庭球番外編 | ナノ

▼ 「交友関係」の財前視点

練習が終わり、疲れた体を引きずってHYOUTEIと書かれたバスに乗り込む。
…前に、後ろを振り返った。氷帝のホスト軍団はいるが、彼女の姿は見えへん。…避けられとるんやろうな、あの人俺んこと白玉ぜんざいと信じてへんかったし。

チッと舌打ちを漏らせば、前で乗っていた謙也さんがビクッとしながら俺に振り返った。お前じゃねえ…っすわ。

席に座り、窓枠に肘をつき頬杖をついた。後ろで「小春…なんや財前めっちゃ機嫌悪ない?」「あれが反抗期やでユウくん」とか言う変態どもはガン無視。
ふと視線を氷帝のやつらに向ければ、ちょうど氷の凡人さんがこちらに来るところだった。
肩が少し強張るが、なんでこんな意識しなあかんねん、と自分にツッコミを入れる。

リアルの氷の凡人さんが白玉ぜんざいの話するとあないテンション上がるとは思ってなくて、しかも嘘言ってるわけやなさそうやからどないしたらええかわからんくなった。
喜んで、いいんやろうけど…興奮してた彼女ぶっちゃけ激しすぎてキショかったし。

せやけど『離れた友達を想う曲だよね』の言葉にわかってしまった。俺は自然とそないな曲作ってしもたんか。…言われるまで気づかんかった。
ほんで離れた友達、と言われて俺の頭を埋め尽くしたんは…。

「…いや…友達にすらなってへんし」

ぼそ、つぶやいても騒がしいバスの中では誰にも届いてへんやろと思う。

せや、彼女は友達でもないんや。ただの閲覧者。
こうして実際に会ってもうたけど彼女は俺を信じてへんし、多分彼女はもう俺んブログも曲も見いひんのやろ。別にええ。一人くらい見いひんようなっても他に見てくれる人はぎょうさんおる。

はいはいほんまなんで俺は合同練来たんでしょーね。

ギャアギャアとバス乗ってもやっかましいウチの連中を見ながらはああと息を吐き、座席に深く腰かけて、目を窓の外に移してぎょっとした。
白石部長と彼女が話しとったから。

あんのイケメン、へたなこと言うとらんやろな…。
すぐに話終わってバスに乗り込んできた部長を睨む。なんもしてへんやろな。

と思えば部長はニッコリと無駄にうざったい心優しい笑顔で俺に口を開いた。

「よかったなあ財前、ブロ友に会えて」
「…友達やないです」
「え、かのじ」
「他人です」

友達やない。多分もう見いひんやろうし閲覧者でもない。赤の他人や。
これ以上話したないから部長からも窓からも顔をそらす。早よ帰りましょ、もう嫌ですわ。なんか嫌。

「まあそもそも練習のために来たんやから」

励ましかなんか知らんけど、そう俺の肩に手を置いてきた部長をまた睨む。その綺麗な顔、変顔で歪めるでほんま。
確信犯なのか天然なのか、俺をさらに苛立たせてくれた部長はバスの運転手の方へ歩いて行った。俺もコイツらに付き合いたないし寝よ、とした時にバスに乗り込んで来た四天宝寺とは違う色のジャージ。

氷の、凡人さん。驚きで一瞬肩が跳ねてしもた。とっさに一気に早なった動悸を抑えつける。

「ぜん…財前くん」
「今ぜんざい言おうとしたであの女」
「ユウくん しっ」
「なんすか…」

気まずそうに口を開いた彼女は口一番に人の名前間違えやがった。呆れる。
さっきまであれほどうるさかったバス内は静まり、氷の凡人さんに視線が突き刺さる。

「っと…さっきは…なんか嫌な態度取っちゃってごめんなさい」
「…別にええです」
「あの、これからも私、白玉ぜんざいさんの曲聴いていいかな」
「え、なに、白玉ぜんざいさんって」
「ユウくん黙り!」

