ラブ☆コン 3
―love concernedly ―


 今日も一護の機嫌は悪かった。
 原因は解っている。

 それは、この首に巻かれた渋いオレンジのマフラー。

「こぅらコン」
「なんだよ、一護」
 情けない事に声が震えている。
「オメーのその格好はなんだ」
「格好」
 呟き返して、自分の身体を見下ろす。
 いや、自分の身体、と言ってもこれは借り物だ。パーフェクトでプリティセクシーなあの身体も自分の身体、と言うには少しアレだが、こっちは本当に借りている身体。一護の生身だった。
「覚えのないものつけてるじゃねぇか」
「あ〜…」
 曖昧に笑い返して、オレはマフラーを持ち上げる。
「コレ?」
「それ以外に何がある」
「あ。あはははは」
 笑いながら頭を掻いたオレは、背中を嫌な汗が伝うのを感じていた。

 例の如く死神業の一護に身体を預けられ、遊びに出かけてのんびりと帰って来て。少し遊びすぎたか、と思ったのは気のせいではなく、部屋に辿り付いた時には、もう一護は帰ってきていた。イライラとベッドの上に胡坐をかいていやがった。
 部屋に入ったオレの姿を見て、一護の眉間のシワが5倍深くなる。その深さといったらもう日本海溝並だ。そして、苛立ちを隠そうともしないまま、ゆ〜っくりと右手を上げた一護は、人差し指でオレを指して言った。
「よぉ、遅かったじゃねぇか。ど〜こほっつき歩いてやがった」
「ちょっとお散歩してただけよ〜ん♪ いつも運動不足で困ってたところだから、イイ機会だと思って〜ェ」
 くね、と誤魔化そうとしたオレの目論見は、見事に外れる。一護は更に怒ってしまった。
 そして、冒頭の台詞だ。
「ふ…」
 引き攣る顔で、余裕の笑みを作って見せ、俺は腕組みをする。
「実はオレ様、一護と違ってモテるんだな。
 きゃ〜vステキなアナタにクリスマスプレゼントよーなんて言われて、もらっちまったんだぜィ」
「嘘を付け嘘を」
「………」
 底の浅い嘘は容易にバレた。
「そんなダラしのないヘラヘラした顔の男がモテるとは思えん。鼻の下伸びてるぜ」
「待て、待て一護。コレはお前の身体だぞ!?」
「俺はそんな顔しない」
 びしっと言い切った一護は、オレを無理矢理自分の身体から引きずり出して黄色い本体にぶち込む。そして、ブランとぶら下げやがった。
 しかも、持っているのはダメージの大きい耳。
「ダ、ダメッ! お願いだから耳はやめてッ! ボディにして!!」
 プツっと嫌な音がした気がしてダラダラ脂汗を流すオレ様を冷たく見下ろして、一護はマフラーを解いた。
「……手編みか?」
「黒崎さーん、放してくださーい」
「……しかも、イニシャル入り……ッ」
 渋い、くすんだオレンジの地に、明るいオレンジでイニシャルが浮かんでいる。書かれている文字は「K」
 コンのKだ。
「テメ、コレ誰からもらった」
 ふつふつと怒りを沸き立たせている一護は、既に製作者が誰か解っているのだ。
 それでいて、聞いてくる。
 本当に意地が悪いったらありゃしない。
「……黒髪の……美人……」
 ダレと問われて素直に答えるほどバカ正直なキャラじゃない。そんなオレの遠回しな表現は、反対にクリティカルヒットしたようだった。

