「お前はここに立ってな。生きれてたら俺らの仲間にしてやってもいいぜ」
「殺したがってたくせに...」
私は、高杉に甲板へ続く扉のところに腕を縛られたまま放置されることになった。
甲板では見た事のあるシルエットが2つ。
ん?甲板斜めになってる?
いや、船が斜めになってるの!?
「神楽!新八くん!」
「なるさん!?」
「なる無事だったネ!」
私は腕を縛られたまま必死に走って神楽を抱き抱えている新八くんの元へ走った。
ドォン!!!
私たちの近くに砲弾が落ちた。
その瞬間、神楽が船の外へ飛び出した...え?宙に浮いてる?
そうか、ここの世界では当たり前のことか...納得...じゃなくて、神楽!
新八くんがギリギリ掴む。私も手伝いたいけど、両手が塞がって無理だ。
そんな時、白いペンギンみたいな生き物が私たちの傍に立っていて新八くんごと神楽を引き上げた。
新八くんたちは白いペンギンの生き物をエリザベスと呼んでいて名前がエリザベスという事だけ分かったけど、なんだこの生き物。
「あ!」
気づいた時には遅く、エリザベスさんの後ろには高杉が立っていて、刀でエリザベスの胴体を半分に斬った。
「オイオイいつの間に仮装パーティ会場になったんだ、ここは。ガキは来ていい所じゃねーよ、ここは」
「ガキじゃない」
この声、1度だけ聞いた事ある。
「桂だ」
あの時のテロリスト、桂小太郎
桂さんが高杉と話している間に私は、新八くん腕を縛っていた縄を外して貰った。
神楽は桂さんに金属で出来ている手枷を切ってもらっていた。
「なるさんはなんでここに...」
「成り行きというか...迷子」
「迷子ってあんた...」
そんな哀れな目で見ないで欲しいよ、新八くん。
「なる、ちょっとヅラシメるから少し離れてて欲しいネ」
「そうだね、神楽ちゃん」
指を鳴らしながら言う神楽と、メガネを指で上げながら賛同する新八くん。
神楽と新八くんは、私が船の端に避難したのを確認してから桂さんをシメながら、敵が近づかないようにしていた。
「やば...」
神楽と新八くんは桂さんの足を掴んで振り回していた。
私は今2人に守られている形になっている事に気づいて、近くに落ちていた何処ぞの誰のか分からない刀を拾い上げた。
「なる、お前刀使えるアルか!?」
「一応ね...」
と、言ってはみたものの、私は刀を握ったことは無い。せいぜい木刀まで。
木刀も重いと思ってはいたけど、刀はそれ以上に重いというか、違う意味で重い。
物理的重さじゃなくて精神的なもの。
でも、自分自身を守るためにはこれしかない...
私は襲いかかってきた攘夷志士の刀を拾い上げた刀で受け止めた。
あぁ、一撃が重い...
明日は絶対筋肉痛...ま、生きて帰れたらの話だけど!
「死ね小娘!」
「...私はこんな所で死ねない!」
私から距離をとり、再度刀を振りかざしてきた一撃を避け、私は相手の隙をみて刀を振る。
木刀では味わえない感覚。
木刀だと肉を斬る感覚なんて味わえない。しっかり手に残る初めての感覚。
私は、人を斬ったことによって身体が今まで感じたことの無い恐怖と後悔に襲われ、身体が震えだす。
甲板は、桂さんの仲間たちも加わり見たことの無い光景が広がっていた。
鼻にかかる生々しい血の匂い...耳を塞ぎたくなる断末魔...白目を剥いて転がるさっきまで刀を奮っていた人...
平和な世界に暮らしてきた私には、到底目に入れたことの無い光景。
「なる!なるもこっち来るアル!」
人を斬って固まっている私の手を取って、新八くんと一緒に桂さんのあとを追う神楽。
船の中に入ると、桂さんの目の前には高杉晋助の仲間2人。その2人に立ち向かうのは神楽と新八くん。
「桂さん、今日のこと真選組に黙っているので、高級お饅頭今度私に奢ってくださいね!」
「おい!待て!」
私は邪魔にならない所で桂さんに、そう言い、神楽と新八くんの闘いを見守ることにした。
初めて人を斬った日
(あれ...まだ身体が震えてる)