愛情


 面会希望の方がいらっしゃってます。
 と言われた竜弦は、そんな予定はなかったはずだ。追い返せ。といつも通りに返した。ところが、いつもならすぐに指示が通るのに今日はなにやら困った空気が伝わってきた。
「どうした」
 はっきりしない様子をいぶかしんだ竜弦の耳に
 息子さんだとおっしゃるんですが……という言葉が飛び込んできた。
「息子……?」
 そんなものは居ない、と開きかけた口を閉じる。何も用事がないのに、あの頭の堅い息子が来るはずはない。第一、来る理由に心当たりがない。
 本人の霊圧に異常はない。
 雨竜が怪我をした際にはこちらに運び込むようにと伝えてあるから、そういう問題でもないはずだ。
 忌々しい死神の小僧も霊圧的にも肉体的にも元気としか言えない状況だ。
 なぜ、と思っているうちに返事が遅れる。失礼しました、お帰り頂きます、という声に慌てて「いや、大丈夫だ。通してくれ」と言って窓に映る自分の姿に隙がないかチェックする。
 数分後現れたのは、間違いなく息子雨竜だった。

 しばらく見ない間に、やたらと大人びた雰囲気になったな、もしかしたら自分に似てきただろうかと複雑な気持ちで見る。
 今日は何の用だ。
 竜弦はあくまで冷たい声を出す。
 うん。
 と妙に柔らかい声と表情の雨竜に、じわじわと厭な予感がこみあげる。
「僕は、ずっと勘違いしていたんだな…って気付いたんだ」
「勘違い? 何の事だ」
「ずっと、アンタに疎まれてるんだと思ってた。ごめん……なさい」
 いきなり何を言いだしたのか解らない。
 元気そうなのは見かけだけで、どこか具合が悪いのだろうかと観察をはじめる。
「今日……親の気持ちっていうのが解ったんだ」
「は……?」
 親の気持ち、ってなんだ。なんで突然理解した。
 竜弦はポーカーフェイスというよりも状況についていかれずに固まる。
「親って存在はさ。なんだかんだ言っても子供が心配なものなんだね」
 何を今更当然な事を言いだしたのだろう。
 いや、だから今日何があったんだ、雨竜。
 そっと腹部に添えられた手が、先ほどからやたらと気になる。
「アンタ、僕のことが心配だったからいつもあんな風に言ってたんだ」
 気付くのが遅い、と言い掛けて、なんだか花嫁を送り出す父親の気分になってきた竜弦は苦い顔になる。
 そんなのは、子供はまだ気が付かなくて良い話だ。
 なぜ娘のいない自分がこんな気持ちを味わっているのか理解に苦しむ。
「アンタなりの愛情表現だったんだね」
「う、雨竜?」
「ありがとう」
「雨竜、一体何を言って……?」
 そっと腹部に愛しげな視線を送る息子に鳥肌が立った。
 待て。なんだその反応は。妊婦にはなれないだろうお前は。
 ……息子、で間違いなかっただろうか。
 雰囲気に呑まれて混乱しかける。
「……父さん」
 ぶつぶつぶつ、と派手に鳥肌が立つ。気持ちが悪い。なんだこれは。
「今日までありがとう。たくさん心配と迷惑をかけてごめん。でももう大丈夫だから」
「なにがだ」
 今までとは違う意味で息子が心配になってきた。
「幸せになるよ」
「ま、待て!」
 今まで、自分の前でこんなにも晴れやかに笑ったことがあっただろうか、と思ってしまうほどの笑みを浮かべた雨竜に、竜弦は動揺を隠せなかった。
「だ、誰とだ……?」
 聞くまでもない。ないのだけれども、聞かずにいられない。
 かあっと頬を染めた雨竜に感情が頂点に達し咄嗟に耳を塞いだ竜弦はドアをあごでしゃくった。
「いや、今日は帰れ。落ち着いたら、また話を聞いてやる」
 雨竜は、僕は落ち着いてるよ、と言ったようだったが竜弦は断固として無視した。

 雨竜が立ち去ったあとには、机の中から取り出したぼろぼろの写真の中の一護に、チクチクと針を刺す竜弦の姿があったという。








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より、お題「愛情」



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