庭球番外編 | ナノ

▼ たった1日の

昼休み、向日と他愛ない話をしてる最中。いや嘘、他愛なくない。なんてったって白玉ぜんざいさんの新曲の感想を語ってるのだからね、まったく他愛なくない。しかもその新曲をアップした日、つまり今日が私の誕生日なんだからこれはもう喜ぶしかない。
携帯をいじって聞いてるか聞いてないかわからない向日にぺらぺら話していれば、ダンッとその向日が机を叩いて立ち上がった。肩が跳ねる。

「なんだよ白玉白玉うっせーな!それしか話せねーのかよ!んっとに自分の話ばっかだよな!」

その物言いにムッとなったがしかし落ち着く。確かに私はさっきから白玉ぜんざいさんの話を一人で盛り上がっていた。うるさかったかもしれない。それは詫びよう。けどだね。

「向日だって普段自分の話ばっかじゃん!私はいつも聞き役ですー!」
「はあ!?お前なに自分のこと棚に上げてんだよくそくそ!」
「それは向日もでしょ」
「つかそーいう話は財前に直接言えっつの!」
「言いました。物足りなかったんですー」
「知るか!少しは知らねーことを毎回聞かされる俺の気持ちになれよ!」

ハッとなって息がつまる。そうだ、向日は白玉ぜんざいさんの曲知らないんだよ。そんなの向日からしたらつまらないよね。
黙った私に構わず、向日は口を尖らせたまま扉の方へ歩き出す。
あ、謝らなきゃ。追いかけようとしたところで、向日の前に忍足くんが教室に入ってきたのが見えた。

「どないしたん岳人」
「あっ侑士…みょうじがムカつくんだよ!」
「またケンカしたんか。大概にせえよ、聞いとるとうっといねん」

眉を寄せた忍足くんに止まる。おっと…イライラしてる。そんな忍足くんに向日は一瞬でまた眉を寄せると「なんだよその言い方!」と怒鳴った。「ほんまのことやろ」と息をつきながら忍足くんは私に向く。

「なまえさんも岳人がこーゆー性格なん知っとるやろ。俺を巻きこまんといて」
「え…ごめん」
「あーなんだよ気分悪い!」

そのまま向日は忍足くんの横を通って、廊下を駆け出して行った。残された私と忍足くん。ちらりと忍足くんを窺うと、冷たい目で私を見下ろしていた。ぎくりと固まる。

「…忍足くん、今日機嫌悪いの?」
「関係ないやろ」

そのまま私に背中を向けて忍足くんは向日と逆の廊下を行った。ううわー…イラついてる。初めて見た様子にどうしたらいいかわからず、とりあえず向日の後を追いかけることにした。廊下を走ってると、曲がり角で誰かにぶつかる。

「痛っ…すみませ…!」
「大丈…あ」

よろけた体を持ち直し、顔を抑えながら見上げればそこには鳳くんがいた。「ごめんね、大丈夫だった」と問えば、鳳くんは唇を噛みしめて覚悟を決めた様子を見せる。

「い…勢いよくぶつかるなんて、危ないじゃないですか」
「え、うん、ごめん」
「本当に悪いと思ってるんですか」

眉を寄せて見下ろしてきた鳳くんもまた、イライラしてんのかな…なんか今日みんな喧嘩腰だな…いや私が悪いんだけど…。
申し訳ありませんでした。と90度の角度で腰を曲げて謝れば、「なっ何もそこまで…!」と声が降ってきた。顔を上げると鳳くんはハッとし、また眉を寄せる。

「今度ぶつかったら俺、本気で怒りますからね!」

そう言って鳳くんは早足で去っていった。呆然と突っ立つ。…あの優しい鳳くんを怒らせてしまった…。なんてことだ。
私今日怒らせてばっかだな…と暗くなりながらC組に向かう。多分向日を追いかけても怒らすだけだ。
C組に宍戸はおらず、ジローくんが自席で寝ていた。嫌な予感がする。なんかまた怒らしそう。ジローくんに怒られたら嫌なので教室に戻った。

のだが放課後、ジローくんがD組にのそのそやってきて私の席の前に立った。その顔はむすっとしてて冷や汗が垂れる。

「今日昼休み、起こしてくれるって前なまえ言ったよね〜」
「え、言ってな…」
「もーいいCー」

ぷいっと顔をそらしたジローくんはそのままD組を出て行った。えええ…なんだこれ…私がジローくんの約束を忘れるはずないじゃん…理不尽…。
今日は災難だ。早く帰って寝よう。そう思った時に鳴る携帯。見れば向日からメールが来ていた。なになに…部活終わる頃部室来い?あれ、怒ってないのかな。


