9:タイムリミット


「あ、おかえり〜」
「ただいまです」
「どうだった?センター試験」
「まあまあ余裕です」
「うっ...さすが...。どうしたらバイトしながらそんな頭良くなれるの?」
「効率の良い時間の使い方をしているからですよ」

そんな事を話していると、窓の外で雪がちらつき始めた。

「あ!雪だぁ!すごーい、初めて見た!」

ベランダの窓を開けて外に出て、子供のようにはしゃぐ名前を見ていて、鬼灯はとても可愛らしい、と思ったのだった。

「ううっ...さぶ...!」
「ほら、風邪ひきますよ。閉めなさい」

窓を閉めると、名前は余程寒かったのか布団に潜ってしまった。

「まだ夕方ですよ」
「いいじゃーん寒いんだもん」

布団から顔だけ出してそう言う名前がまた可愛らしく、鬼灯は思わず一緒に布団に潜り込んで名前を抱き締めた。

「わっ...なに?」
「いえ。ちょっと。可愛かったので」

鬼灯はそのまま名前をぎゅうっと抱き締め、額に口付けた。

「わ、」
「いちいち驚きすぎですよ」

名前は繰り返される鬼灯の行動にドキドキし始め、顔がだんだん火照ってきた。

「顔赤いですよ」
「う、うるさいなぁ...しょうがないじゃん...」

鬼灯がそんな名前をじっと見つめていると、視線に気付いた名前が顔を上げた。

「.........」
「.........」

そのまま互いに見つめ合い、自然に引き寄せられるようにしてキスをした。
それは一瞬で終わることなく、何度も何度も互いに唇を擦り合わせる。
鬼灯はそんなことを続けているうちに、だんだんムラムラとしてきている自分に気が付いた。
そしてついにちろ、と名前の唇を舐めた。
だが名前はそれにびっくりして離れてしまい、そして鬼灯の男らしい顔を見て薄々と勘付いてしまった。

「...したい、の...?」
「...したいって言ったらどうします?」
「......分かんない...」

名前は眉を下げてそう言い、そして視線まで下げてしまった。

「...すみません、困らせてしまいましたね」
「...お、」
「お?」
「...おっぱいまでなら、我慢する...っ!」

名前はぎゅっと目を瞑りそう言った。
鬼灯はそんな名前の頭を撫でた。

「別に無理しなくていいです」
「いいの!私毎日ご飯貰ってるし...。ほ、ほら!きなさい!」

名前はそう言って部屋着を脱ぎ始めた。

「このバカチンが!」

鬼灯は上半身下着のみになってしまった名前を叱り、少々乱暴に服を着せた。

「自分の体を大事にしなさい!安売りするな!」
「......だって...」
「オッサンの血貰ったからって体売るんですか貴女は?」
「......ちがうけど...。だって私...鬼灯くんに何も返せてない...っ」
「血は私が好きであげているんですから」
「え...そうなの...?」
「そうです。だってそうしないと貴女はまた買春おじさんの所へ行くでしょう」
「......うん...」
「そんな事になってほしくないからあげてるんです。黙って吸ってなさい」
「......はい」

そうして名前は大人しく鬼灯の肩にかぶり付き、鬼灯はその快感に黙って耐えた。


その数日後。
鬼灯の家に入ろうとした名前の前に、上司が再び現れた。

「名前よぉ」
「.........」
「お前がアイツの事を気に入ってるのはよーく分かった」
「.........」
「春まで待ってやる。そしたらちょうどアイツも卒業だろ。それでダメならもう離れろ」
「っ......」
「お前は恋愛しに現世に来ている訳じゃない。子種を回収するために来てるんだ。そこ勘違いすんな」
「......はい」
「まぁ100歩譲って恋愛は自由だとしてもサキュバスとしての仕事はしろ」
「...は、い...」
「じゃあな」

名前は上司の背中が見えなくなるまで見つめ、姿が消えても呆然とそこに立ち尽くしていた。
どれくらいそうしていたか、自分の身体が冷えていることに気付いてやっと中に入った。
とりあえず暖をとるために布団に潜ってみたが、布団には鬼灯の匂いがこびり付いている。
その匂いに名前は悲しい気持ちになりぽろぽろと涙を流した。

やがて鬼灯が家に帰ってくると、布団に入って目を腫らして泣いている名前に、鬼灯はぎょっとして駆け寄った。

「どうしたんですかそんなに泣いて」
「春まで、だって」
「?」
「卒業したら、もうバイバイ」
「そう言われたんですか?」

鼻をすすりながらこくり、と名前が小さく頷いた。

「春まで一緒にいてダメなら、もう離れろって」
「...そうですか」
「...まぁ、どっちにしろ...同じ人の精液だけじゃなくて色んな人から取らなきゃいけないから...ずっと一緒にはいられないんだけどね」

名前は自嘲するように泣きながら小さく笑った。

「なんで私、サキュバスなのかな」

鬼灯はそう言う名前を見つめながらしばらく黙った後、バッと掛け布団を剥ぎ取り、泣いている名前に跨がった。

「どちらにせよ居なくなるのなら、いい思いをして別れましょう」
「え...?」

鬼灯は驚く名前を余所に、名前の首元に顔を埋め、ぺろりと首筋を舐めた。

「やっ!ま、まってまって!」
「待ちません。ずっと待ったんですから」
「や、やだよ...!初めては好きな人じゃなきゃや...!」

それを聞いて、鬼灯はピタリと動きを止めた。

「...では私の気持ちはどうなるんですか?」
「え...?」
「...もういいです。寝ます」


タイムリミット
(そう言って急かしておいて付き合えば名前もヤる気になると思ったんだが...名前の性格からしてそんな上手くいくわけねぇか...)



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