は?
信じられなくて少し目を見開かす。なに言うてんコイツ。お前俺んこと信じひんのやろ。ほんで女かと思った白玉ぜんざいが俺みたいな男で嫌気さしたんちゃうの。

女の考えはまったくわからん。…しばらくしてから口を開いた。

「…俺んこと白玉ぜんざいって信じないんやないんですか」
「確かに信じられないような感じだけど…でも本当に白玉ぜんざいさんなら、失礼だし…」

なんや失礼て。どんだけ白玉ぜんざいを上に見てんねん。…アンタがそうやって上に見て、近づけてくれへんから…。

「いつも白玉ぜんざいさんの曲に救われてます。心動くってこういうことなんだとわかりました。ブログ見るのも楽しいし、コメントしてくれるだけで本当にその日中ずっと幸せ。直接言いたかったんだけど…その…いつもありがとう」

沈黙。
なにを言われたか判断するために時間がかかりすぎた。そんなん、コメントで他の人らにも何回と言われて慣れとるはずなのに。
一気に顔が赤くなった彼女を見ているとなぜか身体中が熱くなってきた。

「…あ、それだけなので…えっと…ストーカーみたいでごめんなさい。でもその、本当にありがとう。じゃっ!」

早口で言った彼女は翻ってバスから降りようと足を出した。それを見て動き出す身体。
「ほな帰ろか」言ってる部長の横を通り、バスから降りた彼女の腕を掴み引き止める。

…とっさに動いてしもた…けど、こうでもせえへんとなんや終わる気がする。なにかが。
振り返った氷の凡人さんの顔はいまだに赤くて、好みやないはずなんに動揺が走って熱くなってきた。

「…あの…」

…っちゅーてもなに話せばええねん。いつも見て聴いてくれてありがとう?やからなんやねん、俺が趣味でやっとるのを勝手に聴いてんのはこっち。ただの他人の閲覧者やから。

…なんでただの他人の閲覧者に振り回されて、曲まで作って、意識せなあかんねん。ちゃうわ、俺が彼女に抱いてんのはこんなんやない。

「…お…俺と」
「う、ん?」

言おうとして止まる。この人は俺んこと女と思っとったし尊敬の気持ちを抱いてんのはモロわかった。
俺は閲覧者として見れんでも氷の凡人さんは、俺んことただの"白玉ぜんざい"としか見てへんのやろ。

「…………友達になったってください…」

そんなん、まずは「お友達」から始めるしかないやんか。
「「「なんでやねん!」」」とつっこんできた先輩らに「ほんならお前ら俺と同じ立場に立ってみろや殺すぞ」と言いたなったが抑える。
目の前の彼女がめっっちゃ嬉しそうに花を咲かせて笑ったからだ。

「え、いいの?いやもうこちらこそ」

緩く笑った彼女にこっちも頬が緩みそうになった。ほんま可愛ない顔しとるけど、なんや嬉しそうやからええか。
…せや、メルアドも聞いとけば後々曲作る時に参考にできるな。友達やから聞いといてええやろ。

「ほ、ほんならメルアド聞いてもええですか」
「うん。いやーなんか嬉しいな」

連絡先を交換し、携帯ん中にみょうじなまえの文字が入った。…また一人友達ができたんは…嬉、しい。

「…ほな、今度メールしますね」
「ありがとう、私もさせてください」
「…じゃあ」

笑って手を振ってきた彼女や氷帝の人らに頭を下げ、バス内に戻る。
途端に「なんや青春やなあ!」「告白タイムおっぱじめるかと思たで」「オサムちゃんに報告せななあ」「ちゅーかあの子なんなん?」と絡まれた。ちっ、めんど。つかなんで見てんねん。暇やな。

とりあえず座り、イヤホンを取り出しながら先輩らにおもっきし冷たい目を送った。

「え、なんの話っすか先輩ら。とうとう頭ボケたんとちゃいます?ああ元からでしたっけ」

とりあえず、白玉ぜんざいって信じさせへんとな。
「可愛ない!」「財前聞けやコラァ!」とうるさい外界をシャットダウンして目を閉じた。





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