庭球番外編 | ナノ

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二年になって、みょうじさんとはクラスが離れてしまった。それをきっかけに、俺もテニスに夢中になって彼女をだんだん忘れていく。広い広い氷帝学園、会える確率はあまりなかった。そもそも俺、寝てばっかだC〜。多分俺が気づかないだけでみょうじさんとは会ってるんだと思うけど、でもだんだん薄れていった。多分、親切心なんてきっとそんなもん。好きだっつってもそれは人間として。だから、もう関わりがなくなると思ってたのに。

「(眠れる森の美女…)」

中庭の木陰で休んでいた時に聞こえた音。小さな頃からそのミュージカルを聞いてたから耳に馴染む。もうすぐ文化祭なその季節、どこかのクラスがそれをやるのかな〜…と教室の窓を見上げて目を見開く。

窓からみょうじさんがこちらを見ていた。ぱっとすぐにカーテンに隠れた彼女に、口を尖らせながら俺も目をつむって寝転んだ。
やっぱりまだ避けるんだ。さっき衣装拾った時も避けてた。なんでだCー…やっぱり俺が原因で女友達できなかったから?
もう今はいい友達できたかな、頼れるやつできたかな。独りで生きるなんて無理なんだから、早くできるとEーのに。

「ジロー!おっ前、文化祭準備手伝えよ!」
「あー…なんだ岳人かぁ」
「なんだってなんだ!ったくよーほら、行くぞ!」

俺の手を引っ張って歩く岳人の後ろ姿を見てしばらく閉口する。岳人はいいやつだC、あと亮も忍足も滝も、ちょっと変だけど跡部も。みんなならみょうじさん任せられるのに。みんなならきっと…。

「岳人、俺さ〜…岳人たちと友達になれてよかったよ〜」
「は…?なんだよ急に」
「寝ても面倒見てくれるC」
「それかよ!クソクソ!ちょっと嬉しくなって損したぜ…っ」
「嬉しくなったんだぁー、あはは」
「うっせえ!」
「…はは、だからさあ…みょうじさんを…」

それの続きはなんだか上手い言葉が紡げなくて曖昧に口を動かしてから閉じる。不思議そうに見てきた岳人だけど、すぐに前を向いてまたズンズン歩き始めた。

心配なんだよね〜…ほんとにさー。だって笑ってないんだもん。最初からあの笑顔見なきゃ、そうそう笑わない子なんだなって。それだけで済んだのに、みょうじさんはそんな子じゃないってわかっちゃったから。お人好しなのかな俺。うーん…そうじゃなくて、もっと簡単な気持ちなんだと思う。

「ジローくん!!」

文化祭当日、やっぱり中庭で休んでいた俺にあわてて必死な形相でみょうじさんが来た。久しぶりに彼女から話しかけられた。びっくりして飛び起きると、彼女は泣きそうな顔で俺に頼ってきた。
眠れる森の美女の主役の王子が動けなくなった。クラスのみんなが困ってる。成功したい。みんなの頑張りが無駄になるのは嫌だ。そうみょうじさんが懸命に話す言葉に、うとうとしながらも嬉しく思う。
意気地なし、弱虫、自分じゃなにもできないくせに。…それでもそんな強くて優しいみょうじさんが俺に頼ってきてくれてなんかね〜、んー、嬉C。

「みょうじさんが困ってんの、俺がいやだから関係あんの」

驚きに目を開くみょうじさんを連れて彼女の教室に行く。主役をやると伝えれば、教室は三者三様の反応を示したが結局他に代役もいないし俺がやることに。
結果から言えば、舞台は成功したと思う。途中俺のアドリブ入っちゃったけどさー…でも、避けられててずっと伝えられなかった俺の気持ち、届いたっしょ。
ミュージカルやっててね、俺ね、わかったよ。ずっとさ〜俺がみょうじさんと友達になりたかったんだよ。仲間はずれになって小さくなって、それでも精一杯周りのこと考えて。そんなみょうじさんに対する同情なのかな、かわいそうだと思ってるのかな。…もーめんどくせーからなんでもEーよね、俺がみょうじさんを受け入れたいと思ったことには変わりない。

「き、傷ついたのに…怒ってないの?」

目を揺らしながら言うみょうじさんに、疑問符が浮かぶ。傷ついた?俺が?傷ついたのはみょうじさんでしょ。それでもその質問は、彼女が俺を好きじゃないって言っていたことかと訊けばどうやらそうらしく。
なぁんだ、俺はそんなことで避けられてたのかよぉー。みょうじさんが俺を好きじゃなくても、どーでもいいんだって!みょうじさんが俺を好きでも嫌いでもそんなこと関係ないC!

