庭球番外編 | ナノ

▼ おせっかいな四天の先輩

みなさんこんにちは。引いたり忍足謙也です。巷では浪速のスピードスターって呼ばれとる俺や!はっはっは、まったく人気者は毎日が大変やで。白石には敵わんがな。…ほんでここだけの話、もう一人敵わんやつがおるんやけど。

「おう財前!」
「…どうも」

部室に入ってきた財前は、ロッカーに荷物を投げこむと早々に着替え始めた。う…わ〜機嫌わっるぅ…ただでさえ目つき悪いんに、険悪な雰囲気ムンムンに漂わせとるやん。
触らぬ神に祟りなし、やな。と俺は得意のスピードでそそくさと着替えてガットの張りを確認。
ピロン。短い電子音が聞こえ、目線を向ければ財前がケータイを操作していた。ほんまあいつケータイ好きやなあ…。そないずっと触ってやることあるんかい。呆れながらも様子を窺っていれば、眉を寄せながらも無表情で画面を見ていた財前が急に眉間を指でおさえた。顔を腕で隠すようにして、肩を震わせる財前に「え…」と思わず言葉が漏れる。いや、せやって怪しすぎて。

「どないしたん財前、大丈夫か」
「…はい…さわんな…」
「なにこの子!そない言い方ないやろ心配したんに!」
「俺半年は生きられます」
「えっいきなりなに!?」

突然生きる活力を取り戻したように輝き出した財前に唖然。いや実際には光ってへんけど。相変わらずの無表情やけど、オーラがキラキラしとるっちゅーか。
なにがあったんや…とふと財前が持っていたケータイ画面が視界に映る。そこに映っていたのは写メやった。

「なに見てんすか」
「あっすまん勝手に見て!」
「まぁええんすけど」
「(ええんか…ほんま機嫌一気にようなったな…)」
「謙也さんの従兄弟からメールで写メ送られてきたんすわぁ」
「ユーシから?」

えっなんやそれ。いつの間に仲良おなっとんの。四天の先輩の俺やのうて東京のうさんくさい眼鏡の忍足のがええ言うんか…!と妙なところで闘争心を燃やしながら、見せてくれた画面を覗きこむ。
その写メは、体育のジャージ姿の向日と…なまえさんがいた。
あ…あー…なるほど…。

「たまにすけど、写メ送ってくれるんすよ。…ほんまあの眼鏡なに考えとるのかわからへん」
「…ざ、財前に親切心で送ってくれとるんちゃう?」
「いや、多分余裕を見せつけとるんすわ。彼女は俺らのもんやて」

いやに饒舌な財前にびびりながらも、へえと頬をひきつらせる。なるほど…わからへん…。高速で指を動かして、多分ユーシに返事を送っとる財前はチッと舌打ちしていた。怖…ユーシ知らんで…財前怒らせたら怖いで…。

そんな財前がまたピタリと止まる。ちらりと覗きこんで見えたのはまた先ほどのジャージ姿の写真。財前に視線を戻す。耐えるように目を固くつぶって口元を手で抑えていた。

「どっどないしたん!?」
…かわいい…
「はぁん!?なんて!?」
「ほんまうっとい謙也さん去ね」
「去ねませーん!」

いきなり暴言を吐かれたが俺は負けへん。はぁ、と吐き出すように息をついた財前は、また眉間を抑えながら「ジャージ…」とつぶやいていた。…財前はなまえさん好きやったもんな、写メを見て喜ぶのもわかる。今の財前がほんまに喜んどるのかはわからへんけど、さっきまでの機嫌が大分良くなったんは確かや。
せやけど。

「ジャージ姿写メで送られてきてええか?しかも向日も一緒に映っとるし…。どうせなら私服とかピンとかの方がええんちゃう?」
「せやから謙也さんは初恋もまともに実らへんねん」
「関係ないやろ!お前に俺のなにがわかんねん!」
「こんな姿、同じ学校におってもなかなか撮れへんで。しかも友達と一緒にいる時の笑顔は俺といる時の顔とちゃう。いわばレアや」
「お…おぉ…」

あれ、俺の知っとる財前とちゃう。めっちゃデレデレやん。なんか敬語抜けとるし。ひとりごとのようにブツブツつぶやいた財前は、ケータイをロッカーの中に仕舞うとラケットを握った。

