冷蔵庫
冷蔵庫を開けて見慣れないものが入っていることには慣れた。しかし、今日の異物には多少頭に来た。
「なんだ、これは」
ピンク色の物体が山のように詰め込まれている。
イチゴミルクプリン・イチゴ牛乳・イチゴジャムにイチゴのショートケーキ。なぜかイチゴ味のチョコレートも冷えている。
イチゴいちごイチゴいちご。頭がおかしくなりそうだ。
犯人は解っている。背後で我が物顔で踏ん反り返っている――
「黒崎一護」
「おぅ」
「なんだ、これは。と聞いているんだけどね」
黒崎は平然としている。
「差し入れ」
「差し入れ?」
「一人暮らしの石田にプレゼント」
「…………」
差し入れだとかプレゼントというものは、あまり余裕のある生活とは言えない身だから大変有難い。しかし。
「ありがた迷惑と言うものを知っているか?」
「んだよ。失礼だなぁ、お前」
失礼もなにも、元々甘党からは程遠い人間にこんなに甘いものばかり持ってくるなんてどんな嫌がらせだろう。
「僕は甘いもの、あんまり得意じゃないんだけど」
「知ってる」
知っているならどうしてだ。
――いや、何を企んでいるかは薄々気付いているんだけど。
あまりに阿呆らしすぎて、指摘したら泥沼にはまりそうで口にしたくなかった。
「イチゴ」
と黒崎が冷蔵庫の中を指差す。そうだな、と頷けば満面の笑みで自分を指差した。
――やっぱり。
と絶望にも似た何かに心を支配される。
「一護」
「…………」
阿呆だ。
なんだか幸せそうなのが腹が立つ。
「それは……君は僕に食われたいということなのか」
「いや、オメーは俺が食う」
「食われる気はないよ」
だったら無理矢理にでも、と「がお」なんて吠えながら飛び掛かってきた男を軽く避けて、イチゴ牛乳を手に取る。開けてコップに移し一口。
「想像以上に甘いな。こんなに甘かったかな」
小さい頃の記憶では、もう少し美味しかった気がするんだけど。
「だったら」
「わっ! 馬鹿か君はッこぼれるだろう!?」
「口直しはどうだ?」
「黒……っ! ――ん〜っ」
口を塞がれても、まだ中身の入っているコップを手に持っている状態では激しい抵抗はできなかった。
「甘!」
もう良いだろうというくらいに長い間舌を絡めてきた挙げ句、口を離して第一声がそれだ。
「だから言っただろう。甘いって。僕、こんなに甘いのは飲みきれないよ。他のものも持って帰れよ」
「まぁ、まだ賞味期限まであるだろ。順番に楽しむから置いとけって」
楽しむってなんだ?
聞いたら「実地で教えてやる」なんて言われそうで、僕は口を拭って黒崎に背中を向けた。
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より、お題「冷蔵庫」