「鬼灯さん!」

名前は鬼灯を部屋に迎えるなり、鬼灯にぎゅっと抱き付いた。

「会いたかったです...」
「私もですよ。一週間しか開いてませんけど」

しばらく抱き合った後、名前はご飯が出来てますと中へと誘った。


鬼灯は宣言通り、定期的に名前に会いに来ていた。
週に一度、休日丸々使って来るか、休日出勤になってしまっても仕事が終わってから必ず会いに行っていた。
そして部屋でまったりし、ご飯を食べ、イチャつき、飽きるまで名前を抱く。
それが今に鬼灯にとっての唯一の楽しみだった。

そしてそんな噂はすぐに地獄中に広まった。
噂と言うより事実なのだが。

「鬼灯様、現世の人間と付き合ってるって聞いたんですけど本当ですかー?」
「バッカおまえ...!!」

茄子は噂の真偽を確かめるために本人にストレートに聞き、唐瓜がそんな茄子を咎めた。

「ええ、本当ですよ」
「ええーそうなんだー!スゲェー!」
「ほ、本当なんだ...」
「何ですか?本当なら何か可笑しいですか?」
「いっ、いえ...!そんな事は全く...!ただ人間には興味ないと思ってたので...!」
「まぁ、興味ないですね」
「「え...?」」
「名前さんだからですよ。好いた相手がたまたま人間だっただけです」
「.........」
「.........」

唐瓜と茄子はここまで女性を好いている鬼灯を初めて目にしたのか、驚いて声も出ないようだ。

「早くこちらに来てほしいですね」
「鬼灯様が言うと冗談に聞こえないな...」
「冗談じゃありませんから。ガチめにです」
「ま...まぁ...その願いが叶うと良いです、ね...?」
「ええ」

鬼灯は可愛らしい彼女の姿を思い浮かべて、ああ早く会いたいと思うのだった。


だが幸せな日々はそう長くは続かなかった。
ある日鬼灯が名前の家に行くと、いつものように抱き付いてくる事なく、何か言いたげな顔をしていた。

「どうしたんですか?」
「あの...」

名前は言いづらそうに俯いたままもじもじしている。

「あの、ですね......」
「どうしたんですか。気になるので早く言ってください」

名前は意を決して口を開いた。

「......ごめんなさい、別れてください」
「......はい?」
「私と貴方じゃ...やっぱり身分が違いすぎます...」
「.........」

鬼灯は驚いて目を見開いた。
まさか自分とラブラブな名前がそんな事を言うとは思っていなかったのだ。
人間と鬼という関係のことだろうか、名前は身分が違いすぎると言ったが、鬼灯はそれを認めようとはしなかった。

「...分かりました。他に好きな男ができたんですね?」
「えっ...ち、ちが...」
「嘘は地獄では重罪です。知っていましたか?...私は悲しいです、名前さんは浮気なんてしないと思っていたんですが」
「違いますって...!浮気じゃないですよ...!」
「可愛らしい貴女の事です、そりゃモテますよねぇ」

鬼灯は名前の肩を掴み、そのまま部屋まで押してベッドに押し倒した。

「可愛い貴女を誰が人間のオスになんてくれてやりますか。私から逃げられると思わないで下さい」

鬼灯はそ、と名前の首に手を添えた。
死なない程度に力を込めると 名前は苦しそうに鬼灯の手を掴んだ。

「ちがうの...っお願い、違うんです...!私は鬼灯さんの事が好きですけど...でも...っ!」
「うるさいですよ」

鬼灯は弁明する名前を無視して首元に顔を埋め、ガリ、と鋭い牙で噛み付いた。

「いっ...!!」

つ、と噛んだ所から鮮血が流れた。
鬼灯はそれを勿体ないとでも言いたげに舐めとった。

「今後もちゃんと定期的に来ますから逃げないでくださいね」
「っ......」
「怖いですか?顔が怯えてますよ」
「......、」
「地獄の鬼を虜にしたご自身を恨んでください。私だって生半可な気持ちで毎週此処に来ているわけではないんですよ」
「...わ、私、だって...中途半端な気持ちで会ってるわけじゃ...」
「じゃあ身分が違うとかつまらない事言わないで下さい。次言ったらどうなるか...分かりますよね?」

こくこく、と名前は目を潤ませながら頷き、それに気を良くした鬼灯は名前の顎を掴んでキスをした。
そしてそのまま立てなくなるくらい名前を愛した。


そんな日から数日経った頃。

「名前ちゃん、その絆創膏どうしたの?」

名前は仲の良い同僚に声をかけられた。

「あ、あぁ...これ?」

名前は苦笑いをし誤魔化そうとしたが、仲の良い同僚はそれで済ませてはくれなかった。

「なになに〜?キスマーク?例の加々知さん?」
「なっ、なんで私が加々知さんと付き合ってるって知ってるの...!?」
「あっ、当たり?いやぁ〜お互い好きそうだったからいつくっつくのかなぁ〜って思って見てたんだけどまさか本当に付き合ってるとは...」
「ぐ...騙された...!みんなには内緒にしてね?お願い!」
「今日飲みに付き合ってくれたらいいよん」
「うー...わかったよぉ...」
「で?どうなの?」
「...まぁ、そういうものだと思っておいてもらえれば......」
「へぇぇ〜。あの静かそうな加々知さんもそんな子供みたいな事するんだねぇ...。意外とムッツリなのか」
「ムッツリ...なのかなぁ」

名前は毎度毎度来るたびに立てなくなるくらい愛してくる鬼灯を思い出し、ぼっと顔を赤らめた。
あの普段の冷静さを考えれば確かにムッツリなのかもしれないが、性欲は人より何倍もあるのだろうなと思った。
...むしろ人ではないから余計になのかどうか分からないが。

「加々知さんってうちの派遣やめて今何してるの?」
「何...?いや...なんだろうね...?ちゃんと聞いてないや...」

ははは、と小さく笑って名前は誤魔化した。
まさか地獄の鬼でしたなんて言えるわけがない。
言ったとしても変な目で見られるのは名前だ。

「ちゃんと聞いておかなきゃ、将来の事とか考えなくちゃならないでしょ?」
「ど、どうだろうね...?」
「結婚しないの?」
「分かんない...」
「もう名前もそろそろそういう年齢なんだからさ、意識しなきゃ!って、私もなんだけどね〜」

結婚、その二文字が名前の頭の中をよぎった。
戸籍もない鬼灯と書類上で結婚する事はできない。
たかが紙切れかもしれないが、名前にとっては重要だ。
それにたとえ結婚出来たとしても、一緒に住む事はできない。

「(私が死なない限り、永遠に鬼灯さんと一緒になれる事はないんだ)」

その事実に気付いてしまい、名前はとても落ち込んだ。
死を選ぶか、生きて自分の人生を選ぶか。
考えても考えてもその場で答えが出る事は無かった。



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