庭球番外編 | ナノ

▼ 友達についてのジロー

∴ジローとの出会いのジローさん視点話だったり







氷帝学園中等部一年っつっても幼稚舎が同じである顔見知りが多く、あんま変わんないな〜と思いながら欠伸。
アトベが大幅に中等部を変えたから、随分前に見学で来た時とは施設が大分違うけど、まさにお金持ちーでなに不自由ない学園で俺は満足。満足っていうかあまりそこらへん興味なEー。俺は寝れてテニスできればそれでいいから。

でも、それがついていけないって子も中にはいるのかもね〜。なんて思いながら、休み時間に賑やかになる教室で俺はペラペラと大好きな漫画のスタンド名を言っていた。
「なんかつまんねーな。ジロー、面白いことない?」って話を振ってきたから特技披露してんのに、「ジロちゃんなあに?その変なの」「え、漫画?知らねーし、きもいぜジロー!そんな知ってるってオタクじゃね!」って周りは笑う。変でもないし、それ知ってるってだけでオタクって決めつけるなC。まあ別に人を嘲笑うことで話が盛り上がったんだったら、つまんなくなくなってよかったね〜。気分が悪くなって眉を寄せる。けど、周りを囲むみんなの間からみょうじさんが見えて止まった。

一人席に座って、興味深そうににこにこ笑っていた彼女と目が合う。すぐにパッと視線をそらしたみょうじさんは、ケータイを開き始めた。…俺がスタンド名言ってる間、ずっと笑い堪えてたの知ってたよ〜。バカにされてんのかなって思ったけど、でもそういう目じゃなかった。どっちかといえば…あの子も漫画とか好きなのかな〜、な感じを思った、ていうのかな。
そういえば俺、あの子知らない。


みょうじさんと話し始めるきっかけは美術の授業だった。ペアになって相手の顔を描くという内容に、ふわあと自然に出たあくび。隣にいた友達に「ジローやろう」と誘われ頷く。
クラスがどんどんペアを作って賑やかになる中、すんごい眠いけど俺もやろうと手を鉛筆に伸ばした。かつんと指に当たって床に落ちた鉛筆。あらら〜、とそれを手を伸ばして拾った時、床に下げた視界には後ろの席のみょうじさんも映った。膝の上に乗せられた彼女の握りこぶし。ペアを作れと言われても動かない様子に、やる気がないのかなと思ったけど違う。一瞬見た彼女の表情は、唇を噛んでとても寂しそうだったから。
ああ、友達いねえんだこの子。そう納得して、鉛筆を取って前を向く。そーだよねぇ、このクラスは幼稚舎からのやつが多いし。なんか暗そうで引っ込み思案っぽいみょうじさんは溶けこめないのかもね。

「始めようぜジロー、寝るなよ!」と笑う友達になにも言わず、しばらく机に目を落としてから後ろを向いた。伏せていた目を俺に向けたみょうじさんと目が合う。

「みょうじさん、俺の顔描いてくんない?」

気まぐれに近かったのかもしれない。それか同情か。身動きできない彼女の弱さに、俺が手を貸せばどうなるのか見たかった。にこりと笑う俺に、彼女はうろたえる。不安でいっぱいな彼女の顔には、この間見た時のような楽しげな色は一切なかった。

よくわかんねぇけど、俺の周りには人が集まってくれるようで。美術の授業をきっかけにみょうじさんに近づいた俺を見習うように、今までみょうじさんを放っといていた女子が彼女に近づき始めた。クラスに溶けこんできたのはEーことだけどさ、やっぱりまだ慣れないのかみょうじさんの顔は強ばっている。それでも俺には、戸惑いながらも少しずつ笑みを見せてくれた。なんだかそれがすっごく嬉しかった。独占欲っていうのかなぁ、俺が彼女にとって氷帝で一番頼れる立場にいられると思うと嬉しい。

その考えが変わったのはまた美術の時間。この間の似顔絵を相手に渡すというものだった。
「下手だなおまえー!」「わーかわいいありがとう!」と声が響く教室の中、俺も前に描いたみょうじさんの似顔絵を取り出す。上手くねぇな〜とは自分で思うから、ごめんねという思いで彼女に渡した。

