6:文化祭の思い出と


「はぁーぁ。」

文化祭準備。
友達のいない者にとっては苦痛そのものだ。
文化祭本番も、だが。
うちのクラスはメイド喫茶だ。
名前ももちろん駆り出されるのだが、嫌で嫌で仕方がない。
今はみんな明日の本番に向けて料理の最終確認をしたり、服のチェックをしたり、教室を装飾したりで忙しくしている。
だが女子を中心としてやっているため、名前はなんとなく居づらい。
あのお嬢様もいるのだ。
かと言って帰ったらそれはそれで怒られそうなので、さっきから校内をフラフラとしている。

「お、鬼灯くん発見〜」

なんだ鬼灯くんもサボってるじゃないか、と思い近付こうとすると、もう一人人がいる事に気が付いた。

「(なになに?)」
「私、鬼灯君のことが好きなんです...!」
「(えっ...)」

顔を覗き見すると、同じクラスの大人しい女の子だった。

「(そっかぁ...鬼灯くん、モテるもんなぁ...童貞だけど)」

そう思って邪魔しないようにそこから姿を消した。

「(なんか、複雑な気分だな)」

鬼灯が取られてしまったような、まるでそれが嫌みたいな。
胸がちくちくする感覚を覚え、そんな気持ちを忘れようとクラスの準備を見に行った。


そして文化祭当日。

「いらっしゃいませー!メイド喫茶へようこそー!」

クラスの可愛いと言われる女子達が、お客さんを出迎えた。
名前もその一人だ。
男子は裏方に回り、調理室で料理を作る。

「(はぁ...笑顔疲れるなぁ...なんでお金も貰えないのにこんな事...)」
「おや、可愛いメイドさんですね」

名前の後ろから声がかかり、私?と思って振り向くと、そこには鬼灯が立っていた。

「鬼灯くん...調理は?」
「もう私が調理する番は終わりましたのであとは自由です」
「そうなんだぁ...いいね、私なんて一日中これだよ...っあ、」

仲良さげに話してしまった、と思いお嬢様の方を見ると、案の定こちらを睨みつけていた。

「怖いですねぇ女子があんな顔するなんて」
「鬼灯くん、あの子の機嫌取ってきてよ...」
「なんでですか。嫌ですよ」
「私がまたいじめられるじゃん...」
「ほう。嫉妬ですか。面白い」
「えっ!?わっ...!」

鬼灯はそう言うと名前の手を取り、人混みの中を引っ張り始めた。

「ちょ、っと!どこ行くの!」
「一緒に回りましょう」
「私メイドの仕事あるんだけど!」
「可愛いお嬢さんがいっぱいいるので一人くらい欠けても平気でしょう」

それから鬼灯はメイド姿の名前を連れて、ライブを見に行ったり、お化け屋敷に入ったり、食事をしたり、色々な事をして文化祭を楽しんだ。

夕方になり、そろそろ文化祭も終わりの時間といった頃。
屋上で校庭を見下ろしながら黄昏ていた鬼灯に、名前が話しかけた。

「...昨日、さ。見ちゃった」
「何をですか?」
「...鬼灯くんが、告白されてるところ」
「...あぁ、見てたんですか」
「ごめん、ね。好きな子がいるなら、もう一緒にいない方が...」

ガシャン、とフェンスが揺れた。
そして驚いた名前の後頭部に鬼灯がそっと手を添え、名前にキスをした。
今度は額ではなく、唇に、だ。

「......!?っ〜〜!!」

名前は驚いてワタワタとしているが、鬼灯は離す様子がない。
漸く離したと思ったら、鬼灯は切なそうな顔をしていた。
同じく名前も、顔を真っ赤にしながら切なそうな顔をした。

「なにっ...すんの...」
「...なにって、キスですけど」
「なん...で...?また、なんとなく...?」
「.........」

鬼灯は目を逸らした。

「私のファーストキスっ...!なんとなくで奪ったの...!?」
「...初めてだったんですか」
「そうだよぉっ...!」

うええぇ、と名前は顔を覆ってメソメソと泣き始めた。

「すみませんでした。初めてとは知らず...」
「っ...っ......」
「なんとなくでした訳ではないので泣かないでください」
「っじゃあ...なに...っ」
「......何、と言われると困るんですけど...こう、衝動的に?」
「ひどい、大した理由もなく...」
「でも、私も初めてですので」
「え......」

鬼灯はよしよしと優しく名前の頭を撫でた。

「尚更、なんで...」
「なんでかは今は聞かないでください」
「なにそれ...ずるい」
「もう一緒にいない方がいい、とか言わないでくださいよ。また脂ぎった血が飲みたいんですか?」
「.........」
「ほら、美味しい血をどうぞ。お昼、食べてないでしょう」

鬼灯はグイと首元のシャツを開けて肩をさらけ出した。
何度も噛み付いているそこには、噛み付いた跡がいくつも残っている。

「(鬼灯くんの気持ちが、よく分からない...)」
「飲まないんですか?」
「...飲む。いただきます」

名前はいつもと違い、鬼灯の首の後ろに手を回し、抱きつきながら食事をした。


文化祭の思い出と
(よくわかんない。何考えてるんだろ)



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