「俺がみょうじさんを好きなだけだし、どーでもいいじゃんね、ねっ!」

もー、そんなことかー。女子が考えることってわけわかんなEー。欠伸して、ふとみょうじさんの顔を見てぎょっとする。ボロボロ泣く彼女に、うわわわと頭が混乱してきた。や、や、やっぱり俺今ひどいこと言った?俺のせい?しばらくして目元を抑えていた彼女は顔を上げた。泣き顔ぐちゃぐちゃ、ブサイクー。

「ごめんね…ありがとう…ジローくん好きだよ…っ」

泣きながら…でも久しぶりに笑ってくれたから、ん、まあいっか。みょうじさんが俺を好きなのなんて、知ってるCー。とりあえずブサイクな顔に素直に吹き出した。




それからあまりみょうじさんに会うことはなくなったんだけど、三年になってある日跡部から衝撃的なことを聞いてマジマジびびったC。

「おいジロー、みょうじなまえを知ってるか」
「みょうじ…」
「そいつがお前を知ってるみたいだぜ」
「え、ジローみょうじ知ってんの?あいつアホでよぅ、今怪我してんだよ!」
「宍戸のせいでなぁ」
「うっせ!悪かったって言ってんだろ」
「もうすぐで来ると思うが」

部室で繰り広げられるその会話に、俺はあんぐりと口を開ける。え、え、なんでみんなみょうじさんのこと知ってんの?どうやら俺が話を聞かなかっただけで、前々からみんな知ってたらしい。

「俺が最初に友達になったんだぜ。んで侑士に紹介してー、いつの間にか跡部と日吉とも知り合いになっててー」楽しげに話す岳人に、驚きで開いた目がだんだん細まっていく。
そか、そっかー…あはは、みょうじさんやっと…。

「ジローくん?」

部室の扉が開いて入ってきた女の子。もうその子は俺が心配するような雰囲気じゃなかった。だってすぐ笑うんだもん。

「ジローくんだ、久しぶりんがごふっ」
「うっれCー!!」

勢い余って盛大にみょうじさんに抱きつく。跡部たちみんなは驚いてるだろうけど、それに構ってる暇ねーCー!だって、だってやっとみょうじさんに友達ができた。俺の大好きなみんなと、友達になってくれた。

「すっげー!俺さぁ、ずっとそうなったらEーなと思ってたんだ!みんなにならみょうじさん任せられるもん!心配いらねーC!」
「な、な、なんの話…」
「よかったぁ…ねーみょうじさん、じゃなくてえーと、なまえ!俺とも友達になろう!」

肩を掴んで引き離し、至近距離でみょうじさん…じゃなかった、仲良くなるんだから、うん、なまえにそう言う。呆然と目をパチクリさせた彼女は、いつかのように笑った。

「私もう勝手に友達だと思ってたよ」

驚いて、それから嬉しくなっちゃって笑う。そっか、そうだよね!もう友達だよね!…やっとなまえと友達になれんだぁ…。心配の目線じゃなくて、対等の目線として。

「えと…なに、お前らも前から知り合い?」
「岳人じゃなくて、俺が最初になまえ見つけたんだC」
「はぁー?んだそれ!」
「うっせえぞお前ら、身支度済んだらさっさと帰りな!」

跡部に叱られてさっさと部室を出る。怪我をしたなまえは宍戸に送られて帰るらしい。俺も〜と二人についていけば、「ほならちょお寄り道せえへん?」と忍足と岳人もついてきた。

「またゲーセン?」
「格ゲーやらね格ゲー!」
「いいな、久しぶりにやるか」
「俺はレーシングゲームがええわ」

話す4人を見て、ぽやぽやと睡魔と戦いながら頬を緩ませる。なんかさー、今日はめっちゃくちゃE〜夢見れそうだCー……ぐぉおぉぉ。


「ジローくん寝た!」
「あっぶね!ジロー!立ったまま寝んなよ!」





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