とあるゲームの
オトモ報告



 ある日の昼食時。いつの間にやら定位置になっている屋上の一角に一護たちはいた。
「あのさー」
 またもや話を切り出したのは啓吾だった。
「オレ今ハマってるゲームがあってさぁ」
「ふぅん」
 基本的に啓吾以外にゲーマーはいない。誰しもが気のない返事をする。
「コレコレ、見て」
「うん?」
 付き合いが良いのはチャドだけ。他の面子は我関せずと昼食を取り続けている。そんな状況にも慣れっこの啓吾は、気にせずチャドだけに話を続けた。
「これ、モンスターを倒して素材集めて、んで集めたモンスターの鱗とか牙とか、鉱石とか使って装備強化してくんだ」
 自分のレベルは上がんねーの。ずーっとHPとか低いままなんだよな。
「……うム」
 話には付いていかれない。けれども付き合いだした手前ここで知らん振りをするわけにもいかない。困るチャドの前に啓吾は携帯ゲーム機を出した。
「で、コレがオトモ。狩りの手伝いしてくれる猫みたいな獣人っての? ケモノだけど人語理解してる、っつー」
「ねぇ、チャドさ、話についていかれてないよ」
 半笑いの水色に突っ込まれた啓吾が改めてチャドの顔を見る。チャドはダラダラ冷や汗状態だった。
「ま、良いや。で、チャドさ。どの装備が良い?」
「何の話だ……?」
「オレさ、オトモにはトモダチの名前つけてんだ。だから、チャドにチャドの最終的な装備決めてもらおうと思って」
 今使ってんのはコレ〜。
 と、そこで啓吾は周囲に圧力を感じて顔を上げた。ふと気付けば水色も一護も、雨竜ですら画面を覗き込むように集まってきていた。
「それがチャド?」
 画面の毛並みの茶色いネコを指差して水色が尋ねる。
「うん。聞いて聞いて」
 周りが興味を示したことにご機嫌になって啓吾は説明しだした。
「毛並みはブラウン。チャドだしな。茶色しかないと思ってさ。で、攻撃方法は近接のみ。ボスでもザコでも戦ってくれんだ。ねばり上手で体力の回復早いしね」
 頼りになるんだぜ。と啓吾は自慢げにチャド(ネコ)を自慢する。
「武器はハンマーしか認めない。チャドだからな」
 決め付けた啓吾はチャドが何か言いたげな顔をしているのをスルーして画面を操作し、別のネコを表示させた。

「で、こっちがみずいろ。水色はハッカ色な。攻撃はしないんだ。素材集めたり笛吹いて体力回復させてくれたりするだけ。いっつもマイペースでモンスターはガン無視な。パニックもしない」
 素材集めに行くときはみずいろと一緒だなァ。
 啓吾の言葉に水色は珍しく複雑そうな顔になった。
「なに? ぼくってそんなに役に立たなさそうなワケ?」
「いや、水色が戦ってるってイメージなくてさ。どっちかっていうと、いつも回りでニコニコサポートしてくれる感じ?」
「ま、良いけどねー」
 どんだけマイペースだって思われるわけ? ぼく。
 不満げにジュースをすする水色を笑って、啓吾は一護と雨竜を手招いた。
「一護と石田もいるんだぜ」
「僕?!」
 まさか自分までいるとは思っていなかった雨竜はビックリした顔をする。
「一護は〜、これ」
 画面に表示されたのは全身オレンジのど派手なネコだった。装備品は剣らしい。なぜか悪魔のような羽根の付いた装備品を見て雨竜は噴出しかけた。頭は揃いの防具だと顔が隠れて可愛くないから悩んでいる、と啓吾は説明した。ギロリと一護に睨まれて咳払いをした雨竜は小首をかしげる。
「その子の性格は?」
「えーと……ichigoも近接だけかな。ブーメラン攻撃とかあんまりイメージじゃないだろ?」
「あぁまぁね。ブーメランは有りな気もするけど」
「そうかー? で、攻撃対象はボス一筋。ボスがいたらもうボスしか見えないヤツ。勇敢な性格でボスが怒ったり攻撃されると自分も怒って向かってくんだけどさ、どんなに体力が減ってもなかなか回復行動に入らないからヘタれた場合に復活が遅いんだよねー」
「……――ぶっ」
 派手に噴出して、身体を折るようにして突っ伏し声を殺して笑っている雨竜を珍しそうに見てから啓吾は一護を見る。一護は一護で、そんな雨竜を眺めながらなんとも言えない顔をしていた。
「俺、そーゆうイメージか?」
「へ? うん。無茶しそう」
「……反論できねえ……」
「ダメだぞー、自分を大切にしないと〜」
 啓吾はそう言ってichigoを突っつき、今度は画面に真っ白いネコを表示させた。