「…ジローくん上手だねえ。ありがとう」

俺の描いた絵を見て、嬉しそうに笑ったみょうじさんに「これか〜」と思った。これだ、俺が描いたみょうじさん。俺はね、スタンド名言ってた時笑ってたみょうじさんのさ、俺と話したEーって顔がもう一度見たかったんだよ。どうしてもその笑った顔が見たくてさー…絵にまで描いちった。
その嬉しそうな顔のまま、みょうじさんは俺に「私は下手だけど」と絵を渡してきた。確かに美的に上手いとは言えないけど、でも絵の俺も笑っている。みょうじさんが見てる俺はこんな顔してんのかな〜。つられてあははと声出して笑う。

「そんなに面白おかしい絵だった?」
「ん〜…ありがとー」
「えっあ、うん」

みょうじさんてさ、優Cし面白いし、みんなともっと話せばEーのに。俺が独り占めするのはみょうじさんのためにはならないんだなぁ、きっと。引っ込み思案な彼女が成長するには、自分で居心地のいい空間を作るしかない。俺が多分、クラスのみんなに彼女と話してやんなよ、っつってもなにも変わらないだろうから、みょうじさん自身から動けると…Eーよね〜。

多分親心を持ったのかわからないけど、みょうじさんを心配するようになった。女子グループに溶けこめるように必死に話しかけるみょうじさんに、がんばれーがんばれーって念を送る。いつしか教室移動も女子グループと一緒に行くみょうじさんを見て、よかったね〜と頬が緩む。




「…好きじゃないよ。ジローくんずっと寝てばっかだし、何考えてるかわからないしさ、ジローくんといるよりみんなといる方が楽しいよ」

ある日の放課後部活終わり、教室にプリントを忘れたと亮の前でつぶやけば、待っててやるから取りに行ってこいと言われて仕方なしに重い体を引きずりながら教室に着いて聞こえた言葉。
扉の向こうからのみょうじさんの声。それと何人かの女子の声。

…そっかぁ、やっぱりみょうじさん俺のこと好きじゃなかったんだぁ。俺といるよりその女子たちといた方が楽しいんだぁ。
扉にかけた手を、口元に持っていく。
嬉しい、よかった、みょうじさんも俺以外に友達ができたんだ。よかった。心の底から湧き上がったこの感情に、なるほどね〜と納得。いつの間にかこんなにみょうじさんを好きになってたんだ。少し臆病だけど、弱っちいけど、だからこそ優Cー子。

扉をガラリと開ければ、顔が真っ青なみょうじさんと、なんだか嬉しそうに顔を歪めた女子数人。みょうじさんがなんでそんな顔するかわからなく思いながらも机からプリントを取り出す。女子トーク邪魔すんの悪いしさっさと出ないとね〜。
扉から出ようとすれば、1人の女子から今の聞いてた!?と声が上がった。気にしなくていいよ、という声も。
気にしないに決まってんじゃん。

「いや別にどーでもいいけどさ〜…みんな気をつけて帰ってねぇ」

どーでもいいよ、みょうじさんが俺を好きじゃなくてもそんなのどーでもいい。俺がみょうじさんを好きなだけだもん。だから、俺のことは気にしないでみょうじさんはその子たちと仲良くしなよ。もう独りじゃないんでしょ。ずっと心配してたんだ〜…もう、みょうじさん寂しい顔しなくてEーんでしょ。よかった。
にこりと笑って教室を出る。1年っていうまだまだ子供な俺は、その時みょうじさんが精神的に追いつめられてたなんて知らなかった。

だから、その日を境に女子とも…俺とも距離を取って過ごし始めたみょうじさんになんで?と疑問が浮かぶ。友達ができたんじゃなかったの?なんでもっと独りになってるの?…俺のせい?
謝りたくても避けられてしまう。しゃべりたくても近寄れない。彼女のそばにはもう誰もいない。こんなことなら、やっぱり最初から俺が独り占めすればよかった。




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