庭球番外編 | ナノ

▼ 氷四立クエスチョン会議

東京駅の待ち合わせ場所に立ちながら時計を確認する。

「遅い」
「まあまあ」

同じように時計を確認してつぶやいた日吉くんに苦笑いを漏らし、「財前くんはわざわざ大阪から来てるし、赤也くんは…マイペースなんだよ」微妙なフォローをしといた。

本日は、氷帝四天立海の次期部長さんたちが会議をするということで。なぜ私がここにいるのか、自分でもわかりません。

「あいつらだけじゃ何が起こるかわからないし、だからと言って俺ら先輩がいても本心は話さない。テニス部でもなく、心を開いている君が訊くから意味があるんだ」

なんてことを幸村さんに電話で言われ、「だからあいつらの本心を引き出してよ」との言葉に二つ返事をしたが…引き受けない方がよかったかもしれない。私が彼らの本心なんて引き出せるわけがない。一筋縄ではいかない人たちじゃないか。

「あ、財前くん来たよ。おーい」駅の改札から出てきた彼は、音楽を聴いてるからか聞こえないらしい。しばらくきょろきょろ辺りを見回していた彼に手を振っていれば、財前くんと目が合った瞬間驚かれた。

「………なまえさんもいはったんですね」
「えっあれっ!私がいるって設定で話通ってなかったんだ!あの、お目付役に…ごめんね、邪魔しちゃって…」

財前くんはヘッドホンを外して私の後ろへと目線を向けたあと、はーと息を吐いた。

「確かに邪魔っすわ」
「(えええ…!)」
「(コイツ…)」

うわーやっぱり邪魔って言われちゃったよ。しかしここで挫けるわけにはいきません。ぶっちゃけ日吉くんと財前くんの二人…さらに赤也くんも入ってまともに話すわけないからね!失礼だが。

「あっいたいた!なまえせんぱーい!すんません、待ちました!?」
「あ、赤也くん来た」
「待ちくたびれたわ」
「もっと反省しろ」
「お前らには言ってねーよ!悪かったな!」

走ってきた赤也くんは相変わらずの輝かしい笑顔である。それにしてもやっぱり三人は不安だ…「つかなんだよ会議ってなんでお前らと話さなきゃなんないわけ?」「それは俺のセリフやわ」「俺だって来たくなかったよ」…と、とりあえずどこか入ろう。
適当に近くのファミレスに入り、4人席に誘導され座る。隣に日吉くんが座り、前には財前くんが座った。

「あー腹減った。なんか食っていいっすか?」
「ほなら俺も。切原もういっこメニュー取れや」
「ほらよ!」
「私もなんか飲みたいな、ドリンクバーにしよ。日吉くんは?」
「じゃあ俺もそれで」

店員さんを呼んで、ドリンクバーを人数分、白玉ぜんざい、ハンバーグを頼む。ドリンクバーはあちらからご自由にどうぞ、と言われて立ち上がる。

「私持ってくるけどなにがいい?」
「あ、俺も行きます」
「俺コーラで頼みまっす!」
「緑茶でお願いします」

席に赤也くんと日吉くんを残し、近くのドリンクバーコーナーに足を出す。コップを取って氷を入れれば、それに財前くんがドリンクを入れた。

「……」
「……」

わー気まずいね!財前くんも私もぺちゃくちゃ話すタイプじゃないからというのもあれだけど、やはり…あれだよ、告白のもあって。ちらりと財前くんを見上げれば、彼はドリンクに向けていた目を私に流した。

「会うんは久しぶりっすね」
「えっあっ…そうだね。電話とかメールはしてたけどね」
「やっぱ生で会うんは違いますわ」
「え」
「なまえさんの動揺が手に取るようにわかります」

緩やかに口角を上げた彼は、その緑茶と自分のは持ってきてくださいよ。と言って席に戻っていった。…え…な…なんだ今の…弄ばれた感じ…。だああ!振り回されちゃだめだ!今日は次期部長会議の仲介役として来たんだから!もう!動揺しない!
よし、と意気込んで席に戻る。日吉くんに緑茶を「へいっ」と渡せばさも不愉快だとばかりの視線を向けられた。ああこの冷たい感じ、ありがたいことに冷静になれますね。

「えーと、じゃあさっそく質問するね」
「質問?なんすか?それ」
「幸村さんと白石くんがなんかこの日のためにわざわざ質問考えてくれて。次期部長としての意識調査だって」
「(暇なんだな…)」
「(暇なんやな…)」
「へぇー!面白そうじゃん」
「じゃあさっそく、こほん。どんな部長になりたいですか?」

「幸村部長みたいにビシィってまとめて、たくさん練習して、んで常勝する!」と赤也くん。
「跡部部長を越えます。今の氷帝の良さを保ちつつ、自分なりの氷帝に仕立て上げます」と日吉くん。
「部員の成長の邪魔をせんようにはしたいですわ」と財前くん。
なるほど、やっぱり学校によって違うなあ。メモを取っていれば、赤也くんが「日吉もやっぱあれやんの?氷帝コール!」と笑い出す。

「勝者は…俺様だ!とか!ぶっは!日吉のキャラじゃねえ!けど見てえ!」
「ジャージばっさぁもする予定なん?」
「なっ…誰もするなんて言ってねえ!俺より切原、お前の方がまとめられるのかよ!」
「まとめられるに決まってんじゃん?なんたって二年でレギュラー俺だけだし?」
「部長には頭も必要やで」
「は!?…言ってくれんじゃん。つーか財前、お前だって明らか他人に興味ねー感じだけど大丈夫かよ」
「うちは自由主義やから」
「面倒くさがってるだけだろ」
「こりゃ来年は立海が取るな!」
「はあ?四天やわ」
「ふん、今のうち調子に乗ってろ」

