庭球番外編 | ナノ

▼ 十年後の同窓会

∴If設定として見てくださいな。






時間を確認し、集合時間の十分前になったため慌ててお店に急いだ。懐かしい商店街の道のり。潰れたお店や見慣れない新しいお店を通りすぎた。

今日は氷帝テニス部同窓会です。とても楽しみです。先日、向日から『久しぶりに集まって飲もうぜ!題して同窓会!』となんとも簡潔なメールが来ました。この日を楽しみに仕事頑張ってきたものだ、と自然に頬が緩む。

最近ほんと全然会ってなかったからなあ、ツイッターとかで連絡取ってたりはしたけど。外見変わってわからなかったりして。
わくわくとした高揚感のままお店の前に着く。古い外観の居酒屋、多分ここだよね。メールで知らされたお店の名前と看板を確認し、扉を開けようと近づけば、先に引き戸が開かれた。
中から出てきた赤がかった髪のいかにもDQNそうな格好のお兄さんに、びっくりして手が止まる。ピアスして部分刈り上げで…私が普通に生きていたら関わりもなさそうな…。
そんな彼も真正面に立つ私の姿を見て目を見開いた。

「みょうじ?」
「えっ、と、向日?」
「やっぱみょうじか! 遅かったから迎えに行こうと思ったぜ」

そうしてにっかり笑った彼の笑顔は確かに見覚えがあった。確かに向日だ。うわ、懐かしい!というかなんというか。

「チャラくなって…」
「なんだよ会って早々。ま、とりあえず入れって」

オシャレ番長のごとくセンスがいい彼の後ろに言われるがままついていく。多くのお客さんで賑やかな店内の端っこの座敷の個室になっている所、見れば懐かしい面々が揃っていた。

「うっわ!久しぶりだ!」
「ようみょうじ!」
「わーっ宍戸ー!」

席の奥で手を上げて笑う宍戸はまったくと言っていいほど変わってないから必然的に笑いが漏れた。いやちょっと身体がいい具合に大きくなったな。
そして隣に座っている男性を見て、ええっと…と言葉を濁す。

「日吉、くん?」
「ご無沙汰しています」
「りっ…立派になって…っ」
「誰目線ですか」

正座してきっちりしている日吉くんは少し男の色気が増したように見える。ただでさえ落ち着きがあったのにさらに、というか。ちょっと伸びた髪の毛が跳ねてる。
さらにそのまた隣の男性を見て口元を手で抑えた。ちょっと短くなったその髪と、肌の美しさは変わらない。いやむしろ。

「滝くん…さらに美しくなって…」
「あはは、ありがとう」
「え、滝ってマジでこっちの道目指してんの?」
「馬鹿は酒飲んでから言いな」

手の甲を口元に持っていって暗にオカマを差した向日の言葉をピシャリと笑顔で払った滝くんは、私に座るように促してくれた。
黙ってにこにこしていたジローくんの隣に座る。その隣に向日が笑いながら座った。

「やほ、ジローくん。二週間ぶり?」
「だねぇ〜」
「なんだよ、みょうじとジローは会ってたのか?」
「たまに遊ぶよね、ゲームとか」
「ガキっぺぇー!」
「俺、岳人が商店街のゲーセンでたまにいんの見るC」
「向日さんも芥川さんも暇なんですか?」
「ちげーよ!俺らは店継いでるから時間あるだけ!」

「母ちゃん父ちゃんもまだ店やってるしねぇ」「そうそう!」と気楽に話す向日とジローくんに、素直にいいなあと思った。私も早く仕事落ち着かせて趣味に走る生活したいよ。

「ったく、気楽だなぁお前ら」少し唇を尖らせて、俺なんか、と続けようとした宍戸を遮るように滝くんがメニューをテーブルに広げた。

「とりあえず頼もうよ、苦労話は酒の肴にでもして」
「うわあ滝くん飲みそー」
「はは、否定はしないかな」
「よっしゃ、俺テキーラロックで」
「向日強くない!?えっ大丈夫なの!?」
「やるねー」
「俺はオレンジジュースで」
「日吉くんはかわいいね!?」
「俺は何にしよー…なまえは?」
「私はとりあえず生で」
「お前なかなか渋いな…俺も生で」
「宍戸とみょうじちゃんは生ねー」

とりあえず各々飲み物と食べたい物を頼み、届くまで適当に話す。とりあえず私は今ここにいない4人が気になるのだけど。まあこの中でも特別忙しそうな人たちだしなあ。訊いてみると宍戸が思い出すように口を開いた。

「長太郎は勉強が終わってから来るってよ」
「そういえば鳳は大学院に通ってるんでしたね」
「大学院?弁護士だっけ?」
「おう、司法試験とか大変らしいぜ」

そりゃあこんな居酒屋に来てる余裕はないだろうなあ。なんて眉が下がる。「忍足は?」宍戸の声に、頬杖をついてる向日が口を開いた。

「遅れて来るって」
「忍足くんは今研修医だっけ?」
「おー、患者さんにモテるわーって笑ってたぜ」
「確かに忍足くん好かれそうだからなあ」

そうか?と眉を寄せて訊いてきた宍戸と向日に苦笑いを送る。そんなこんなしてるうちに飲み物と軽食が運ばれてきた。みんなそれぞれジョッキやグラスを持つ。ごほん、向日が咳払い。

