ラブ☆コン
―love consensus―



「あとは頼む!」
 一護の野郎、そう言って姐さんと出ていった。
 あとは、って言われても、もう放課後だったから帰るだけだったんだけど。
 折角だから女の子と遊ぼうかとオレは町へ出た。何人かに声をかけてみたけど全部空振り。皆見る目がねえなぁって外見一護ならしょうがないか。
 それはそうとあんまり遊んでいると一護に怒られる。と言うか、あのウルサイ妹と父親に怒られる。
 仕方ねぇ、帰るか。
 と思ったけど、まだ未練たらしく河縁を歩いてみたりして。まだ門限には時間があるもんな。いつもの姿じゃ出歩くこともままならない。自由に歩きまわれるってのは気分が良いもんだ。
 なんて気ままな一匹狼を気取っていたら、ヤツに会ってしまった。

「黒崎…? じゃないな」

 背後から声をかけられて振り返るとそいつが立っていた。
「げっメガネ…」
 あの時無視された恨みは忘れちゃいねぇ。妙な服着させられた恨みもだ。結局あの服一人じゃ脱げなくて、一護に借りをつくっちまった。しかも乱暴に脱がすもんだから…っと、こりゃ関係ないか。
 さて、そんなオレの言葉に、メガネは嫌そうに眉をひそめて言う。
「メガネじゃないよ。雨竜、石田雨竜だ。」
 細かいこと気にしやがって。メガネかけてりゃメガネ呼ばわりされても文句は言えねえんだよ!メガネ!!(全国のメガネっ娘諸君は安心してくれ。女子は別だ、無問題だ。)
「なんだよ。お前、今日は虚退治に行かないのか? 一護と姐さんは行ったぞ」
 ホレ、さっさと消えろ、と手で追い払う仕草を見せても、何を考えているのかヤツは近付いてくるばかりで立ち去る気配は無い。
「知ってるよ。でも…この手じゃ辛いからね、治るまでは…黒崎に任せることにしたんだ」
 ヤツは包帯だらけの手で眼鏡を押し上げる。かーッ!イチイチ格好付けやがって!ムカつく野郎だな。
 思い切り顔をしかめたオレを眺めて、メガネ…石田は呟いた。
「そういう顔してると、やっぱり黒崎なんだな」
「あ?」
 意味が解らず首を傾げると、石田も同じように首を傾げて
「あぁ、いや。
 …君が黒崎の中に居るときは、表情が違うから。だからすぐ解るんだけど」
 少し笑った。
「君、黒崎の振りするの、疲れるだろう?」
 ――全然性格違いそうだもんね。
「まぁ…な」
 やけに楽しそうな顔を見ていると、突っかかる気も失せる。
「それから。
 君じゃねぇ、コンだ」

 なんだか、最初に思ったよりも悪いヤツじゃなさそうだ。姐さんからも話は聞いたが、なんだか色んな事情があったようだし、あの時は一護と死神である姐さんしか目に入らなかったのだろう、とオトナな解釈をしてやれば怒りも少ししか沸いてこない。
 コイツに関しては、連日のように一護が愚痴っているのを知ってる。
 ナニがそんなに気になるんだか、毎日毎日、口を開けば「石田が」「あのバカが」
 愛想が無いだの捻くれてるだのなんだの。 
 一護に愛想がないって言われるなんてよっぽどのもんだ、と思っていたけどそんな事なさそうじゃないか。

 つい人間観察に入ってしまったオレに更に近付いてきて
「コン君」
 石田はオレの脇を指差す。
「気付いてないかもしれないけど、それ、かなり可笑しいよ」
 指し示されたものは、オレのラヴリィなボディ。忘れちゃいけない、と大事に抱えていたんだが。
「高校生の、しかも男子がぬいぐるみ抱えて歩いちゃ……目立つ」
 言葉を選んで言ったようだが、それって要するに
「変って意味か?」
 尋ねると、石田は困ったように視線をそらして頷いた。
 しまったァ!そのせいか!だから声かけた女の子全員変な顔してたのか!
 そういや一護に嫌がらせで学校ついて行ってやろうとした事もあったっけ。
 うわぁぁぁ、通りでダレも引っかからないわけだよ奥さーんっ。
 愕然としたオレの肩を叩いて、石田は言う。
「まぁ…噂立てられるのは黒崎だから。関係ないけどね。
 取り敢えずその身体、カバンにしまいなよ」
 一護のカバンの隙間になんとかへしゃげないように気を使いながらオレの身体を捻じ込みつつ横目で見ると、石田は興味深そうにオレを観察していた。
「楽しそうだな…」
「そう?」
 オレを見る石田の目は確かに笑っていて、第一印象とは大分違う様子に驚きを隠せない。
「お前、時間あるのか?」
「僕かい? …急いでないけど」
 どうして?と不思議そうな顔をされても、困る。
 オレだってどうしてコイツにそんな事言ってしまったのか解ってなかったのだから。女の子でもなければ、キライだった筈のコイツに。


「面白いなぁ」

 河川敷に座り込んで話をしている途中、石田が言った。
「え、なにが??」
 キョトンとして目を瞬かせると、石田はオレを指差す。
「黒崎の顔で、そういう反応するところ」
 ――普段だったらもっと反応鈍いし、そんなに表情も変わらないよ。
「あ〜あ。そういや一護に
 テメエに身体貸した後、顔が筋肉痛になってることがある。
 って言われたことあるぞ」
 ンなコトあるかっての!
 ムン、と顔に力を入れれば
「顔が筋肉痛?」
 ふっ、と噴出して、石田は肩を震わせる。
「面白いね、君」

