庭球番外編 | ナノ

▼ ツンデレ度が増す

※もしも突発四天宝寺だったら




登校していれば目の前に気だるそうな背中が見えて、おっと思いながら少し足を速める。そのまま猫背気味なそれに手のひらをパンと合わせた。

「おはよう財前くん!」
「痛……朝からうざ……」
「朝から財前節効いてるね」

私に背中を叩かれたことによりさらに丸まった彼は、人の顔を見るに深々と息を吐いてくれちゃいました。こんな爽やかな朝にまったくそぐわないね。
少しばかり速度が速くなった彼についていくとばかり、私もスタスタと足を出す。

「ついてこないでくださいよ」
「いや目的地同じだから……」
「ほんならもう少し離れてくれます? 知り合いだと思われたら困りますやん」
「しっ知り合いじゃん! 思いっきり知り合いじゃない私たち!」
「初耳ですわ……うるさ……」
「君は知り合いでもない人にそこまで辛辣になる?」

ふあわと欠伸を洩らし、人の話を聞いていない財前くんに傷ついてはいないです。朝弱いんだよね、財前くん。あの伝統ある四天宝寺の門を潜る時だってギャグをかまさないのは財前くんくらいだ。私でさえ変顔して通るというのに……「え、素顔かと思っとりましたわ」やかましいぞ……。

今日も今日とて、門番の先生の視線をかいくぐり、普通に門を通って校内に入っていく財前くんを追いかけ、私もしゃくれて入る。

「そういえば財前くん、明日の部活のおやつ、白玉ぜんざい以外でなにがいい?」
「白玉ぜんざい」
「すごい……話が通じない……」
「テニス部でもないみょうじさんがなんで部のおやつに口出しするんすか」
「もうちょっと優しい訊き方しようか、急にテニス部のおやつがどうしたんですかって」
「ああ言えばこう言う……ほんまみょうじさん、謙也さんに似てきましたね」
「えっ、へへそうかな」
「なに喜んでんねん、貶したんですけど」

だって謙也くんは明るいし朗かだしでめちゃくちゃいい人じゃない、似てるって言われれば嬉しいよ。なんてへらへらしながら言えば、バカを見るような目線を向けられた。通常運転である。本当に先輩と思っているのだろうか、この後輩は。

下駄箱から上靴を取り出し、踵を踏み潰しながら履いた彼。私はといえば踵を入れて指先で折り曲がった上靴を直し前を向くと、相変わらず気だるそうにこちらを見ていた財前くんが歩き出した。ついてくるなといいながら、さりげなく待っててくれるんだよなあ。優しさが見えにくい子だよ。

「でね、今日小春ちゃんと部活終わり明日のおやつを買いに行こうって話になってさ。なにかリクエストがあれば聞くけど」
「白玉ぜんざい一択っすわ」
「もー、聞いたよ、一昨日も白玉ぜんざいだったんでしょ?」
「逆に聞きますけど、毎日食べられへんのですか? みょうじさんは」
「至極当然みたいに言うのなんなのその強い心」
「にしても飽きひんのですね、昨日も小春先輩らと遊んだんちゃいましたっけ」
「お、よく知ってるね! 昨日は自撮りアプリでどれだけ盛れるかで盛り上がっちゃってさー」
「地獄絵図ですやん」
「どういうこと」

財前くんにも小春ちゃんとのツーショ見せてあげるよ、と携帯を取り出せば、「いやええです」と手のひらを押しやり断られる。可愛い可愛い後輩にそう拒否されると、構いたくなるのが先輩の業というわけで。財前くんのそらされる顔を追いかけて携帯を向けるわけで。うっとい、と眉間を寄せながら頭をわし掴まれるわけで。

「なんやこれ、耳生えとる……あー、最近流行りの」
「そうそう、かわいいでしょ、小春ちゃん」
「みょうじさんのが万倍かわいいっすわ」
「お、え、気が効く後輩だな」
「これで満足ですか」
「早いよ……もうちょっとお世辞に浸らせてよ……」