「んじゃ、久々の集まりを祝してカンパーイ!」

うぇいうぇい言いながらジョッキを合わせれば金属音が鳴った。ビールを一口。んー、おいしい。
「イッキ!イッキ!」と向日とジローくんに持てはやされてゴキュゴキュジョッキを傾ける宍戸に、馬鹿だなあなんて笑いながら滝くんと日吉くんに向いた。

「滝くんは何してるの?滝くん自分のことあまり言わないから」
「俺はリストランテで働いてるよ。今度食べに来てよ」
「えっ滝くん作ってるの!?」
「メインは作れないけどねー」
「そっか、やるねー、だ」
「でもまだ人生長いし、もっといろんな職を見てみたいとも思うな」

ねえ、と笑う滝くんに確かにと同意する。今の仕事が心の底から嫌だってわけじゃないけど、転職も考えなかったわけでもない。でも先のこと考えると難しいなあ、なんて眉を寄せながらジョッキに口をつける。
お通しをちょびちょび食べてる日吉くんと目が合った。

「そういえば日吉くんが今何してるかも聞いたことなかった」
「別に…俺は」
「日吉は税理士なんだよねぇ〜」
「ちょっ芥川さん!」

税理士、これまた困難な道を突破したんだ日吉くんは。すごいなあ、でも確かにそろばん得意だっていつの日か言ってたもんね。関係ないかもしれないが。
「血が滲むほど勉強して最短ルートで試験合格したって跡部から聞いたC」「ほんとひよっこはなんつーか、壁が高いほど頑張るよなあ」いつの間にか真っ赤な顔の宍戸から目を離したジローくんと向日がおつまみの軟骨の唐揚げを食べながらこちらに向いた。
標的になった日吉くんは顔を歪めながら、嫌な予感を察知したのか身体を少しだけ仰け反らした。

「そんな頑張ってる日吉クンも今日は飲んでみそ飲んでみそ!」
「おっ俺はいいです!明日は古武術の…」
「まあまあまあEからEから!ひよCのちょっといいとこ見てみたE!」
「いいとこなんてなくていいですから!」

テキーラを持って近づく向日とジローくんに、本格的に危なくなったら止めようと思いながらサラダに手をつける。赤い顔でうつろな目をして揺れている宍戸に恐怖を抱いていると、壁からひょっこりと顔を出した人物。

「遅れてすみません」
「ああ、既に出来上がっとるなぁ」
「鳳くん、忍足くん!」

控えめに笑いながら入ってきた鳳くんは私を見ると、わあと顔を綻ばせた。そして両手を包み込まれる。

「お久しぶりですみょうじさん!とても美しくなりましたね」
「や、やだなあ…そんなこと言ってくれるの鳳くんだけだよ。勉強お疲れ様」
「ぶっは!長太郎、会って早々口説いてやんの!」

鳳くんはまさに好青年がそのまま大きくなった顔立ちをしていた。いやあこれは見るからに紳士オーラが漂っている。
急にケタケタ笑い始めた宍戸に振り返ると、真っ赤な顔しながらお腹抱えて笑っていた。なんだアイツ。
宍戸さんは酔うと笑い上戸になるんですよと和やかに紡いだ鳳くん。ただでさえ笑い上戸な方なのに、これ以上笑いのツボ浅くなったら宍戸の腹筋ムキムキになるんじゃないかな。

苦笑いしながら宍戸の方へ向かった鳳くんを見送り、忍足くんの方へ向き直る。髪を短くして梳いたのだろう彼は、さらに大人の色香が増してる気がするね。上着を脱いでハンガーに掛けた忍足くんは、「変わらんなぁ」と笑んだ。

「なまえさん見ると安心するわ」
「相変わらず優しいんだからなぁ」

侑士はなに飲むー?との向日の声に赤ワインと答えながら忍足くんは席についた。適当に話し始めたみんなを見ながら私もご飯を食べる。んーおいしい。にしても懐かしいな、一緒にいれるこの空間がただ幸せだ。二人ほど足りないけれど。そうだ、あの二人は…。
訊こうとして口を開いたが、真正面の日吉くんが机に頭を伏せたのでぎょっとした。
客のクレームや上司の嫌がらせについて話し出している鳳くんや向日たちの横を通り、日吉くん側へ移動する。

「日吉くん、大丈夫?」軽く肩を叩けば、ちらりと顔を動かした日吉くんの目に睨まれた。耳まで真っ赤だ。宍戸といい、向日とジローくんは遠慮というものを…と呆れているうちに、無言で起き上がった日吉くんは次の瞬間には私をむぎゅうと抱きしめてきた。おっ…おお…びっくりした。お酒くさい。一気に速くなった鼓動を落ち着かせる。

「ひ、日吉くん?」
「んー」
「あーこれ日吉酔ってるねー」
「おい日吉!どさくさに紛れてみょうじに抱きついてんじゃねぇよバカ!」
「せやでやめときや、なまえさん彼氏おるんやで」
「…いや…フられましたけど…」
「えっマジマジ!?じゃあこれからはもっと気楽に遊べんね〜」
「せやけどめっちゃなまえさんのこと好きやったやん」
「あっちにも事情があるみたいでさ」
「はははみょうじざまあ!」
「黙れ宍戸…ちょ…日吉くん苦しいよ…」

日吉は酔うと甘えたになるから普段飲み会には絶対行かないらしいですよ、と笑った鳳くんにへえそうなんだと頬を引きつらせる。試しに髪を撫でてみたら「む」とくぐもった声が聞こえた。別人じゃないか!かわいいけど!




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