3:過去と現在

※R-15くらい


『名前さん』
『ん?』
『これ、あげます』
『わぁ!綺麗なお花!これくれるの!?』
『はい』
『わぁーありがとう!鬼灯くんってやさしいね!私優しい人だいすき!』
『っ...そ、そうですか...』


『行ってしまうんですか』
『ひっく......っうん...ごめんね......ぐすっ』
『また会えますよね?』
『うええ...わかんないよぉ...』


ふと目を覚ますと、視界には天井と菊の顔があった。
どうやら膝枕をされたまま眠ってしまったようだ。

「...すみません、痺れたでしょう」
「大丈夫ですよ。魘されていましたけど大丈夫ですか?」

そう言って菊は膝に乗っている鬼灯の頭を撫でた。

「......昔の、夢を見ていました」
「嫌な夢ですか?」
「...そうですね、幸せな夢と嫌な夢です」
「幸せな夢を教えてくださいな」
「...女の子に花をあげて、だいすきって言われる夢です」
「あらまぁ。可愛いですね」
「...あと、その女の子とお別れする事になってしまう夢です」
「......それは、悲しいですね」

鬼灯はぼんやりと天井を眺めた。
全て、昔実際にあった事だ。

「...無駄話だと思って聞いて下さい」

鬼灯は昔あった出来事を話してスッキリしてしまおうと、口を開いた。

「好きだったんです、素直で純粋で可愛らしくて。幼いながらも結構本気で好きでした」
「その私に似ているという女の子ですか?」
「そうです。貴女に会うまで正直忘れかけていました。それくらい昔の事です」
「告白はされなかったんですか?」
「しませんでしたね。子供でしたから、意地を張っていました」
「あら...」
「そうこうしている内に、彼女は引っ越す事になってしまったんです」
「...そうなんですか」
「...貴女は、」
「.........」
「名前さん、では...ないんですよね」
「...違います」
「...すみません」
「いえ。...でも、私と関わる事で辛い事を思い出しませんか?」
「そうですね。思い出しますし、何とも言えない気持ちになります」
「...す、すみません...」
「でもそれを分かっていながらも会いに来てしまうんです。どうぞ笑って下さい」
「そんな...笑いませんよ。一途な証拠です」
「貴女は名前さんではないのに、似ているからという理由だけで、貴女で心を埋めようとしている。滑稽ですよ」
「そんな...」

鬼灯は菊の膝から起き上がって、菊をベッドに押し倒した。

「貴女を抱いたら少しは満足するでしょうか」
「...それで満足するのなら、是非抱いて下さい。鬼灯さんのお力になれるのであれば、っん...」

鬼灯は菊が全て言い切る前に口付けた。
唇を食み、舌を絡め、時折舌を甘く吸う。
一通り口付けた後、唇を離して鬼灯は自嘲するように言った。

「見て下さい。顔が似ているからというだけで、ちょっと口付けただけでコレですよ」

鬼灯は菊に硬くなっている自身を握らせた。
菊は上半身を起こして、そんな鬼灯に軽く口付けて頭を撫でた。

「いいんですよ。私をその子だと思って抱いて下さい。気持ちをぶつけて下さい」
「っ......」

鬼灯は言われた通り、気持ちをぶつけるように菊をめちゃくちゃに抱いた。
めちゃくちゃ、と言っても、体に触れる際は壊れ物を扱うかのように優しく丁寧に触れた。
本当に名前を抱いているかのように、大事に大事に。

行為が終わると、鬼灯はやってしまった、とでも言いたげに額に手を当てて項垂れた。
精液の入った避妊具を付けたまま項垂れている鬼灯を見て菊は後処理をしようとしたが、大丈夫です自分でやりますと断られてしまった。

「ただの賢者タイムなので放っておいて下さい、いずれ治ります」

さすがに今のままの格好だと情けないと思ったのか、菊に背を向け後処理をし、深い溜息をついてベッドに潜り込んだ。
鬼灯が腕を菊の方に伸ばすと、おずおずと菊が二の腕に頭を乗せてきた。

「貴女が嫌になった訳ではないんです。自分が嫌になってるんです」
「どうしてですか?」
「他の女性を重ねて抱くなんて男としてどうなんでしょう...女々しい...」
「抱かないで悶々とするより良いんじゃないでしょうか?」
「そうですかねぇ...。男という生き物はバカなので、ヤる前なんて何にも考えてないんですよね」
「私は嬉しかったですよ」
「何がですか?」
「鬼灯さんがやっと私を抱いてくれた事と、愛しい人を抱くように優しくしてくださった事」
「......口が上手いですねぇ」
「本当の事ですよ。女性として相手にして貰えないというのは少し悲しいものがあります」
「そういうものですか?嫌という程男性を相手にしているのに?」
「.........」

菊はその言葉を聞いて少し眉を下げた。

「...すみません、言い方が悪かったですね」
「...いえ。本当の事ですから。...なんて言うんでしょうね、私は女を売るのがお仕事ですから、女として相手して貰えないとあぁ何かダメだったのかなって思ってしまうんです」
「考えすぎですよ。私といる時くらいゆっくりしていて下さい。...先程したばかりで何を言っているんだって話なんですが」
「...いえ。お気遣いありがとうございます。...それと、」

菊は腕を鬼灯の肩に回し少し擦り寄ってから、言葉を続けた。

「鬼灯さん、すごくお上手で...ドキドキしてしまいました」
「...またまた。何を言いますか」
「本当ですよ。身体は嘘を吐けません」

どうせ営業トークだと思いつつ、鬼灯は上手いと言われて少し嬉しくなった自分に心の中で嗤った。

「...なので、もう一回...しませんか?」
「...貴女は男を転がすのが本当にお上手ですねぇ」
「嫌ですか?」
「いいえ。好きですよ、そういうの」

そう言って鬼灯は再度菊に覆い被さった。

「今度はきちんと貴女を抱きます」
「え?」
「名前さんを重ねてではなく菊さん自身を抱きます」
「...嬉しい、です...っん...」

鬼灯は再度壊れ物を扱うかのように丁寧に、今度は好きな女性を重ねてではなく菊自身を抱いた。
ハマり込んでいる自身に気付きつつも、その後通うのをやめる事はしなかった。


過去と現在
(自分でも菊さんが好きなのか名前さんが好きなのかよく分からなくなってきましたねぇ)



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