私のことが心配だといった侑。
その真剣な瞳に見つめられるのに耐えられなくなって、私は侑から逃れるように走った。
あと少しで家というところだったので、侑に捕まることなく家に逃げた。足速くてよかった、侑のほうが断然はやくて、あと少しで捕まりそうやったけど。
部屋に戻るなり一階にいるお母さんが私のことを呼ぶ。
「千聖ー!侑くんやでー」
「今日は会うたくない!」
侑に絶対聞こえる声で言ってしまったから、侑家に帰ったらきっと治に当たるだろうな。ごめんな、治。明日、お詫びの品としてプリンでも買っていこ。
バレー以外であんな真剣な顔見たことなかったから私はどうすればいいか本当にわからなかった。あれはからかってる目ではなかったのは確か。
侑がほんとわかんない。
_________
_____
「行ってきまーす」
「はよ...」
「は?」
なんで?
なんで侑がこんな時間に起きとるん?
玄関を開けるとそこにはいつも遅刻ギリギリの侑がいた。そして頼みの治はいない。
「は?ってなんやねん」
「今日雪降るんやない??」
「なんでやねん!」
侑が早起きとかありえん。
大会の日ならまだしも今日は日常の1幕だ。
「千聖、お前昨日、逃げたやろ」
うわ、やっぱ根に持っとるやん。
「逃げてへん」
「嘘や。じゃあなんであの後すぐ帰ったん?なぁ?なんでおばさんに会いたないって言ったん?」
「.....」
「逃げとるやん」
図星だったから黙った。でも侑は許してはくれないようで、部活に行く途中もずっと私を攻めるように見つめてきていた。
「侑が...」
「俺が?」
「わからん...」
学校へ行くためのバスの後部座席。私が窓側に座りその隣に侑が座る。その時にボソッといった言葉。
きっと「何年幼馴染みしとんねん」とか「ありえんわ」だとか、グサグサ刺さるような言葉を言われると思い、身構えていたが、侑からは何の言葉も発せられない。
え?
私は恐る恐る窓から外を眺めていた視線を侑に移すと、侑は、してやったりという顔をしていて、私はその顔から目が離せなくなってしまった。
ニヤッと笑った侑は私の両手をたくさんトスを上げてきた綺麗な指と掌で包み込み、私の目を見つめて言うのだ。
「ずっとわからんくてええねん」
「侑...?」
「千聖の頭ん中、占めんのは俺だけでええねん。これでわかったやろ?」
「...っ!」
今まで聞いたことない甘ったるい声で私にそう告げるのは私が知っている侑ではない。
離れていた3年間。
身体は成長したが中身は私が知っている頃のままだと思っていた。けど、今、目の前にいる侑はそうじゃない。私の掌を包み込む掌も、私にだけ聞こえるように囁いた甘い言葉も声も、私を出し抜いた考えも...私が知らなかった間に男の人に成長した証。
「千聖は鈍感やから、これから分かりやすく言うことにするわ」
フッフと笑った侑は学校の最寄りのバス停に着くまで私の手を離してはくれたかった。
空白の3年間
(顔真っ赤やんな)(うっさい)(ほんま、かわええな...)