「ほんなら俺は後輩の指導があるんでお先いきますよ」
「えっ!?あ…おん」
「謙也さんは24時間後に来たってくださいね。じゃ」
「明日になっとる!」

キレのいいツッコミを返したが、財前はパタンと部室を出て行ってしまった。な…なんやと…あんなルンルンで部活に向かっていく財前…めったに見れるもんとちゃうで。三十年に一度の奇跡や…。
財前に手を伸ばしたままの格好で止まっていると、白石がガチャリと入ってきた。

「どないしたん謙也、エジプトの石画みたいに固まって」
「なんやその表現。…やのうて!ざっ財前が!」

大きくまばたきをして首を傾げた白石に、財前の一挙一動を話すと、白石は徐々に恍惚の表情をして拳を握った。

「なんて純愛…ええなぁ甘酸っぱいって!んんーっ、エクスタシー!」
「俺はやっぱり応援したいわ。二人がくっついたら財前も人格変わって、きっと良くなると思う」
「財前はあの生意気毒舌がキャラやけどな。…まぁ確かに後輩の恋路は応援したい。せやけど氷帝のみなさんが強敵やねん…」
「せやっ!これはどや?俺が氷帝のメンツをメールで誉めまくる!」
「はぁ?なんで誉めるんや謙也。普通そこは悪く言うんちゃう?」
「ツブヤイッターで見たでぇ…彼氏のことを脚色で誉められた彼女は、"彼氏そんなに良くはないよなあ"て見直して、逆に冷めるもんやて!」
「ほんまかぁ?それ…」
「ほんまほんま!やってみるわ!」

白石の疑う視線をよそに、俺はメールで氷帝をめちゃくちゃ誉める。それはもう、王子様やとかありえんくらいかっこいいだとか、なんかもういい感じで誉める。結構な長文で書いてなまえさんに送信!
しばらく白石と次の作戦について考えていれば、返信が来た。えーとなになに…。

「なんて?」
「………ありがとう。いきなりなんで誉められたのかわからないけど、私も若干そう思うよ。でも四天のみなさんもそうだよね」
「みょうじさんはそれよりも氷帝のみなさんが好きやっちゅーことやな」
「あーもぉ!ほなら次の作戦!」
「はい!」
「はい白石くん!」

ピシッと手を挙げた白石を差せば、やつは「イケメンにめっちゃ好かれて嫌がる女子はおらんやろ!」とどや顔で拳を握り叫んだ。

「財前がどんだけみょうじさんを好きか、俺らが脚色して報告するんや!財前のキメ撮り写真つきで!」
「おぉなるほど!なまえさんもそらキュンとくるわ!」
「そうと決まれば写真を…」

撮りに…行かないと…。とケータイを握りつつ部室を出れば、肩をラケットで叩きながら立っとる財前がいた。小首を傾げてこちらを睨んでいるヤツに、俺と白石は一気に背筋が凍る。

「な…なんでおんの…」
「ガットが緩んでたんでラケットを換えにきたんすわぁ」
「へ…へー…あ、ラブルスと師範まだ来ぉへんのかなぁ…探しにいかんと…」
「3人は委員会。千歳先輩は掃除当番。金太郎は元気に部活しとりますよ」
「そーですか…」

低く感情のない声で返してきた財前にもうなにも言えへん。ヤツは「えらい大声でおもろいこと話してましたね」と口角を上げた。ひいい!笑ってへん!口元笑っとるのに笑ってへん!

「俺も混ぜてもらえます?」

ザッと一歩踏み出した財前に、俺と白石は脊髄反射で部室に閉じこもった。ダンダンダンと外から無言で叩かれる扉にすんませんすんませんすんませんと半べそで連呼するしかあらへんて!怖い!
ほんまに財前には敵わんどころか、敵おうと思わない方が俺のためやなあと思いました。とりあえず白石が面白おかしそうに笑っとるけど、おま…この状況なに楽しんでんねん…いい性格やな。ほんまこの二人には敵わん!






「あ…あ?」
「どうした侑士」
「なんや謙也からメール…早くなまえさんと財前くっつけてくれ、俺を助けると思って!…って」
「はぁ?なんだよそれ、知らねーし」
「知 ら ん わ、っと。返信」
「あっいた、みょうじー!帰ろーぜ!」



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