そして終わる頃に部室に行き、勝手ながら入って待っていれば扉が開いた。そこには先頭の跡部くんを筆頭にみんながいて、跡部くんは私を見ると眉をぴくりと動かした。え、顔怖い。

「アーン?またか。毎回毎回部室にいやがって」
「え…」

跡部くんの冷たい物言いに頬が強張る。いや、でも向日が呼んで…。向日の方を向けばそっぽを向いていた。そんな…。
近づいてきた跡部くんに後ずさったが、彼に腕を取られた。思った以上にその力は優しい。

「前から言おうと思ったが、ここをどこだと思ってやがる。待合室に使うなんていい度胸じゃねぇの」
「…ごめんなさい」

正論すぎてなにも言い返せないが、しかし驚きである。跡部くんもイライラしてるなんて。…いや、普段からみんな私に対して厳しく思ってたのかもしれない。優しいから言わなかっただけで。それが我慢できなくなったんだ。私だけ調子乗ってて。

ああもうわかった、出ていくから放してよ跡部くん。ちょ…放…放し…優しく掴むわりに力強いなこの人!

「そうだぜ、俺らが今からなにやるかわかってんのか」

首に巻いていたタオルで長机を叩きながら宍戸が苛立ちを隠さず声を出した。今から…大事な会議なのかな。だったら私が悪い。でもなんなんだみんなイラついて…よしわかった、にぼし買ってくるから。みんなにカルシウム取ってもらうから。だから放せ跡部くん。

「今からお前に誕生会のお誘いすんだよ!」

跡部くんの腕と無言の闘いを繰り広げていれば、響いた宍戸の怒号。…怒号じゃない、シャウト?いやいやそれより…え?今彼はなんて?
跡部くんの手から宍戸を見れば、「なんだこれ…」と長机に両手をついて頭を下げていた。そんな彼を確認した瞬間「イエー!」と向日とジローくんの声が響く。

「ナイス演技でしたよ宍戸さん!」
「どーだみょうじ!びびった?びびった?」
「この後俺ら着替えたら跡部の家行くで、なまえさん」
「…え、ちょ、待って。誰の誕生会?」
「みょうじさん以外誰がいるんですか」

ドッキリ成功〜!と向日とジローくんがハイタッチしてる中、腕から力が抜けた。ぽかんとみんなの様子を見てるうちに、ブワッと目尻に涙が溜まる。なんでかわからない。つらく思い返したのかもしれない。
私の顔を見たみんながギョッとした。

「えっあっえ、みょうじ泣いてんの?嬉しすぎて?」
「ごめんななまえさん、冷たい態度とってしもて」
「すっすみませんみょうじさん!俺みょうじさんがぶつかってきたぐらいで怒るなんてありえませんから!」
「こ、これ新しいタオル使えよ、な」
「なまえごめんね〜」
「いや、なんかも…なんなの…」

必死に袖で涙を拭っていればぽんぽんと跡部くんに頭を叩かれた。そんな彼は先ほどと違い優しい表情をしてるのだから安心する。
なにこれ、なにそのドッキリは。ていうか普通にみんな私の誕生日とか知らないと思ってたよ。

「…祝うならもっと普通に祝ってよ…なんか…悲しくなったじゃんか…」
「ほらね〜なまえ悲しかったって〜」
「これから楽しくなるからいいじゃん」
「とりあえず着替えるぞお前ら。みょうじ、ちゃんと待っとけよ」

向日やジローくんをロッカールームに押しながら跡部くんは私を見て言った。流れで頷くとロッカールームの扉が閉まる。中から「成功したなー」とワイワイ賑やか声が聞こえた。
…ちゃんと待っとけか。さっきとは正反対の物言いだ。…冗談で、よかった。ほっと安心して息を吐く。

そしてロッカールームから出てきた向日とジローくんにクラッカーを顔面に向けて噴射され、「部室を散らかすんじゃねぇ!」と怒った跡部くんに命令されみんなと一緒になぜか私まで片付けることになりました。あれ、私ちゃんと誕生日の扱いされてるかな。





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