1:今日からはじまる共同生活


「あぁ、もうダメだ...」

名前はそう呟いて、ばたりと地面に倒れた。
地上を彷徨い続けて早数日、ろくに食事もせずフラフラとしていたらよく分からない所に迷い込んでしまい、限界が来て倒れた。
今日は雨が降ったおかげで地面は水浸しだ。
名前は顔が汚れるのも構わず、そのまま遠のく意識に身を任せた。

「...おや」

そこに、ひとつの影が現れた。


「ん...んん...?」

名前はふと目を覚ました。
体が温かい。
薄れてゆきそうな意識をなんとか保ちつつ視線だけ動かすと、暗いが布団に入っているのが確認できた。
少し先にある扉の隙間から光が漏れている。
どうやら誰かが拾ってくれたようだ。

「(同情して誰かが迎えに来てくれたのか、誰か人間が拾ってくれたのか...)」

布団から出て確認しようにも、血が足りない。
お腹が空いている。
立とうものなら再び倒れて意識を失うであろう。

「(お願い...もうこの際同族でも人間でもいいから...血をくれ...)」

そう心の中で唱えていると、キィと部屋の扉が開いて部屋に光が差し込んだ。

「目が覚めましたか?」
「ん...だれ?」
「通りすがりの者です。玄関の目の前で倒れていたので、救急車を呼ぶ前にとりあえず運びました。救急車呼びましょうか?」
「いや...それはやめて...」
「嫌と言っても自力で帰れるとは思えませんが」

名前は会話からして人間だと悟った。
血だ。お腹が空いた。飲みたい。食べたい。
頭の中はそんな感情でいっぱいになった。
名前はちょいちょいと男を手招きした。

「?」

男は?マークを浮かべつつ名前に近付いた。
そして名前は布団を捲り上げると、一気に男に飛び付き首元に歯を立てた。

「なっ...!にす...っ!」

男は首元に走る痛みに驚き名前を離そうとしたが、相手は女のはずなのにびくともしない。
名前はそんな男の血をちゅうちゅうと吸い、こくんこくんと飲み込んだ。

「っ......」

そうしてしばらく、お腹が十分に満たされるまで血を飲み続けた。
そしてたらふく飲んで満足すると、ぷはぁと口を首元から離して、血に濡れた口元を手の甲でグイッと拭った。

「ごちそうさま...ってあぁ...!」

名前が手を離した途端男は貧血で膝から崩れ落ち、地面に倒れた。

「あぁぁっ...!ごめんなさい...!お腹が空きすぎてて...!」
「......どういう事か説明していただきましょうか」

まずは互いに自己紹介をした。
男の名は鬼灯と言うらしい。
鬼灯は寝転んだまま名前の話を聞いた。

「私は吸血鬼とサキュバスのハーフなんです」
「はぁ?頭大丈夫ですか?」
「失礼な!血を吸ったのが何よりの証拠でしょ!それにほら...」

名前は鬼灯のテントを張っている部分をちら、と目で見た。

「吸われた時気持ちよかったでしょ?」
「.........不本意ですが、認めます」
「つまり私は、一人前のサキュバスになるために冥界から男の精液を搾り取りに来たんです。...まぁ、それ以前にお腹空いてたからこういう結果になっちゃったんだけど...」
「さっさとその辺の男から搾り取って帰りなさい」
「いやぁ...それがさぁ......私、処女なんだよね...」

テヘ、と頭を小突きながら名前は言った。

「やっぱり初めては好きな人としたいじゃん?」
「サキュバスの台詞とは思えない...」
「私にだって選ぶ権利くらいあるはず!」
「じゃあ好きな人を作ったらどうですか」
「それがなかなかねー。作ろうと思って作れるものじゃないじゃん?」
「......まぁ」

冥界では、吸血鬼として人間の血を吸う事は許されているが 、それによって人間を殺してはいけない決まりになっている。
そのため血を吸いすぎて失血死させないよう、人間専用の栄養剤を持たされている。
名前はそれを懐から取り出し、鬼灯の頭を膝に乗せて口元に瓶の口を付けた。
だが鬼灯は口を開けようとはしない。

「心配しないで。毒薬とかじゃないから」
「何する気ですか」
「栄養剤だよ。血を吸いすぎちゃった時に人間に与えるものなの。さあ飲んで、騙されたと思って」

鬼灯は警戒していたが、やがて諦めてその瓶の中身をこくりこくりと飲んだ。
飲み終わってすぐに、頭が冴えてくる感覚がした。
そして何ともなかったかのようにムクリと起き上がり、名前を見た。

「すごいですね、コレ」
「だから言ったでしょ」
「まぁなんにせよ食事が済んだのならもう帰りなさい。どこに住んでるか知らないですけど」
「いやぁそれがね...ちょっと相談が...」
「.........」
「今野宿なんだよね...一緒に住んじゃ...ダメ?」
「貴女と一緒にいたら貧血で死にそうです」
「殺しちゃいけない決まりになってるから、死ぬまで飲んだりはしないよ」
「それに見ず知らずの女を匿うなんて...」
「だって人間じゃないよ?」
「人間じゃなくても...」
「それとも...」

名前はぐっと鬼灯に顔を近付け、挑発するように鬼灯を見つめた。

「精液取られるのが怖い?」
「...好きな人じゃなきゃ嫌じゃなかったんですか?」
「そうだけど。匂いで分かるんだよ?貴方がまだ女の人とした事ないって事くらい」
「っ......」
「だから怖いのかな?って」
「...望むところです。そんなに挑発するのならむしろ食ってやりますよ」
「キャー怖いっ。で、住まわせてくれるの??」
「...まぁ、いいでしょう」
「やったーぁ!ありがとう!ちゅき!」

名前は鬼灯に飛び付こうとしたが鬼灯は吸血されたトラウマのせいか思わず避け、名前は床とキスをした。

「鬼灯くんの事好きになれば精液貰えるし一石二鳥だね!」
「私の意思は無視ですか」
「サキュバスなんてそんなもんよ」


今日からはじまる共同生活
(お布団あったかい...しあわせ...)



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