「で、これがうりゅうな」
「白い」
「うん。石田クールだし青っぽいのでも良いかなって思ったけど、青系はみずいろがいるしさ。だったら白だな、って思ったんだ」
 間違ってねぇな、と一護は妙に上から目線だ。
「いしだ、って1人だけ苗字にすんのもナンだから名前にしちった。気分悪くしたらゴメンな、石田」
「あ、いやっ、全然ッ」
 笑いすぎてわずかに上気した顔で、涙を拭いながら雨竜は首を振る。
「で、石田のはどんなヤツなんだよ」
 あれだけ笑われたのだ。自分も笑ってやる、と一護は画面を覗き込んだ。
「石田……いや、うりゅうはね、ブーメランと爆弾。遠距離攻撃担当」
「はぁ」
 僕は弓しか使わない、と呟く雨竜を無視して一護は続きを促す。
「ザコ優先で戦ってくれるから、ボスに集中したいときにすっごく頼れる」
 頼れる、という単語に雨竜は微妙に誇らしげな顔になる。オメーじゃねえだろ、と突っ込みつつ一護は画面を指した。
「性格は?」
「チャンス派〜。ボスが疲れたりするとラッシュ攻撃しかけてくれんだ」
 ほら石田って頭良いし、こういうチャンス逃さない感じだろ。
 反論しようがなく、突っ込む所もなく一護は悔しそうだ。
「石田ー、この紳士っぽい帽子のタイプと真っ白い装備どっちが良い?」
「うーん」
 そっちでも良いよ。という雨竜を見て、啓吾はにかっと笑った。
「よし、じゃぁ特別にこっちの白いのにしよ。こっちのが強いボスの素材だしな。どうせなら白く生きろうりゅう!!」
「白く生きろって、君」 
「白く!!」
「……解ったよ」
 自分に言われているのだかネコに言われているのだか解らなくなった雨竜は眼鏡を押し上げた。啓吾はカチャカチャとボタンを操作しながら言う。
「なんかさぁ、ついついチャドとみずいろ・ichigoとうりゅうって組み合わせで行っちゃうんだよな〜」
「えっ」
 露骨に厭そうな顔をした雨竜に啓吾は困った顔をした。そこで嫌がられても、オトモ同士の相性というか向き不向きがあるのだ。あとは単純な好みとか。チャドとうりゅうの組み合わせも連れて行きはするが、現段階でレベルが高いのはichigoとうりゅうなのだからどうしても活躍の頻度は高くなる。そんな説明をしたところで多分理解はされないから、啓吾は言葉を飲み込んだ。
「基本、強いボス相手にはichigoたちかな。あ、あとな。うりゅうには相方がサボってたら指導するようなスキルつけてんだ」
「それって」
「ichigoがサボるとうりゅうの突っ込みが入る」
「――っ、うはははは!」
 いつの間にか気を持ち直したらしい水色が笑い出す。
「なに? 夫婦漫才?」
 ひーひー笑いながら言う水色に、雨竜と一護は同時に反論する。
「夫婦じゃないっ!」
「漫才じゃねえ!!」
「突っ込むところはそこじゃないだろっ!」
 ベシッ、と脳天に手刀が入ったのを見て今度はチャドまで噴出した。やっぱり漫才だ、と啓吾は自分のイメージが間違っていなかったことに満足して頷く。
 そんなこんなで啓吾のゲーム機の中にはトモダチがいろいろ登録されているらしい。そうやって相手をイメージしながらキャラクターを作るのが楽しいんだ、と啓吾は主張するのだった。




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