庭球番外編 | ナノ

▼ 微妙な気持ちの三年陣

俺の友達…B男としよう。そのB男は女好きで有名である。しかしまあ根はいいやつなのでたまに話をするが。というかB男の女話をする相手が俺しかいないらしい。俺だって聞きたくないっていうのに。
「俺最近いい子見つけて〜」またか。

「地味なんだけど、なんでも言うこと聞いてくれるって感じでさ!」
「へえ…」

あまり興味はない。廊下を歩くB男はクチャクチャとガムを噛みながら「おっ」と駆け出した。その背中を目線で追って、そしてぎょっとした。い…いつかのテニス部…!忍足に向日じゃねえか。ってことは女って…またみょうじかよ!

「あっなまえちゃーん」

ヘラヘラ笑いながらB男がD組に入り、で話していた3人の中に入っていく。こいつすげえ。会話を止めてB男を見る忍足と向日の目線が心なしか冷たい気がするんだが…。「はい?」と反応したみょうじもなんだか頬ひきつらせてるじゃん…。

「ねえ今日の放課後は空いてないの?俺映画観たいっつってんじゃーん」
「…いや私別に観たいのないっていうか…」
「はぁー?ラブロマンスだよ?好きでしょ?」

ええー…そこ決めつけんのかよ。席に座るみょうじの隣に立っていた忍足よりも近くに寄ったB男に、向日の視線が突き刺さる。ひいい怖ええ。しかしB男は気づいてない。
「俺はなまえちゃんと行きたいんだけどー」と机の上に置かれたみょうじの手に自分の手を重ねようと伸ばすB男。いやいやそれはやりすぎじゃね?とゾッとした時に。

ガンッ。机が縦に揺れて、B男の動作は止まる。みょうじと机を挟んで座る向日を見れば、頬杖をつきながらB男を見上げていた。

「あ、わり。寝ぼけて足当たった」
「(うそだー!めちゃくちゃ睨んでたー!)」
「ん…あ、もしかして向日?テニス部のやつっしょ?かわいい顔してんじゃんマジ女顔ーハッハ」
「…は?」
「いやもうほんと悪いこいつバカなんだよ!」

ペシンとB男の頭を叩いて、そのまま腕を引いてD組を抜け出す。今の向日の顔見たかよ!お前バカか!殺すっつー顔してたぞ!俺の焦りが通じたのか、B男は「なんだよ誘ってたのによ」と口を尖らすだけに済んだ。

と思ったが、「なあ」後ろから忍足が来ていた。やべえええ今度こそシメられるって!

「なまえさんそういう子やないねん。誘うなら他の子にしたってや」
「はあ?お前に関係ねーじゃん」
「なにしてんだ?」

B男は忍足の恐ろしさを知らないようで、普通に半笑いしながら忍足につっかかる。それを笑顔で聞いた忍足だけども…目が笑ってない…気が…。と嫌な空気が流れていれば、ひょっこりと宍戸が現れた。俺はまたテニス部か!とぎょっとしたが、B男は宍戸と友達のようで。一部始終をB男が話すと、宍戸は驚いたように口を開いた。

「お前みょうじ好きだったのか?」
「え、いや、そういうわけじゃねーけど、なんか合いそうじゃん?押せば落ちそうっつーか」
「……」

チャラい。チャラいってB男!そんなの宍戸がいいように思うわけないだろ!つかお前知らねーだろうけど宍戸もみょうじと仲良いんだぞ!

