庭球番外編 | ナノ

▼ U-17にいる向日と電話

U-17合宿では毎日すっげー練習してるから夜にもなればへとへとで眠くなるんだけど。何日か続けば慣れてきたのか、最近じゃジローと丸井が部屋でずっとボレーの話してる。俺もボレーヤーだし話すのは楽しいけど、丸井の妙技の話は耳にタコだ。氷帝にいた時からずっと聞いてたんだからな。
二段ベッドに寝転び、二人の盛り上がりを流しながらもケータイをいじる。メールは全部返しちまったし寝るには早ぇーし……やることねーな。侑士んとこ遊びに行ってやるかな。

あいつすぐ心閉ざすからな! いっちょ構いに行ってやっか! すぐさま立ち上がり、「侑士んとこ行ってくる」と部屋を出る。聞いちゃいねーよジロー。

えーと、212……部屋に近づけば仲から声がした。賑やかだな。侑士ちゃんとついていけてんのかよ。なんて心配したが、どうやらこのうるせー声は侑士のらしい。あとあれだ、大阪の忍足。扉を少し開けて隙間から覗いて見れば、侑士と忍足謙也が言い争いをしてた。ふーん、楽しそうじゃん。俺らといる時はんなムキになって声荒げること少ねえってのに。

気づかれないように扉を閉め、うなじを掻きながら204に足を出す。いーや、ボレー談義に参加しよ。なんか新技とか考えっかな!
部屋に戻るといやに静かなことに気づいた。中を見てもジローも丸井もいねえ。なんだよ、どっか行ったのかよ。
二段ベッドの下段に寝転がり、ケータイを開く。メール、誰の返信もない。遅えなみんな返すの。俺もどっか遊びに行こうかなー、でも宍戸んとこはダブルス部屋って感じで嫌だし、日吉んとこは二年に混じるの嫌だし……バネんとこ行こうかな。お笑いだし。

受信メールを遡りながら考えていれば、ふと親しみのある名前を見つけた。あんまメールはしねえけど、学校じゃ毎日のように話していたあいつ。合宿中だからそういや最近全然話してなかった。
しっかたねーな、生存確認でもしてやるか。電話番号を開き、すぐに繋いでケータイを耳に当てる。何度目かのコール音の後、「はいはいはい」とばあちゃんみたいな出かたに吹き出した。

「よぉみょうじ。元気か」
『よぉ向日くーん、電話だなんて珍しいね』
「お前が電話嫌いじゃねーか」
『電話嫌いってわけじゃないよ。電話で話すんだったら直接話したいだけだし』

毎日会えるんだから、土日以外。そう話すみょうじの声が、そりゃそうだけど耳元からする。電波を通した声は普段聞いてるそれとは少し違うからか、ちょっとこしょばゆいな。

『どう? 合宿は。えーと、アンダー……なんだったっけ?』
「セブンティーン! 順調だぜ! 俺な、低めムーンサルトできるようになったんだわ!」
『低め? すごいの?』
「すげーよ! さらに身軽になってボレーに磨きがかかった感じだぜ」
『へえー! 合宿の成果じゃん』
「へっへ、今度帰ってきたら見せてやるよ!」
『それは嬉しいね。こっちも滝くんが頑張ってるよ』
「ああ、部誌でなんとなく知ってるよ」
『部誌?』
「パソコンだからな。毎日連絡来るぜー」
『ああー、そういやお金持ちだったな……。レギュラーいなくても真面目にしっかり練習できるのってすごいよ』
「そうか? 当たり前だろ、じゃなきゃレギュラーなれねーよ。簡単にはならせねえけどな」
『そういうことか』
「あと滝が、いてくれるからな。あんま心配してねえ」
『向日って結構滝くんのこと好きだよね!』
「はあー? 気色悪いこと言ってんじゃねえよ!」
『そうだ、ちゃんとそっちでも勉強してる?』
「勉強ぉ? ……してるしてる」
『今度のテストは私の勝ちですな』
「してるって言ってるだろーが!」
『してないよ、そんな声だったよ』
「くそくそ! 決めつけんな! んじゃあ次みょうじが負けたらハーゲンダッツな!」
『向日買ってくれるの? じゃあ負けないとな』
「なんで俺だよ! 負けた方が奢り!」
『よーし、臨むところだ。あ、でもハンデあげようか? テニスで忙しいだろうしぃ、ちょっとくらいハンデあげてもいいよぉ』
「うっぜー! いらねーよ! そっちこそ負けて泣きべそかくなよ!」
『あっはは、まあ勝負とかよりもさ、私は早くみんなに会いたいね』

一拍おいて、ふうんと洩らす。みょうじと机を挟んで会話する時が、なんか懐かしく感じた。
返そうと開いた口からはそのまま声が出なかった。ジローと丸井がそのタイミングで帰ってきたからだ。

「あれ岳人帰ってたんだ〜」
「なに? 電話? 邪魔なら外出ようか?」
「いや」
「もしかしてなまえ!?」

こいつほんと察しがいいよな、と思いながらケータイを奪おうとしたジローをかわす。「俺もなまえと電話したEー!」と夜でもうるせージローを睨み、通話口に耳を当てた。

『あれ、ジローくんと同じ部屋なんだっけ?』
「おー。丸井もだからよう、こいつうるせー……」
「なまえなら俺も変わってよ、久しぶりに話してぇ」
「俺! 俺が先!」
「うっせええ!」
『うわっ向日ケータイ近づけながら叫ばないでよ!』
「なまえー、聞こえる? 俺俺丸井ーしくよろ!」
「俺芥川ー!」
「ああもうわかったっての! ほらよ!」

ジローにケータイを渡せばさっそく話し始めた。その横腹を蹴って壁に向くように寝転ぶ。別にみょうじには特に用事ねえし暇つぶしだからいいけどよ、俺のケータイ使うなってな!

数分が経って、思ったより早くケータイが戻ってきた。渡してくれた丸井は苦笑いをこぼすと自身のケータイをいじり始める。ジローを見ると「なんかなまえの声聞いたら眠くなってきた」とつぶやきながら俺がいるベッドに入ってきた。慌てて退き、ケータイを耳に当てる。

『すごい楽しそうじゃん合宿』
「お、おう。まあな」
『よかったよかった』
「……」
『?』
「みょうじ、は、俺がいなくても楽しめてんのかよ」

しばらくの間の後、ふっと笑う声が聞こえた。ちっ。侑士みてえな笑い方しやがって。

『向日がいないとちょっと寂しいよ』
「仕方ねーやつだな」
『ちょっとね、ほんとちょっと。米粒くらい』
「それ全然寂しくねーじゃねえか!」
『ははは』
「土産話たくさん持って帰ってやるからよ、寂しがらずに待ってな!」
『向日も寂しくなったらいつでも電話しな!』
「なんねーよ! じゃあな!」

ほんとあいつ調子乗るとうぜーよな、なんて思いながら通話を切る。くそくそ、あんなこと言われたら電話しようにもできねーじゃねえか。
「岳人、顔にやけてるよ〜」覗きこむように見てきてにやにや笑うジローの上に「ジローのがにやけてんだよ!」と飛びこんだ。



140618



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