったけど言ってる場合じゃねーよ!」
「いや跡部も岳人もみょうじに失礼すぎだろ」

跡部を呼び出し、廊下でコソコソ話。コソコソしてねーけどまあそれはいいんだよ。
例の写真を跡部に見せれば、ヤツは眉を寄せた。

「隠し撮った写真を本人に渡るようにするんは気がしれんわ…愉快犯ちゃう?」
「ストーカーだぜストーカー!」
「どっちにしろみょうじが気分悪くなるのは間違いねえよな」
「…そうだな。だがこの写真がみょうじの手に渡らなかったってことはどうなる」

跡部の問いに頭を傾げる。何事もないようにみょうじが過ごすし良いんじゃねーの。
侑士がしばらく考えて、そして思いついたように声を上げた。

「平然としとるなまえさんを見て、なんかしでかすかもしれへんな」

「どういう意味だよ」眉を寄せた宍戸に侑士はくい、と眼鏡を上げる。

「体育の時の写真もあることやし、撮ったんはこの学校のヤツっちゅー確率は高い」
「あぁ…」
「写真がなまえさんの手に渡るようしたんは、気味悪がったなまえさんを見て楽しむためやと思うねん」
「なんだそれ」
「つか忍足よくわかんな」
「予想や予想!変な目で見てくるんやめ」
「しかしみょうじはこの写真見てねぇんだろ。だったら…」
「あー!ストーカーが怪しんでまたみょうじに何かするかもっつーことか!」

跡部の言葉に思いついてそう言えば、小さく頷いた跡部。…だったとしたらみょうじやべーじゃん。できればみょうじはへらへら脳天気に笑っててほしい。

「ならよう、俺らでストーカーとっちめようぜ!」
「俺も賛成だ!」
「落ち着けお前ら。まだ決まったわけじゃねぇ」

どうやら宍戸も俺と同じ気持ちらしい。けど跡部に止められ声が詰まる。
早くしねえとストーカーがみょうじ襲っちまうかもしれねぇじゃねぇか!地団駄を踏む俺に、跡部は「…みょうじには感づかれないようにしねぇとな」と言いながら樺地に視線を向けた。

「ジローにみょうじと一緒にいろっつっとけ」
「ウス」
「ああ…ジローに意識向かせるんやな」
「俺様は敷地内の防犯カメラを見てくる。お前らはお前らなりになにかしてろ」
「防犯カメラあったのか…」

それからみょうじのとこ行った。

「いいか、後ろからなんか違和感を感じたらダッシュで走るんだ。走り方はこうだ。…ちげぇよ、足の裏はこう!」宍戸は走り方をみょうじに伝授。

「なまえさん、変なやつに会うたらこれ投げや」侑士は当たったら破裂して煙りが出てくる玉を渡していた。

「みょうじー…ぐわっ!痛ぇ!くそくそみょうじのオーラ半端なく痛ぇぜ!」俺はみょうじに近づいて痛がりながら大声でそう叫んだ。

これでみょうじに近づくやつはなかなかいねぇだろ。まあみょうじには俺ら三人変な目で見られたけどな。

宍戸と侑士が教室に帰っていった時「なまえー」ジローが教室に入ってきた。後ろから跡部も来た。

「写真見た〜?」
「え?写真?」
「あれ?俺下駄箱に入れてたんだけど〜」
「写真…ああ、前ジローくんがふざけて撮ってたやつ?入ってなかったけど…」

その会話に止まる俺。跡部を見ると、盛大なため息を吐いてジローを指していた。
…は。

「A〜…どこ行ったんだろ」
「ここだよバァカ!」

写真をジローに向かって投げた。受け止めたジローもみょうじも訝しげな視線を向けてくる。うわっ、なんか泣きたくなってきた。

「…どうしたの向日」
「なんでもねぇよ!くそくそ!」
震わせた肩の上に跡部の手が乗ってきた。温かく感じた。あーもーみょうじの心配なんかしねぇ!

「あ、そういえば昨日の視線今日は感じないんだ」
「あっそ!よかったな!」

俺と宍戸と侑士の今日の行動が本物のストーカーを遠ざけたなんて知るよしもなかった。




[ もどる ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -