流れ星



「なぁ石田」
 電気を消した部屋の中、一護はカーテンを開けて、いつもよりもたくさん見えるような気がする星空を見上げていた。
「なんだい?」
「流れ星」
「……もう流れちゃってるだろ。言うタイミングが遅い。それに、流れ星は教えられてから見ることなんてムリなんだよ」
 布団に包まった雨竜は、マグカップで両手を温めながら言う。
「なぁ、流れ星って、なんなんだ?」
「なにって?」
「星……?」
 首が痛くなるんじゃないか、と思うくらいに真剣に空を見上げている一護は眉間のしわを深める。
「宇宙にあるチリだとか隕石の欠片だとかが、大気圏にぶつかって摩擦熱で高温になって光る。地上から見ると光る筋に見える。そういう現象……だったと思うけど」
「へぇ」
 お前物知りだな、と言いながら、一護は仰向けに寝転がった。
「あぁ、こうやっても見えるや」
「そりゃそうだろうね」
 またぼーっと空を眺めだす一護を横目で見て、雨竜はマグカップの中の揺れる液体に視線を落とした。
「あー、そうだよなぁ。星座の星が落ちたら、形変わっちまうもんなぁ……」
「うん」
「もし死んだ星がそのまま落ちてくるんだったらさぁ」
 大変だよな。
 ごろ、と転がった一護は、もう空を見てはいない。
「死んでまで人の願い叶えるために働きたくはないよなぁ」
「……なにを言っているんだ、君は」
 一護の言うことを非科学的だと言うのなら、自分たちに見えているもの―虚や死神―が存在する、という事実の方がよほど非科学的だろう。
 この場合は、ロマンチストと言ったほうが良いのだろうか。
「死に逝く瞬間に願いをかなえるような膨大な力が発揮されるわきゃねーよなぁ」
 一護は、もう半分寝ているのだろうか。徐々にのんびりとした物言いになってくる。
「あーでもさ。俺にそんな力があったら、石田の願いを叶えてやりてー……」
「僕の願い? 黒崎、それは無理だよ」
「言ってみろよ。言われてみなきゃ解らないだろ」
 身体を起こしかけた一護は、まだ布団に撃沈してしまう。
「君程度に叶えられる願いじゃないよ」
 フン、と鼻で笑えば、一護は肩を揺らして笑った。
「俺との子供がほしいとか」
「バカ言え」
 頭を小突くと、一護はまた笑う。しばらくして、眠そうな声の一護が唸るように呟いた。
「星に、本当に願いを叶える力があるなら……虚たちも、さ」
「うん」
「あんなになっちまう前に、星に願いをかければ良いのにな」
「どういう意味だい?」
「だって、アイツラも元は人間の魂魄だろ。だったら、未練に縛られて身動きできなくなる前に……」
 ――星に願いを叶えてもらえば良いのに。
 一護は雨竜に手を伸ばしてくる。ちょっと避けると、すんでのところでパタリと落ちた。
「そしたらオメーも、そぉんな険しい顔してなくて済むのになぁ……」
「虚がいなかったら?」
「滅却師なんて、やってなくても良いじゃないか」
「君、僕の存在そのものを否定しているのか?」
「そうじゃなくて……あー、恨むものが多いと、自分も虚に落ち、そ……」
 規則的な呼吸音が聞こえてくる。
「……寝た?」
 返事はない。
 カップを置いて、雨竜は一護に布団をかけた。

「君は、この世の仕組みについて解っているのかいないのか、さっぱり解らないよ」
 雨竜は呟いて、マグカップに口をつけながら星空を見上げた。
「願い事が思いつくって言うのは、とても幸せなことなんだと思うよ……僕は、君に会うまで願いなんてひとつもなかった」
 聞こえないことが解っていて、一護に向けて語る。
「黒崎は、僕の願いを叶えてやりたいって……言ったけどさ。無理だよ、君じゃ――叶えられない」
 ――君ともう少し一緒に過ごしてみたい、なんて願い、君がいなくなったら叶うわけがない。
「本当に、バカだな、黒崎」
 今度は無意識に伸ばしてくる手を避けず、くるぶしに触れる髪をくすぐったく感じながら、雨竜はいつまでも空を見上げていた。




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