庭球番外編 | ナノ

▼ キレるレギュラー陣

∴「怒らないほど怖い」のぶつかった男子生徒の友達視点




俺のよくつるむ男…A男としよう。…が最近イライラ激しくて、正直めんどくさい。なんでも前に、ある女子がぶつかってきたのに謝らず、しかもその女子と一緒にいた芥川慈郎にキレられたらしい。テニス部レギュラーにキレられるなんて運の悪いヤツだな、と軽く励ましたのに八つ当たりされた俺。それからA男はテニス部レギュラーが嫌いになったようで。

いやしかし、さすがにこれはまずいぞと思った。
混んでいる食堂の出入り口で、腕を振り回し肩をならしていたA男の肘が後ろの女子に当たって、勢いが強かったのか女子は尻餅をついた。まあ普通に女子に肘鉄ってまずいが、それ以上にまずいのがその女子がいつかのテニス部レギュラーとよくいる女子で…確か名前は。

「みょうじ!…っテメェみょうじに何すんだよ!」

そうそうみょうじだ。…じゃねえよ。まずいことにテニス部レギュラーの向日と忍足が隣にいた。
額を抑えているみょうじを支える忍足に、今にも掴みかかってきそうな向日。
やべえよやべえよ、とA男を見ると見るからに青ざめていた。だよな!

「岳人、やめや」
「…だ、大丈夫だって」

なだめられて睨むだけになった向日に安心したA男は、調子に乗って「ちゃんと見て歩けよ」と吐いて嘲笑して歩き出した。あわてて追いかける。
と、横を忍足が通った。A男の襟首を掴んで壁に押しつけた忍足。ガンッと鈍い音が響き、周りの人混みが止まった。

「なんや謝りもないんか。…自分ふざけすぎちゃう?」

ギリッと深くA男の首を壁に押しつける忍足の言葉はA男と俺にしか聞こえなくて、やめろよと俺が止めると忍足はやっと離した。見下した視線を向けたあと、向日とみょうじの所へ戻っていく。

「つかアイツ前にもみょうじにぶつかったやつじゃねぇか!もうみょうじに近づくなよバーカ!」
「いややや向日声デカいもういいから」
「なまえさん額赤いで。保健室行こか」

空いた人垣を抜けて行った三人に、俺ら二人は動くことができなかった。




なんなんだアイツら、頭おかしいんじゃねぇのか、たかが肘当たっただけじゃねえか、なんでキレるのかわかんねぇよ。廊下を歩きながらそんなA男の愚痴を聞かされ、フォローの言葉を探す。

「ま、まあアイツらは手出せねえから大丈夫だぜ。ほら、ケンカ沙汰になったら大会とか出場停止になるだろうしさ」

だから暴力とかはねえだろ。よかったな、とA男の肩を叩けばそれだ!という表情のA男が振り返った。

「何言おうがしようがアイツら手は出せねえじゃねえか!最近ムカついてたんだよな、アイツらもあの女も」

周りの女共もみょうじがうぜえっつってるやついたしよ、ちょっと痛めつけても良いじゃねえか、とやべえことを言ってるA男に引いていれば。

「なんだって?」

前方に宍戸と…二年の鳳がいた。宍戸がA男を睨む迫力が怖すぎる。鳳も長身のせいか見下ろす形が恐怖を煽った。
しかしA男はバカだから気がつかなかったらしい。

「別にぃ、ただ最近みょうじが調子乗りすぎだよなぁと思ってよ。宍戸もそう思わね?お前女苦手だろ?」
「…あぁ?」
「あの女、お前らにちやほやされていい気になって…」
「ふざけたことぬかしてんじゃねえぞテメェッ!!」