まあ財前くんがこうして私に付き合ってくれるだけでも有難いことなのかもしれない。そそくさと携帯をしまうと、「後で送ってくださいよ」と頭上から声が降ってくる。

「え、な、なんで」
「ええですやん、減るもんでもなし」
「なにかネタにする気でしょ……」
「見ると元気出はりますから。世にはブサくても必死に頑張るもんもおるんやて」
「なっなんだと怒るぞ」
「ハイハイ カワイイカワイイ」

どうしてそういうことしか言えないかなもう、テニス部のみんなが好きなくせに。素直じゃないんだから。知ってるんだよ、財前くんのカメラロールにはお笑いコンビがいっぱいいるってこと。
口をへの字に曲げながらも、仕方なしに先ほどの私と小春ちゃんのツーショを彼に送る。「どうも」小さく笑んだ財前くんは、やっぱり嬉しそうだ。

「あれ、財前くんよく見ると目の下に隈あるね」
「ああ……昨日ネサフしすぎて」
「あっ! もしかして白玉ぜんざいさんの新曲!?」

もうすぐで二年と三年の教室への分かれ道であるが、この話題が出てしまったのだから止まらざるをえない。げ、と顔をしかめた財前くんには申し訳ないけど、共通の趣味を持ってるとなれば話したくもなる。
白玉ぜんざいさんというネットではわりと有名な作曲者は、音声合成ソフトを使用し動画をアップしている。財前くんもその人の曲を聴いているようで、よく話題になるのだ。私は財前くんが食べ物の白玉ぜんざいを好きなのも、その作曲者さんのファンだからそうなのかと考えている。

「私も聴いた! すっごくよかったよね今回の! ポップな感じでさー!」
「……みょうじさんはほんまアップテンポな曲好きっすよね」
「それだけじゃないよ、白玉ぜんざいさんの曲はみんな好き」
「…………さいですか」
「でも今回は特に痺れたなあ、ヤンデレっていうのかな、ああも狂気的な愛の歌詞なのにアップテンポだから軽快に進むっていうか……」
「……」

白熱してきた私をよそに、財前くんは何がおかしいのか口元を手のひらで覆い顔を背けた。それに構えるほど今の私は冷静ではないぞ、白玉ぜんざいさんの話だから。

「相手を求めに求めてるって感じとメロディが、ロック感あるのにセクシーだからすごいよね。しかもちょっと共感できるところがまた……私も白玉ぜんざいさん独り占めしたいなって思うもん」
「え!?」
「え? あ、もちろんもっと有名になってほしいよ、でもあんまりメジャーになると寂しいなって。財前くんはあまりそういうの思わない?」
「あ……ああ、……俺は俺だけが知ってればええタイプです」
「なるほど」

わかるわかる、私も初期から白玉ぜんざいさんを追っている身としては、素晴らしい作曲者を発掘しちゃったよ、みんなは知らないだろう、教えないぞと驕っていたところあったけど。

「でも好きな人をみんな好きになってくれるのは嬉しいよね」
「は? 嬉しくないっすわ」
「ど、独占欲が強いね」

珍しく我を丸出しにした財前くんは、すぐにいつものクールな顔に戻ると、それじゃと二年生の教室へ向かっていった。あ、結局おやつ聞けなかったな、とその背中を見送っていると、ふと彼が振り返る。

「買い出し、ちゃんと小春先輩に荷物持ちさせたってくださいね」
「……あ、でも小春ちゃんも女の子だし」
「ふ、アホ抜かし」

最後の最後で笑った(人を小馬鹿にしたようなものだったのは否めない)財前くんは、そこでようやっとスマホを取り出していじりながら教室へと足を進める。
意外と女の子扱いするんだよなあ、なんてむず痒くなりながら、私も教室へと小走りで向かった。



140529



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