猫石田記念日


 はっきりした態度を取っていなかった自分がいけないのかとも思う。でも、まさかあいつがあんなに思い詰めているなんて、俺は微塵も思っていなかったのだ。

「一護って、犬派? 猫派?」
「藪から棒になんだよ」
 昼休み、いきなり振られた質問に眉をひそめた俺に水色は笑顔で続ける。
「ほら、人間でもさ、犬っぽいとか猫っぽいとか言うじゃない? 一護はどっちのタイプが好き?」
「普通、そういう時はノーマルに犬と猫どっちが好きかって質問なんじゃねぇのか?」
 まあまあ、と笑って水色は言う。ありがちな質問しても面白くないでしょ、と。
「そうだなぁ」
 俺は隣で黙って俯いている白いうなじを見る。
「猫、かな」
 こいつは犬じゃない。猫だ。すらりとしていてしなやかで、なんだかミステリアス。何を考えているんだか解らないところも猫っぽい。切れ長の目元もそう感じさせる要因かもしれない。
「へえ。猫? てっきり犬かと思ってた」
「なんでだよ」
「なんとなく。懐かれるの好きそう」
 あぁ、そういうことか。と妙に納得する。面倒見が良いと言われるだけに、尻尾振って付いてきそうなタイプが好みに見えるのかもしれない。
「まあそっぽ向かれるよりはな」
 そう言うと、隣の細い肩がビクっと揺れた。何だろうと覗き込んで確認しようとした視線は巧みにかわされたのだった。

 しばらくして、石田の家に遊びに行った時のことだ。なにやらがさごそとタンスを漁っていた石田が
「ちょっとあっち向いていてくれるか?」
 なんて言った。素直に背中を向けると、背後で布ずれの音がした。
「良い……よ」
 結構な時間が経ってから石田が声をかけてきた。
「ったくなんだ、って……」
 文句を言いながら振り返った俺はあんぐりと口を開けた。

 そこには、猫――がいた。

「……あ?」
「……」
 にゃぁ、と小さく鳴いたらしい石田が四つんばいになった。
 その身には白いシャツが一枚、申し訳程度に羽織られているだけだ。下半身を隠す布はないように見えた。
「いや、猫……? っつーか、なんだその格好」
 耳。頭に猫耳。首には首輪。尻尾が揺れているように見える。
 猫、がそこにはいた。
「君が、猫が好きだって言うから」
 ぼそぼそ呟かれる言葉は非常に聞き取り辛い。自然に身体を寄せることになってしまう。
「だから」
 つまりは、浦原さんから渡された黒崎一護悩殺セットだと。そういうことらしい。
 いくら悩んだにしろ、相談する相手を間違えているだろう石田。
 突っ込みたいが、今そんなことを言ったら泣くかも知れない。
 別に石田に飽きたわけではなく、抱きたくないとか思っていたわけでもない。なんとなくご無沙汰になっていただけで、深い意味はない。ちょっと石田も疲れている風だったし、無茶をさせるのも……と思っていただけだ。
「バカか、お前」
 ついそんな言葉が口を突く。
「したいならそう言えっての」
「…………っ!」
 そんなこと言えるか、と石田は吐き捨てるように言うが、今の格好の方がよほど恥ずかしいんじゃないだろうか。
 とは言え、正直普段と違うのは悪くない。
「石田、こっち来いよ」
 ベッドに腰掛けて手招く。のそのそとやってきた石田のあごを人差し指で持ち上げた。
「何して欲しいか言ってみろよ。ちゃんと言えたら――」
 なんでもしてやる。
 唇が触れるほどの距離で囁けば、その白い肌が紅く染まった。




本日の診断メーカー結果がどれもこれも石田に猫になって黒崎に迫れと言わんばかりだったので、カッとなってやった。
後悔はしてない。

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