勢いある怒号に俺もA男も一瞬で頬をひきつらせた。「調子乗ってんのはお前だっつの。激ダサだな!」睨んで歩き出した宍戸。な、なんだよと言ったA男の肩を掴む鳳。

「みょうじさんはそういう女性じゃありません」

え、ちょ、A男の肩メリメリ言ってるんだが。鳳 力強すぎだろ。
「あまり悪く言わないでくださいね!」宍戸よりかは迫力ないが、鳳も睨みながら去っていった。

呆気にとられてる俺らの背後に「んあーっ!」と声が響いた。
振り返ると二年の樺地。の背中に芥川がいた。今にもかかってきそうな姿勢が、樺地に抑えつけられている。

「お前、なまえ傷つけたんだって!?」って情報早えええ。

「あれだけ言っといてまだなまえにちょっかいかけるとかいい度胸してんなーおめえ…あのさぁ、別になまえに興味がないなら近寄らないでくれない?悪いことでもなまえがお前のこと考えんの嫌なんだぁ……ぐー…」

寝たー!なんか怖いオーラ発してると思ってたら寝たー!樺地はそんな芥川をおんぶしながらのそのそと歩いて行った。
A男を見る。怒りに震えていた。なんでいろいろ言われて怯えないんだよお前。

「チッ、なんなんだよ…アイツらマジうぜぇ…」
「フン、頭の悪い言葉は弱く見えるぞ」

急に聞こえた言葉にぎょっとして振り返れば、嘲笑しながら二年の日吉が隣を通り過ぎていった。なんだアイツ…だから情報早すぎだろ。と思えばイライラしすぎたA男が日吉の肩を掴みにかかった。「ちょ待てよ」ってなんでアイツが言うとカッコ悪く聞こえるんだ。

まばたきと同時に、A男が廊下にひっくり返った。逆にA男の肩裾を掴んで倒した日吉の目は、やはり恐ろしかった。

「正当防衛ですよ」

パンッとA男に掴まれた肩の部分を払って、日吉も去っていった。なんていうかテニス部怖え。

おい、もういいだろとA男を見れば「もうキレたしマジ俺キレた」と言い出し始めた。




「お前の部員に立派な暴力ふるわれたんだよ!いいのかなぁ試合出れなくなんぞ!あ!?」
「…で、何が言いたいんだよお前は」

頭がおかしいA男はとうとうトップ…跡部にまで行きやがった。生徒会室まで乗り込むA男の気がしれない。そして跡部様イケメンっつーか華やかなオーラぱねえ。初めてこんな近くで見た。

「だからぁ、謝罪してほしいんだよ。誠意を持ってな」
「却下だ」
「は…あ?なんでだよ!」
「謝罪する理由がねえからだよ。つかお前、みょうじに謝ったのか?二回」

跡部様今回の肘鉄のみならずこの間の肩がぶつかった件についてもご存じでしたか!
詰まったA男に、跡部は妙に見透かした目線を向けて立ち上がる。
俺らを通り過ぎて扉まで行った跡部は、そのまま扉を開けて「退室願おうか」と笑った。

「…もういい!テメェら頭おかしすぎるぜ!みょうじみたいな尻軽女と遊んでりゃテニス部もいずれ落ちるな!」

邪魔したな!と叫んだA男にとうとう終わったと思った。跡部の目の色が変わったからだ。
生徒会室を出ようとしたA男の前に、跡部様の長い足が壁について行方を阻む。
そのまま跡部は獣のような目でA男を睨んだ。ああマジで終わったな。

「…てめぇ今…テニス部もみょうじも侮辱したな?」
「…い、いや」
「つまり俺たちを敵に回すってことだ。…それ相応の覚悟はできてんだろうな…アーン?」

ゾクリと、その部屋の温度がマイナスになった瞬間だった。
その日を境にA男は転校していきました。僕には理由がわかりません。
ちなみに何故かネット上にも小さい頃のA男の恥ずかしい情報が流れたらしいです。忍足と向日の会話を盗み聞くと、白玉だとかぜんざいだとか情報網張り巡らせて見つけたらしいで…だとかどうとか言ってました。
僕はひっそりこっそり生きようと思います。




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