『今日は午後から雷を伴う大雨となるでしょう。お出かけの際は傘を忘れないよう、ご注意ください。』

ひとりぼっちのリビングで、テレビから天気予報士の声が流れてくる。
名前は焼いた食パンを咥えながらそれをぼーっと眺めていた。
今日もいつも通り学校に行って、いつも通り目立たないように静かに過ごして、いつも通り帰ってきて、いつも通り一人で眠る。
そんな変わらない日常に、唐突に非日常は現れたのだった。


お気に入りの水玉の傘を差して学校を出ると、予報通り天気は大雨で、雷も時々鳴っていた。
学校から名前の自宅へはそう距離はないが、歩いているうちにローファーの中は水浸しになってしまった。
いつも歩いて通る公園へ差し掛かると、ドームの穴の中に誰かがいることに気が付いた。
子供だ。
名前はこんな大雨の中ぽつんと座っていることを不思議に思って声をかけた。

「ボク、どうしたの?」

びくりとその子供の肩が震えた。

「お母さんは?」
「...いません」
「どうして一人でここにいるの?風邪ひいちゃうよ?」
「気付いたらここに...」

子供は小さな声で名前に答えた。

「うーん...警察?が一番いいのかな...」
「けいさつ?」
「うん、おまわりさん。迷子っぽいし...お姉さんもそこまでついていってあげるから」
「そこに行ったら、どうなってしまうんですか?」
「どうなって...?うーん...一旦保護されて親御さんと連絡をとる...?」
「やめてください」
「え?」
「わたしはみなしごです。親はいないんです」
「えええっ!?じゃあたった一人でどこから来たの?」
「わかりません...」

名前は困ったな、と考え込んだ。

「(一体どうして一人でこんなところに?
親がいないということは施設から飛び出してきた?
どちらにせよ警察に連れて行くべき...?)」
「あの、」
「ん?」
「かくまってもらえませんか?」
「えぇっ!?うちで?」
「すみません、ごめいわくだとは分かっています...」

名前の頭の中で幼児誘拐という言葉が過った。
その上名前の家は実家だ。
父も母も一緒に暮らしている。

「それは...よろしくないような...」
「見たことのないものばかりで、身よりもないんです。どうかおねがいします」

真剣そうな目で、じっと見つめられた。

「うーん...まぁ、とりあえず、こんな中話してるのもよくないし...とりあえずうちに行こっか...」

名前はちょっとだけ!濡れてて可哀想だから!と自分に言い訳をし、子供の小さな手を取って自宅へと歩き始めた。
お名前はなんて言うの?と聞くと丁です、と返ってきたので、自分の名前も彼に伝えた。
濡れないように気を付けてはいたが、身長差で濡れてしまったようだ。
名前は自宅に着くと奥からタオルを持ってきて丁の髪を拭いた。

「わっ、自分でできますって...!」
「このままお風呂行っちゃおう、冷えたでしょ」

ひょいと丁を抱っこして風呂場へ連れて行き、服を脱がせにかかると、照れたように抗議の声を上げた。

「やめっ...!自分でぬぎます!」
「一人でお風呂入れる年齢じゃないでしょ?照れないのっ」

わぁわぁと抵抗していたが、中学生の力に敵うはずもなく結局脱がされてしまった。
名前も制服を脱ぎ下着姿になると、丁は更に顔を赤くさせ小さな手で顔を覆った。

「あなたほんとうに女性ですか...っ!」
「失礼ねっ!ほら、中に入る!」

丁の背中を押して風呂場に誘導し、自分も続けて入ってガラガラと扉を閉じた。
シャワーのコックを捻り水を出すと、丁がびくっと肩を震わせシャワーを見た。

「なんですかこれはっ...!?」
「え?シャワーだよ?」
「しゃ、しゃわあ...?」

名前は水がお湯に変わったのを確認してからそっと丁の肩にかけてやった。

「あたたかい...!?」
「そりゃそうよ」

丁は温かさが気持ちいいのかうっとりと目を閉じた。

「(全身洗っちゃおうかな)」

スポンジ越しとはいえ何か泡のようなものをつけて体を撫でてくる名前に丁は最初は本気で嫌がっていたが、抵抗できないと知ると諦めて大人しくなった。

「はい、さっぱりー」
「うう...」

今やバスタオルで拭かれてもされるがままだ。
元の服が濡れていたので名前の小さめのTシャツを着せてあげたが、やはりサイズはぶかぶかでワンピースのようになってしまった。
両親にバレないよう靴と衣服を回収し、自分の部屋へと案内した。
丁を可愛らしい柄の座布団に座らせると、キッチンから温かいお茶を持ってきて出してあげた。

「それで、結局どこから来たの?」
「村にいたはずなんですが...急にいしきがとおのいて...」
「村?」
「気が付いたら大雨の中たおれていて...安全そうな穴の中にひなんしました」
「穴...あのドームね。うーん...これからどうしたらいいのかなぁ...」
「ここは私の見たことのないものばかりですし、まるで夢を見ているかのようです」
「(見たことのない??)」

幼いから...?とも思ったが、この年齢で外に出てことがないとは考えられなかった。
シャワーにびっくりしていたところにも違和感を覚える。
この年齢でお風呂を知らないわけがない。
よく小説を読む名前は仮説である答えが浮かんだ。

「まさか、タイムスリップとか?ははは、まさかねー」
「たいむすりっぷ?とはなんですか?」
「違う時代から違う時代へと飛んできちゃう、みたいな?」
「...あながち間違ってはなさそうですね...」
「...だよねぇ、そんな感じする」

何かにいちいち驚くこともそうだが、丁が元々着ていた服を見てもそんな感じはした。
そう考えると身寄りがないのも納得だ。

「そんなことって本当にあるんだねぇ...」

名前は少し考えた後、丁にこう言った。

「帰れるまで、うちにいてもいいよ」
「本当ですか!?」
「ただし、うち両親も住んでるから...バレないようにしてほしいの」
「わかりました」
「両親が帰ってくるのは夜遅いから、それまでにお風呂とご飯を済ませて、両親は1階で寝てるからトイレは2階を使えばバレないし...寝床は...」

名前は部屋を見渡した後、物がほとんどないクローゼットを見つけた。

「狭くて申し訳ないけど、クローゼットに使ってない布団を敷いて寝てもらうって感じになっちゃうけど...いいかな?」
「もちろんです!ありがとうございます!」

ぺこりと丁は頭を下げた。

「大丈夫だよ。早く帰れるといいね」
「はい」

そうして丁と名前の秘密の生活が始まった。



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