庭球番外編 | ナノ

▼ 海堂との出会い

「ししどぅー」
「つっこまねぇからな」

休日の練習帰り、町中でみょうじに会った。「練習?お疲れ」笑いながら手を振ってこちらに来たみょうじに頷く。

「お前は?」
「私は図書館に行こうと思ってさ。地元近くにもあるんだけど、この辺のって大きいでしょ」
「ああ確かにな。俺はあんま行かねーけど」
「宍戸はコンビニで済むからね」
「すっげー馬鹿にされてる気がする」
「でさ、行き方なんだけど、あのバス停から乗れば行けるよね」
「おう。乗って一つ目の降り場な」
「ありがとー、じゃあね」

ひらひらと手を振ってみょうじがバス停に向かう。ちょうどタイミングよくバスが来て、みょうじは鞄を漁りながらバスに乗っていった。ん?視界に見知ったやつが移る。バス停の横で止まったやつに近づいた。

「海堂じゃねえか」
「…宍戸さん」

相変わらず威圧感のある目に笑いが漏れる。ちょうどバスがブォオと音をたてて発車していった。「ランニングかよ」やっぱり努力家だよなコイツは。嫌いじゃねぇぜ。
頷いた海堂は「あの…これ」気まずそうに口を開いた。やつの手に持ってるものに視線を落とす。

「PASMO?なんだ、お前バス乗りたかったのか」
「いや違うっす。これ、さっきの女の人が落としていって」
「さっき…みょうじか!」

定期をよく見ると確かにみょうじなまえとカタカナで書いてある。さっき鞄を漁ってた時に落ちたのか!ったくちょいダサだぜみょうじ!

「しゃーねー…届けてやってくれ、海堂」
「は…いやなに言ってんすか、あんた知り合いなんでしょ」
「拾ったのはお前だし、ちょうどロードワークしてたんだろ?走ったら間に合うぜ、あの図書館前な」
「ふざけ…!フシュウゥゥ、わかりましたよ。確かにあんたじゃ追いつけなさそうだからな」
「あ?」

バス停の前で海堂と睨み合う。道を歩いていた爺さんが俺らの横を過ぎた瞬間、ダンッと同時に走り出した。

「俺が追いつけねえって!?油断もほどほどにしろよ海堂!」
「油断なんざしてねぇ、思ったことを述べただけだ!」
「俺のダッシュについてこれんのかよ!!」

ウオオオォと勢いよく町中を走ってバスを追いかける。ただひたすらに目標に向かって闘う俺たちは漢だぜ!通り過ぎゆく人たちは驚愕の目を向けてくるが、んなことはどうでもいい。さすが青学、二年だが着実に力をつけてきてやがる。海堂、来年もまた強敵になりそうだな青学は!

全力で走ったせいか息が乱れてくる。ダダダダダと駆けて行って、目線の先のバスがバス停に止まった。ゴールはあそこか、ラストスパートをかけるぜ!海堂と共に雄叫びを上げながら最後のダッシュをかけたが、バス停の所に先に着いたのは海堂の頭だった。

「うおおぉくっそ!!」
「ハァ…ハァ…いい走りでした、宍戸さん」
「ああ…ありがとよ、楽しかったぜ」

汗だくになったまま海堂と強く握手。走りながらもなんとなく繋がった気がするな。氷帝は負けねえが、青学も頑張れよ。

「なにしてんの宍戸」

横のバスを見れば、乗り口のところで呆気にとられた様子のみょうじがそこにいた。…忘れてたぜ!そうだ、PASMOを届けにきたんだよ!海堂も忘れてたようで、慌ててポケットからPASMOを取り出した。
「これ…落としたっす」海堂から差し出された物に、みょうじは目をこれでもかと見開いて驚いていた。まあそりゃなんで落とし物拾ったやつが行き先にいるのかって話だよな。

「あ、え…ほんとだ私のだ」
「さっきバス乗る前落としてたとよ」
「うそ…ありがとう」

海堂からPASMOを受け取ったみょうじは、バスの機械にそれをタッチしてからバスを降りた。プシューと扉が閉まり、バスは発車していく。みょうじはいまだに驚きの表情で俺と海堂を見比べていた。

「もしかして…そこから走って追ってきたの?」
「フシュウゥゥ…」
「楽しかったぜ、つい本気になっちまった」
「しかも競争…?ぶふっ…も…バスに追いつくだけでも信じられないのに…!」

はははは笑い出したみょうじは、ぽかんとする俺らを置いてしばらく笑い続けた。「ひーおかしい…ありがとう、ええと…宍戸の知り合い?」首を傾げたみょうじに頷き、海堂の腕を肘でつつく。せっかくだし自己紹介くらいしろっての。

「あ…青学の海堂薫っす」
「テニス部繋がりで、試合したこともある。有望な二年だぜ」
「へー、青学テニス部!この間菊丸くんたちと会ったよ」
「菊丸?」
「うん、ファーストフード店で。桃城くんと越前くんもいて、向日と忍足くんが大食い対決してた」
「ははっ!アホだなー」
「でも結局桃城くんがよく食べたからさー、氷帝は負けちゃって」
「フン、アイツは食うのだけが取り柄だからな」
「海堂は大食いなら負けそうだな」
「…!フシュウゥゥ…そんなんで勝ったって嬉しくねぇっすよ…!」

それでも負けたくねえって顔してるけどな。にしてもみょうじが青学の知り合いに会ってるとは、世間っつーのは狭いんだな意外と。お、そろそろ帰らなきゃな。犬の散歩しねえと。

「俺そろそろ帰るわ」
「じゃあ俺もこれで…」
「あ、えっ、待って、二人にお礼しなきゃ」
「いいってのそんなの!なあ海堂!」
「ああ…」
「いやいやでも、ぶはっ、汗だくになるまで走ってきてくれてふふっ…嬉しかったから」
「とりあえず笑うなよ」
「まあ宍戸はいつでもお礼できるとして…海堂、くん、はなにがいいかな?言ってくれれば後日宍戸づたいでなんでもやるよ」
「えっあ…いや、いらねえ…っすから」

海堂が断ると、みょうじは間を置いてから苦笑して「そっか、なんか押しつけがましく恩を返そうとしちゃったね」と眉を下げた。海堂がぐっとつまる。…岳人からたまに聞いたことはあるがよ、みょうじが年下キラーっつーのはあながち間違いでもねえなこれは…。

「海堂お前猫が好きだってな」
「なっ!だっ!誰が言ってやがった…!」
「乾がポロッと漏らしたの聞いてたんだよ」
「…っ乾先輩…!」
「猫が好きなの?それなら今あるよ」

みょうじが手提げ鞄から猫のハンカチを取り出す。愛らしいマスコット的な猫の顔がプリントされてるそれを海堂に差し出しながら、「さっきコンビニで買ったらついてきて」とみょうじは続ける。

「安いな」
「あ、ごめん確かにお礼と言えないね」
「いや…ありがたく受け取っておきます」

それじゃ、と軽く頭を下げて早々に去っていった海堂に、嬉しかったんだろーと思ったぜ。ハンカチ見た時の目を見開いて口を結んだやつの顔は、本当にほしいっつー顔だったからな。まあ欲しくても買えねえ気持ちはわかる。

「青学はいい人ばかりだ」隣で笑んだみょうじに「まあな」と俺も笑んで同意した。





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