 クスクス笑い続けてる石田の姿を、一護が見たらどう思うんだろう。
 そんな事が頭に過ぎった。

「お前、思ったよりも良いヤツだな」
 思わず呟く。
「失敬な。元から僕は良い人だよ」
「自分で言うか」
 突っ込むと、石田はまた笑う。
「なぁ。石田」
「なんだい、くろさ…あ、コン君」
 黒崎、と条件反射で言いかけて、石田はしまった、と言う顔をした。オレは別に気にしてないって言うのに「ゴメン」なんて小さく謝りすらした。
 やっぱり、一護から聞いてるキャラクタとは全然違う人格に見える。
「なんでオメー、一護の前では無愛想なんだ?」
「・・・・・」
 石田の表情が固まった。
「聞きにくい事を、ズバリと聞いてくるね」
 暫くの間をおいて、石田が頬杖をつきながら溜息をつく。
「だって、あまりにも一護から聞いてる性格と違うもんだから。」
「あぁ、うん…」
 なんでだろう。
 小さく呟く声は、いやに頼りなげに響く。

「…僕は、黒崎には負けたくないんだ」
 遠くを見つめる目で、石田は言った。
「負けたくなくて、無視されるのも耐え難い。解るかな」
「うむうむ。無視されるのはツライよなァ。一護のヤロウいつもオレを居て居ないような扱いしやがって…!!」
「――なんかちょっと違う気がするんだけど。ちょっとズレてても気にしないよ」
 癇に障る言い方をして、石田はじっとオレを見る。
 そんな妙に熱い視線で見るなよ。勘違いしそうになるじゃねえか。
 ドキドキしだす自分に戸惑っていると、石田が片手を地面について少し上半身を寄せてきた。
「ねぇ。コン君」
「なんだヨ」
 緊張して声が強張る。

「…黒崎の声、出せる?」

「はぁ?」
 なにを言いだすのだ、と思っていると
「もっと…そうだね、君の出してる声より心持ち低めの。
 同じ身体なんだから、出せるだろう?」
「ちょっと待ってろ。やってみる」
 あ〜とか、う〜とか、え〜とか、お〜とか。色々やってみたけど、一護のあの不機嫌そうな声は出せやしなかった。
「…ゴメン、もう良いよ。無理はしないほうが良い」
 自分でやらせといて、石田は笑いを堪えながら手でもう止めろ、と言ってくる。
「身体は一護でもオレはオレだ。アイツの声なんて出せねえよ」
 不貞腐れて言うオレに、石田は困った顔をして
「悪かったね。」
 なんて言いながら、立ち上がってズボンの草を払った。
「さ、もう帰ろうか。あまり遅いと、黒崎に怒られるよ」
「えっ?!」
 慌てて時計を見ると、もう門限ギリギリだった。
「わ、オレ帰るっ!!」
 立ち上がってカバンを引っつかむ。
「じゃぁなっ」
「気を付けて。
 あ、キミの身体。何かあったら直してあげるからね?」
 石田の押し上げるメガネが怪しく光った気がした。
 真っ直ぐ立ったまま手を振る石田を振り返り、オレも手を振り返す。それから一護の声を真似して

「また明日なッ、雨竜!」
 って、言ってやった。

「――?!」
 石田の目が限界まで見開かれ、頬が真っ赤に染まる。
 オレの身体に手を付けようなんて考えてるなら、仕返しだ。ヘンな服も、妙なオプションも必要ないのさ、俺のパーフェクトなボディには!

 石田がナニに弱いかなんて、ナニを求めているのかなんて、ちょっと話せば気がつくコトだ。
 気付いてないのは、本人達ばかり也。
 嗚呼青春。だねえ?

 ベェっと舌を出してやれば
「僕をからかうなっ!」
 後ろから怒りのこもった声が聞こえた気がしたけど、オレは気にしなかった。

 *

 翌日。

「そういや昨日の帰り、石田と一護、何話してたんだ?」
 休み時間、啓吾に突然言われて一護は首を傾げた。
「帰り? いや石田になんて会ってねえぞ」
「またまた。そのオレンジ頭がこの近辺に何人も居て堪るかって」
 バシバシ肩を叩かれて、一護は訳が解らない、と言う顔をする。
「石田ぁ、一護と話してたよな?」
 話を振られた雨竜はルキアの鞄に一瞬視線を走らせ、静かな声で答えた。
「いや、僕は黒崎と話すことなんて、ないから」
「良い根性してんじゃねえか…」
 ピキっと青筋立てる一護に
「黒崎とは、話してないよ」
 意味深に言って雨竜は目を伏せる。
「じゃぁ見間違いか? おかしいなぁ。妙に仲良さそうに見えたんだけどなぁ」
 ブツブツ言う啓吾に、一護は言う。
「だったら尚更俺らじゃないだろが。」
 不機嫌そうに椅子に踏ん反り返る一護に、啓吾はにまりと笑って
「そうか? お前ら仲良いじゃん」
 そう言いながら自分の席へと帰っていった。
「待てケイゴッ! 今の発言取り消せ!」
「黒崎、煩いよ。静かにしてくれ」
「石田! オメーも否定せんか、コラァ」
「そんな下らない話、必死になって否定するほど僕は暇じゃないんでね」
「…後で殴る…ッ」

 最近、黒崎と石田は仲が良い。
 二人の遣り取りを聞いていたクラスメイトの大半が、そう思ったのは言うまでもない。




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