…な…なんだこれ…面白い…!私はテニス部とは関係ない立ち位置にいるからかもしれないが、来年を担う会話がこんなにも面白い。三人とも違って、三人なりに引っ張っていくと思うと。頼もしいなあ。
「じゃあ次の質問するねー」三人が睨み合ってる最中、私はルンルンと質問用紙を開いた。あらかじめ幸村さんと白石くんが考えたやつらしく、跡部くんにため息を吐きながら渡された時は驚いたものだ。えーと、次は…。

「…今の部長をどう思いますか」
「変態」
「すっげーいい人なんすけどちょっと怖いっす」
「理解不能ですね」

あれー…。質問も質問だけど解答も解答だ。一気に顔を歪めた三人に苦笑い。

「で、でも尊敬してるんでしょ?」
「確かに誰よりも努力してるんは認めます。せやけど変態」
「尊敬してるっすよ、俺だっていつか倒してやるんすから。でもちょっと怖い」
「部長のテニスに魅了されたのは事実です。しかし理解不能は否めません」
「……」

ま、まあなんだかんだ尊敬してるというのはわかった。みんなの答えの下に、「一応尊敬はしている模様」とメモに付け足す。跡部くんなら「おい日吉どういうことだ、てめーの頭が俺様を理解できねぇんだよ、アーン?」なんて言いそう。
気を取り直して、と次の質問に向かう。えーと。……。

「………告白したことはありますか」
「そんなこと次期部長云々に関係あるんですか」
「だ、だって書いてあるから…うわっなんかこの後の質問、好きな人はいますかとか嫉妬するタイプですかとかある!」
「あの変態ら調子乗りすぎやな」
「俺ねえっすよ。告られたことはあるけど!へへっ」
「正直に答えるんかい」
「え、付き合わなかったの?」
「恋とかよりテニスで三強潰す!ってしか考えてなかったんで!」
「そっか。日吉くんも断ってるよね、告白。この間見た時かわいい子だったよ」
「な…なに見てるんですか」
「でも俺も彼女ほしーんすけど、なーんか今誰かってのいなくて。日吉もそんなん?」
「俺は別に…中学生でそんな…」
「はー!?女に興味ねえの!?」
「そういうことは言ってねえ!お前声でかいんだよ!」
「落ち着いて落ち着いて」
「財前は?彼女いんの?告白した?」
「彼女はおらん。告白はなまえさんにした。…なあ?」

ぴしり、と固まる空間。財前くんだけが先ほどテーブルに来た白玉ぜんざいをぱくりと口に含んだ。
…だ…だから…財前くんにはあえて触れなかったのに…!なんで赤也くん触れちゃうかなもううう!ていうか財前くん普通そこ言う!?
隣の日吉くんも斜め前の赤也くんも驚愕の様子で私を見ていた。なんか一気に雰囲気変わりましたねこの席ね!

「…こ、告白って…財前、なまえ先輩に告ったわけ…?」
「おん。まだ答え貰てへん。待たされてる」
「うわあああ!まままま待って財前くん!」

手を伸ばして制止のポーズを取るが、財前くんは私をちらりと見て意地悪く笑んだだけだった。隣の日吉くんが固まってる!呆れて固まってるって!赤也くんは目を見開いた。

「え!財前もなまえ先輩好きなのかよ!」
「…は?財前もってなんやねん。お前もっちゅーんか」
「いや俺はなまえ先輩好きだけど…」
「……。それは多分違う"好き"や」
「え?」
「黙れ」
「はあ!?」
「せやから、動けないやつらとは違う。俺は」

今まで見たことのない視線で財前くんが隣の日吉くんを射抜いた。そんなことを考える余裕もなかった私は、あわてて「じゃあ部活内で一番話しやすい人は!?」と話題を変えた。
「俺は謙也さんやわ。話しやすいし」「え、えー…丸井さんとジャッカル先輩かな」「…鳳ですね」無事変わったようで、ほっと安堵の息を吐く。その後もなんだかんだお互いの部活内に盛り上がっていた。




夕暮れの帰り道、日吉くんの二歩ほど後ろを歩きながら息を吐いた。なんか…楽しかったけどつかれたな。一年の違いなのにパワフルというか。
先ほどファミレスの前で「なまえ先輩、今度遊びましょうよ!丸井さんたちと一緒に格ゲーしましょ格ゲー!」と別れた赤也くんに、「また連絡しますわ」と表情を変えずに別れた財前くん。たった三人、されどあの三人は私一人の手じゃ負えませんでしたよ幸村さん。

はあ、と疲れから息を吐けば、すれ違った人にぶつかった。とっさに謝ると、軽く腕を引かれる。顔を上げ見ると、前を行く日吉くんが腕を伸ばしていて。なにか言いたそうに口を軽く開いた彼は、眉を寄せて小さく息を吐いた。腕が放される。

「…あんまりつけこまれると芥川さんがキレますよ」
「え、なに?なんの話?」
「なんでもないです告白されたからって調子に乗らないことですねうるさい」
「はい!?なにその言われよう!乗ってないけど!」

ちっ、と舌打ちまで吐いた彼はとっとと歩き出した。しばらく呆気にとられて動けなかった足を、私もゆっくり前に出した。



後日質問の返答を幸村さんにメールで送れば、なんか微妙な顔文字で返ってきたんだけどなんなのかなあれ。





[ もどる ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -