4:夏を楽しむ


夏休みがやってきた。
が、鬼灯は特に休む暇もなくバイトだ。

「ねぇねぇ〜」
「なんですか」
「プール行きたい」
「行ってらっしゃい」
「そうじゃなくてさー!!」

バイトから帰ってきてご飯を食べている鬼灯に駄々をこねる名前。
鬼灯は黙々と食べながら答えた。

「そういうイベントは好きな男と行ったらどうですか?」
「いないんだもん」
「いないからって何で私なんですか」
「鬼灯くんの事、嫌いじゃないし...?」
「嫌いではないけど好きでもないと」
「いやそれはほら、それは言葉の綾っていうか...いや、好きだよ!血もくれるし優しくしてくれるし!」
「でも恋愛感情ではないでしょう」
「...分かんない。恋愛した事ないもん」

はぁ、と名前は溜息をついた。

「あ、じゃあほら、お祭り行ってみたい!」
「行ったところで何も食べれないでしょう」
「......そうでした」

名前は今度ははぁぁと深い溜息をついた。

「どうしたいんですか?結局」
「夏を満喫したい」
「...分かりました。海でいいですか?」
「え!いいの!?」
「そこまで落ち込まれると可哀想に思えてきたので」
「やった!わーい!ありがとう!すき!」
「はいはい」


そんなやり取りがあり、二人は海へとやって来た。
水着は鬼灯がお金を出して買ってくれた。

「わぁ〜海!初めて来た!」
「向こうにはないんですか?」
「ないよぉーそれどころか暗くてジメジメしてるし」

名前は水辺に行き、足をつけた。
波がザザァと名前の足を擽る。

「冷た〜い。気持ちいい」
「ほら。浮き輪でもつけて浮かんだらどうですか」
「鬼灯くんもおいでよ」
「え、」

おいでよ、と言って名前が鬼灯の手を掴んだ。
女性に慣れていない鬼灯は一瞬たじろいだが、何ともないフリをしてそのまま手を引かれていった。

「え、やだ怖い。足付かないんだけど」
「私が持ってるので大丈夫で、」

全て言う前に名前が鬼灯の腕にしがみ付いた。

「.........」
「あ、ごめん嫌?」
「いや......まぁいいです」
「手繋いでていい?」
「はぁ...どうぞ」

名前は鬼灯の許可を得て手を繋ぎ、気持ちいいのか目を閉じてそのまま浮かび続けた。
鬼灯は手持ち無沙汰だ、と思いつつ、何か悪戯できるような事も特に思い浮かばず、そのまま名前に手を貸し続けた。


しばらくそうして遊んだ後、鬼灯がお腹が空いたと言ったので海から上がり、海の家で焼きそばとかき氷を食べた。

「かき氷ってどんな味するの?」
「食べてみますか?」
「人間の食べ物食べると、具合悪くなっちゃうんだよ...」
「かき氷はただの氷ですし、大丈夫じゃないですか?」
「うーん...じゃあ一口ちょうだい」

鬼灯は、あ、間接キスだ、と一瞬思ったが、それを悟られないよう名前に一口あげた。

「うー...ん...甘い...?」
「苺の味ですよ」
「苺ってこんな味するんだぁ...ふんふん。悪くないかも。食べれないけど」

鬼灯がかき氷を全て食べ終わった後、名前の食事をどうするか悩んだ。

「指で吸えますか?」
「...まぁ、吸えない事はないけど」
「指くらいならカップルがイチャついてるようにしか見えないでしょう」
「でも、勃起するよ?」
「.........そうでした」

色々考えた後、鬼灯と名前はホテルに一旦帰ることにした。
そしてホテルに帰って名前が食事をし、シャワーに入って潮を流し、しばらくベッドでゴロゴロした。
ちなみにベッドはダブルベッドだ。
ダブルベッドの方が安かったのと、普段一緒に寝ているため大して気にならないからだ。

「今日、花火あるんだって。カップルがさっき話してた」
「そうですか。良かったですね、夏を満喫できそうで」
「うん!」

名前は笑顔でそう言った。
本当に嬉しいんだろうな、と思いながら鬼灯はそんな名前を見た。
ホテルのバイキングで食事をし(名前は食べれなかったが)、部屋に戻って来ると丁度花火が打ち上がっているのが部屋の大きな窓から見えた。

「わぁー綺麗...!」
「そうですね」

二人並んでベランダに出て花火を眺め、ふと名前が鬼灯の横顔を見た。
花火を真顔で見つめる鬼灯がいる。
名前は胸がきゅんと高鳴った。

「(え...?)」
「?」

名前の視線に気付いた鬼灯が名前の方を見ると、名前はサッと視線を逸らした。

「(なんか...胸に甘いものが...)」

名前が胸を押さえて花火も見ずに下を向いていると、どうしたんですかと鬼灯から声が掛かった。

「...ううん。なんでもない。多分」
「多分て。花火見ないと終わっちゃいますよ」
「あ...そうだ」

名前は再び顔を上げて花火を見始めた。
胸の高鳴りは徐々に治っていった。

「綺麗だったねー」
「そうですね」
「あーあ明日には帰っちゃうのかぁ。もっと遊びたかったなー」
「来年また遊べばいいじゃないですか」
「来年も一緒に行ってくれるの...?」
「さぁ。どうでしょうね」
「むむ...意地悪」

そうして二人の“夏の満喫”は終わった。


夏を楽しむ
(もう暫くしたらまた学校だー。やだなぁ」



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