「僕は!」
突然必死な形相を浮かべた石田に立ちふさがれた。
「決して君のことなんて意識したりしてないんだからなッ!!」
わぁ、どこかで聞いたようなテンプレツンデレ語出たー。
ぼうっと思いながら赤く染まった頬を見る。
――いや、そもそもこの男、どうしてこんなに必死なんだ?
別に、今は好きのなんのと言い寄っていたわけではない。
そろそろ言わないと忘れられるのではないかと思うのだが、どうにも気分が乗らなくてそのままだ。
――気分が乗らない、なんて言ったら、愛情が足りないんじゃないかと寂しく思ってくれるだろうか。
薄ぼんやりと考えながら、拳を硬く握り締めた石田雨竜を見返した。
「……意識、してねーの?」
「してないよ!」
「あぁ、そっか」
じゃぁ、と横を通り過ぎようとすれば袖を引かれる。
「なんだよ」
「なんなんだ、その態度はッ」
「いや、なに興奮してんだか解らねーよ」
興奮なんてしてない! と叫ぶ石田を置いて帰路に着く。自分でも吃驚するくらいに、最近無気力なのだ。石田に絡む元気も、あまりない。
――枯れたか。
ってそんなワケはないな。枯れてないのは、自分が一番良く解っている。
ただ、いつものように邪険にされても諦めずに何度もアタックする、なんて元気がないだけだ。
「黒崎」
珍しい。石田がついてくる。普段だったら自分が石田の後ろをくっついて歩いてるって言うのに。
「調子、狂うんだよ」
ボツリと石田は言う。
振り返ると、視線はあさっての方向を向いている。どうしたっていうんだろう。不審すぎる。
「調子?」
人気のない校庭の隅で石田と向かい合った。
「なんだか、変なんだ」
――それも、アレな展開の話だとありきたりな台詞だよなぁ。
頭に過ぎるのはそんなことだ。本当に、自分は目の前の相手が好きなのだろうかと不思議になってくる。
「…………」
本当に、君は僕のことが好きなのかい?
とでも尋ねたそうな目で見られる。そんなこと聞くなんて、コイツのプライドが許さないんだろうけど。
「あー……」
ボリボリと後頭部を掻いて、俺は眉をひそめる。なんだろう。この告白を強要されているような居心地の悪い感じは。
告白するのは嫌じゃない。でも、どうせ振られるんだろう? と思うとヤル気ゲージは上がる様子を見せない。
「何があったんだよ」
とりあえず、告白の言葉は後回しだ。石田の様子がおかしい理由でも聞き出してやろうじゃないか。どうせ無駄なのに、そう何度も元気に無駄な愛の言葉なんて吐けるかってんだ。
「何、って」
石田は言い難そうに視線を彷徨わせていたが、そのうちに軽い溜息と共にこんなことを言い出した。
「あまりね、突っ込みたくはなかったんだけどさ」
君、霊力なくしたじゃないか。
――あぁ。
ズキン、と胸が痛む。同時に、苦くて黒い気持ちが広がっていく。
そうだ。それの、何が悪い。
俺は自由だ。そして、静かな世界を手に入れたんだ。
それの、何が悪い。
多分、表情を隠しきれては居ない。石田が気まずそうに顔を顰めている。
「それがさ」
いつもの切れ味はどうした? と聞きたくなるほどに話が遠回しだ。話が長いのは石田の常。だが歯切れが悪いのは珍しい。
「君、知っていたかい?」
「あァ?」
今、俺はすごく不機嫌な顔をしているだろう。石田は困った顔をする。
「怒るなよ」
「怒ってねーよ」
「じゃぁ、続けるけどさ」
明らかに怒りを含んだ俺の声には頓着せず言葉を続ける。
「君、いつも僕の事を探してたじゃないか」
「は? なんの話……?」
やっぱり気付いていなかったのか。と、石田は呆れたような、それでいて妙に満足げな表情を浮かべた。
「あの紅い……忌々しいアレが、いつも僕を探すように君から僕に伸ばされていて」
いつだって触れるか触れないかの場所に漂っていたじゃないか。
石田は、やっぱりどう見ても嬉しそうに語る。
「君は、いつだって僕のことを意識しているんだ、っていくら隠したって解ってしまってたんだよ」
――だから、どうしておめーはそんなに自慢げなのか、と。
「それが、見えないと」
僕は。
「なんだか、いや、君の意識が変わったとか言ってるわけじゃなくて」
――あぁ。
なんとなく、石田の言いたい事が伝わってきて、怒るべきなのか呆れるべきなのか、それとも喜ぶべきなのかさっぱり解らなくなってくる。
「君からの意識が見えないのが、こう……落ち着かなくて。気付いたら僕が君の事を目で追っていたりして・さ」
癪に障る、ということか。
要するに、石田雨竜のプライドが許さないのだ。黒崎一護なんぞを、気にしているという事実が。
「だっ、だから!!」
にやぁっと口角が上がるのを感じた。
なんだ。どう考えても嫌われているはずはない、嫌いな相手に対する反応じゃねーだろ、とは思っていたが(だからこそ何度もアタックかましてるんじゃないか)まさかこんなに立派な両想いだったとは。
「君のことなんて意識してないんだってば!」
「あーはいはいはい」
やっぱり興奮した様子で必死に否定してくる石田の頭をぽんぽんと叩いてやると、卒倒しそうなほど真っ赤になる。なんとも可愛いヤツだ。
「好きだぜ、石田」
こんなに気分が良いのは久しぶりだ。
「僕は君なんて好きじゃないッ!!」
「解った解った」
「その上から目線、止めてくれないか」
「ういーっす」
調子に乗って何度か好きだと繰り返す。
言葉と共に気持ちが向上していった。
石田雨竜は、大バカ者だ。自分の気持ちに微塵も気付いていない。
本当に、バカだ。
でも、そんなところも愛しくてたまらないのだ。
俺、黒崎一護は石田雨竜が好きだ。それは、きっと変わらない事実。
そしていつか、石田は自分でも否定しようがないくらい、俺のことを好きになると良い。
好きじゃない、じゃなくて、その否定の言葉を取っ払ってこちらに伝えたくて堪らなくなるくらいに、俺に惚れさせてやろうじゃないか。
見上げた空は、久し振りに気持ち良く晴れ渡っていた。
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自分の気持ちになんて気付いてやるものか、な石田さん。
プライド高すぎて邪魔になってる。
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