「黒髪の、美人だぁ!?」

 ヒクと引き攣った一護が、じーっと穴が開きそうな勢いでマフラーを見詰める。
「アイツ、裁縫だけじゃなくて編み物も出来るのかよ……」
 予想はついていただろうに、実際に耳にするとショックは大きいのだろう。目に見えてグラグラしながら、一護はオレを放した。
 ボスッと嫌な音を立てて顔から着地する。歪んでしまった顔を一生懸命揉んでいるオレの頭の上に一護の影が落ちた。
「どーしてテメーが石田からクリスマスプレゼントなんてもらうんだ…?」
「ん?」
「俺、もらってないぞ…?」
「んん?」
 どうしてキミがもらえるのかなー、一護クーン?
 なんて突っ込みも頭に浮かんだが、そんなコト言った日にはまたメガネのお世話になる羽目になる。口に手を突っ込んで言葉を抑えたオレは
「どうして、って…オレとメガネ、友達だし」
 ボソボソと言い訳がましく言ってみる。
 いや、と言うか、黒髪の美人って言われたら、普通は女子を連想するんじゃなかろうか。
 確かにあのマフラーを作ってくれたのは石田だが、黒髪の美人と言われて、真っ先に思い出すのが男だってのはどうなんだ、一護。
 なんだか、あんまり健全じゃない気がする。
「ともだちぃっ!?」
 これまたオレの言葉にショックを受けた一護は、あんぐりと顎を外す。次はなにをされるのか、とビクビクしながら見上げると
「オマ…え、石田と、トモダ…え? ドリ…?」
 その単語のあまりの破壊力に、一護はマトモな日本語すら話せなくなっていた。
「あげる、って言われて、巻いてくれたから」
「巻いてくれた…っ」
 がーん、と背景に浮かんでそうなほどダメージを受けている一護は、俺の言葉を繰り返すだけだ。
「自分のもの、あんまり持ってないでしょ、って」
 パクパクと口を動かした一護は、マフラーを持ち上げて、そのまま硬直した。
 もしかしたら、怒りのあまり投げつけようとしたのかもしれない。
「……でも、オレのこの身体の時はあんまり服着たくないみたいだから、黒崎の身体に入ってる時用のにしたよ、って」
 そう言った石田は、その時僅かに頬を染めて続けたのだった。

「それ、多分黒崎にも似合う色だから、もしアレだったら使っても良いよって伝えてよ」

 このマフラーはもらった時点でオレのモノなはずで、そうなった場合、石田に使用許可云々を言う権利はない。
 それなのに、わざわざそう付け加えたという事は…本来、コレは一護へのプレゼントなのだろう。
 現に、コンのKは、黒崎のKでもある。
 一護がつけていても何も違和感はない。

 上手い具合に利用された気はしたが、これも運命なのだろう。
 石田と一護の双方の気持ちを明確に知っているのは、多分オレ様だけだし、コレまでの恋愛経験から言っても、恋愛マスターたるコン様が二人のフォローをしてやらねばなるまい、と密かに思っていたりもする。そう言った意味では、こんな風に不器用な2人を取り持つのが、天がオレに与えた使命なのかもしれなかった。
 男2人の仲を取り持つなんてゾッとしなかったけれども、そういうの、後で自分にイイ感じに返ってきそうな気もするし、だったら手伝ってやるしかないだろう。自分の後々の天使ちゃんとのラブスウィートライフのためだ。多少苦労するのも止むを得まい。

「でも、コレお前にって石田が編んだんだろ?」
 つけていい、との言葉を聞いて、一護は複雑そうな顔をする。
「でも、普段のオレには大きすぎるし」
「まぁ、そうだな…」
「それにだ。お前が外で突然死神になる必要があった時、コレをつけていてもらわないと困るじゃないか」
「あ? なんだソレ」
「だから! オレがお前の身体を預かる時には、コレはオレのモノなんだから、つけていたいと思うだろ!? どーして自分のマフラーがあるのに一護のマフラーで暖を取らにゃならんのだ。いつなにがあるか解らないんだからいつでもつけてろよ!」
 我ながら、苦しい言い分だ。
 なにがなんでもこのマフラーを付けさせようという気が丸見えで、言ってて恥ずかしくなってきた。
 イイから頷け! と地団太踏むオレを見ていた一護は、釈然としない顔をしながらも頷いて見せた。そして、早速次の日から出かける時につけていきやがった。
 普段オレを連れ歩いてないんだから、つけていく必要なんてないんだ、とは思い当たらなかったのか、それともコレ幸いと石田お手製マフラーをつけて出かけたのか。そんなコトはどっちでも良かった。
「メーガネ。この借りは高くつくぜ」
 軽い足取りで歩いていく一護の後姿を窓辺から眺めながら、オレはそう呟いた。




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