「みょうじがお前に落ちるとは思えねーな」

無表情でスパッと言った宍戸は、ポケットに両手をつっこんでそのままスタスタと廊下を後にした。まさか宍戸に言われると思わなかったのか、B男はただ口を開けているだけだった。いつの間にか忍足もいなくなってたようで。

「なんなわけあいつら。えっもしかしてあいつらもなまえちゃん狙ってる感じ?」

いやそれはどうだろう、と俺がつぶやいたと同時にB男も変な顔をしながら首を傾げる。

「不思議だわ〜、なまえちゃんそんな魅力ないじゃん?あいつらが好きになるとか謎だし。なんか跡取りなのかな?まあいーわ、とりあえず物にすれば…」
「馴れ馴れしく名前呼ぶなよ」

ひっと声が漏れた俺。背後から芥川が低い声出しながら出てきたからだ。B男を睨むその表情は冷たく、俺が睨まれてるんじゃないのに背筋に汗が下る。

「なまえの魅力がお前にわかるわけねえじゃん。なんで近づこうとすんの、やめてほしいんだけど。汚れる。…てかおめえ誰だよ」

相変わらず有無を言わせぬ言い方ですよねー!ひいいと内心怖がる俺を置いておいて、B男はケタケタ笑いながら芥川の肩に手を置いた。ちょっおまっ。やめろよ。

「なにキレてんだよ。お前そんななまえちゃんにマジなの?別にあの子本気で狙うやついな…」

バッと肩に置かれたB男の手を払ってそのまま足を軽く上げた芥川に、やべえと思った俺だが動けなくて。B男が蹴られる!そう止まった俺だが「ジロー!」の声に芥川も止まった。

「跡部」
「なにしてんだ。もうすぐチャイム鳴るぞ、さっさと教室入れ」
「あー…うん」

一瞬で眠気眼になった芥川はのそのそと自クラスに入っていく。ほっと息をついた俺だが、跡部が俺を見ていることに気づいて肩が張った。「またテメェの友人か」鼻で笑う跡部。やべえええ跡部様が俺のこと覚えてたやべえええ!
B男もさすがに跡部様には怯えるのか、髪をいじりながら視線をそらしていた。
「フン…まあ他人の恋愛論をとやかく言うつもりはねえが」跡部、俺らの話聞こえたのかすげえなどこいたんだよもう何もかも超人的だなテニス部。

「故意に女を泣かすようなやつはクズだぜ」

そのまま氷のような流し目で射抜いた跡部は、颯爽と廊下を進んだ。かっけえ。さすが跡部様。ついていきてえよ。
だがしかし俺の友達はみんなアホらしい。B男は「あー傷ついた、なまえちゃんに慰めてもらおー」と言うと、またD組に向かった。

タイミングよく教室の外の廊下にいたみょうじの隣には、今度は滝がいた。ノートを持ってるあたり勉強か?だがアホなB男は空気を読まず突入していく。

「なまえちゃん、テニス部のやつらなんなわけ?俺すっげー傷ついたんだけど」
「ええ…それはなんか…ごめん…?」

いきなり愚痴られちゃそりゃみょうじもとりあえず謝るだろうな。隣の滝はB男を一瞥すると、軽く口角を上げてノートに視線を戻した。B男のうざさは続く。

「しかもさぁ、死ねとか言われたし殴られたんだけど、なに?なまえちゃんあんなやつらの友達なの?やめた方がいいってー」

おいおい、言われてないし殴られてもないだろ。なに改変してんだよ。それを聞いたみょうじはひどく傷ついたように顔をしかめた。まあそりゃ友達がそんなことしたとあったら動揺する…。

「いい加減なこと言うのやめてくれる?あの人たちはそんなことしないよ」

みょうじの言葉にB男も、俺だって止まる。隣の滝だけがクスリと笑った。意気の強い彼女の目は、ただB男を見据える。

「私は、彼らと友達になれたことを誇りに思うよ」

しばらくして滝に向いたみょうじは、「ありがとね」と一言声をかけるとさっさと教室に入っていった。呆然と突っ立つB男の肩に手を置こうとしたがやめた。「なんだあの女…」拗ねていたからだ。

「君じゃみんなには勝てないよ」

ふわりと笑った滝はパタンとノートを閉じ、そのまま自教室へと帰っていく。
俺とB男は無言で目を合わせた。
相変わらず恐ろしいテニス部に俺はもう関わりたくありません。今度はもう放っときたいです。…まあA男に比べれば、B男はまだマシだと思いました。





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