無題

 僕は誰も好きになっちゃいけないんだよ、と石田が言った。
 何を言い出したのかと呆気に取られている俺に、何故か自嘲気味な笑みを浮かべて続ける。
「僕は滅却師で、滅却師の血を絶やすことは許されない。そうなると、女性という存在を滅却師の血の為の道具と見ているようで…自分で自分が嫌になる」
 だからさ、と石田は言う。

 女性を簡単に好きになっちゃ駄目かな、失礼かなって思うんだ。

 それはつまり、初恋もまだと言う話なのかと思いきや、石田雨竜は首を横に振った。
 好きな人はいるんだよ、でも――黒崎は男で子供を産めないし。なんだか、全部が駄目なんだ。
 その言葉に、一瞬、呼吸を忘れた。意味を掴みかねて表情が険しくなるのが解った。

「しかも、君死神の力を持ってるしさ。本当、好きになるだけ無駄なんだよね」
 石田、ちょっと待て。お前、俺のこと好きなのか? 素朴な疑問をぶつけると、そう言ってるじゃないか、と何故か当然といった顔で返してきた。

 僕が滅却師だって知ってて、子供が滅却師になるのを了承してくれるような人が要れば良いんだけど。黒崎だったら大丈夫かな、って一瞬でも思った僕がバカだった。

 石田の言葉が右から左に抜けていく。突っ込みどころが多すぎる。
 そもそもが、どうして俺が石田の思いを受け入れるであろう前提なんだ。
 更には、付き合うなら最初から結婚前提・出産前提らしい石田雨竜がどうして同性の黒崎一護を検討対象に入れたのかが解らない。

「……いや、なんつーか……意味が解らない……」
 なんとか言葉を搾り出すと、石田は首を傾げた。
「何が解らないんだよ。僕は君が好きで、でも好きになってもしょうがなくて」
「あー……?」
 つられるように、俺の首も曲がっていく。
「黒崎が僕のことが好きで、かつ子供が産めれば問題ないのに」
「……ど、どっちも無理、じゃね?」
「え?」
「え?」
「無理?」
「え、と」
 しれっと言われた言葉に度肝を抜かれる。本当に、何を考えているのか解らない。そして、どうしてそんなに不思議そうなんだ。
「いや……」
 捨てられた子犬みたいな寂しそうな顔をされると断りきれなくなるじゃないか。困惑した俺は、終いに取り返しのつかないことを言ってしまった。

「子供は産めないけど、好きには、なれる・と思う」

「本当かい?!」
 石田は嬉しそうな顔をした。
 うん、その顔なら悪くはない、と思ったところで自分に突っ込む。

 違うだろ、石田雨竜は男なんだって。しかも、俺に子供を産めとか言ってきてる阿呆だぞ。
 それから、突っ込まれるのは真っ平ごめんだ。石田の方が細いし、綺麗な顔してるんだから、そういうことになったなら絶対に石田が女役だろう。そうに決まっている。

「あ、そうだ」
 石田は手を打つ。
「もしかしたら竜弦がまだ子供作る気あるかもしれないし、頑張れば僕が……」
「待て!」
 これ以上、非現実的な話を聞かされ続けるのは辛い。頭が痛くなる。いい加減黙れ、と両肩に手を置けば、何故か石田雨竜は驚いた顔で頬を染めて目を閉じた。

 だから、そういう意味じゃねえ!
 第一、まだそういう対象としての好きには到ってねえっつーの!!

 何もしないとこれは終われないだろうか。いや、何もしなくて良いだろう。
 延々葛藤し続けた俺が、石田にファーストキスを奪われたのはそれから3分後の話だ。







暴走気味の石田さんと押されっぱなしの黒崎さん(完全ノンケ)
リハビリ中でございます…あうーッ!


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